第7話

 


「ワタシとしては圧倒的に海路をオススメ致します。陸路、ベルゼルトンを突っ切る方法ですと、あの国で入国料の他に入領料というものを何度も徴収される事になり何度も足止めをくらいますのです、ハイ! 領地によってバカ高い金額だったりするなんともがめつい国なのですベルゼルトンは!」


 主人にがめついって言われるんじゃ相当だな、ベルゼルトン!

 …ってベルゼルトンってそんな国だったんだ⁉︎

 他国のことは俺わかんねーしなぁ…。


「なるほど確かに面倒そうだな。…海路は?」

「は、海路は我が国の港町ラベ・テスよりベルゼルトン港、トゥルードゥを経由してグリーブト港、イヴィブのルートとなります。…ただ、陸路ほど快適な旅にはならんと思いますし、やはりベルゼルトンで一度入国料が取られますな〜」

「…どんだけ金とんだよベルゼルトン…」

「あの国は今一部で内紛が続いておるのです、ジョナサン王子! ですから取れるところ…つまり我々のような奴隷商人の旅人からたらふく巻き上げようという魂胆なのでございます!」

「………呆れたものだ、まだ人間同士で戦争してるのか」


 …内紛…そうか、あのペゴルが連れていたお嬢様奴隷ってそこで負けた家の…。

 見境ないな…。


「そ、それとグリーブトはこことは真逆の気候です…お体には十分お気をつけを!」

「僕らは大丈夫だよ、ありがとう。でもハクラがな…」


 俺の格好といえばフレデリック様たちに買ってもらった薄手長袖のシャツと通気性のいいズボン…。

 ん、ンン、極寒の国って言われてるグリーブトに行くなら確かに不安!


「それにグリーブトに行くだけなのにベルゼルトンで割食うのもな…飛ぶか?」

「…そうだな…挨拶も済ませたから別にもう、この大陸で魔法を使えることを隠す必要はないし…」


 意外とあっさり解禁⁉︎


「…長距離バスとか、船も技術力を見たかったから乗っても良かったんだけど…奴隷たちのことを相談しに割と早急に帰りたいしね。飛ぼう」

「と、飛ぶ…!」


 飛ぶって、飛ぶってなんだその夢の詰まった言葉…!

 もしかして、もしかして飛行機に…⁉︎


「…お目目キラキラさせてるとこわりーけど、お前が考えてるようなもんではねーぞ、確実に」

「!」


 あっさり心読まれた!

 魔法⁉︎ それも魔法⁉︎


「ボルネ、他に気をつける事はある?」

「先程申した通りベルゼルトンは内戦中でございます。それに伴い国境付近は一部で閉鎖されておりますです。グリーブトはベルゼルトンと不仲炸裂ですから他国から来る者はかなり厳重に監視をします。監視係と呼ばれるものを付けさせられて、常に同行させられますな」

「え、なにそれうぜえ」

「うぜぇですが、監視係がいない者は他国からのスパイとして見なされ下手したらその場で処刑です!」

「うわ、乱暴だなぁ…。監視係がいないとグリーブトではまともに動けないという事か」

「ワシ、いや、ワタシの知り合いの奴隷商人に連絡しておきましょう! 金づるが行くと言えばそれに見合った様な金に汚い腐った監視係を連れて来るはずです!」

「……こ、個人的にはお知り合いになりたくない感じだけど、し、仕方ない…」


 主人のどーしょもねぇ人脈がこんなところで役に立つ日が来るなんて…。

 ま、まぁ仕方ねぇか…。


「…ありがとな、主人! なんか思った以上に色々教えてもらった!」

「…いいや、そもそももう、誰にも話すことなんてないと思ってたからな…。…これも運命ってやつなのかもしれん…」

「確かに不思議な縁かもしれないね。けれど、ここで終わりというわけではない。明日、グリーブトに発つよ。ニーバーナ王の居場所を探るのには火山から龍脈を辿るのが一番手っ取り早いからね」

「…んじゃ、後のことはおっさん頼むわ。…ニーバーナ王の件が片付いたら、一回寄らしてもらうからさ」

「畏まりました、お待ちしております。…どうかお気を付けて…。…ハクラ、お前もな…」

「う、うん…」


 複雑そうな顔してるけど、俺の方こそ複雑だっつーの。

 フレデリック様が部屋の氷を消して、外に出てから主人と別れた。

 主人はこれからこの会場に残された奴隷の買い占めだ。

 俺たちは宿に帰る。

 明日に備えて、ってやつだ。





「!」


 宿に着いてすぐ、フロントの前に見知らぬ金持ちが仁王立ちしていた。

 なんで金持ちってわかったって?

 金持ちは大体用心棒を三人くらい連れ歩いてるからだよ!

 くすんだ金髪と、豪勢な服もそれを激しく主張してるしな!

 誰?

 フレデリック様たちを見つけると、にんまりと小ぎれいな顔を歪ませる。

 なんかやばそう。


「やあ、先ほどはどーうも! 僕はリーバル・ルム・グリーブト! グリーブトの王子様やってまーす」

「…⁉︎」


 さっきの扉の前の声の…!

 グリーブトの、王子!


「どうも。…何か御用かな?」

「ふふふ、やだな、分かってるくせに…。さっき部屋ですごく面白そうな話ししてたじゃないか。聞いちゃったもんねー、僕」

「!」


 盗み聞きしてたの王子様かよ…!


「次は僕の国に来るんでしょう? それならご招待するよ〜、これから帰るところだし、君たちも乗せてあげる」

「……聞いていたのなら分かるでしょう? 我々は自国だけ助かろうとする者は助けないよ」

「勿論、聞いてたから知ってるよ。…それよりこの大陸そのものがやばいって話し。まあ、正直信じられないけどね〜。地震が頻発してるのは本当だし…もしかして、君たちが話していたこと本当だったりしてー、なんて、思ってたりするんだよ僕は」

「…それで?」

「詳しい話を聞きたいな、と思ってね。扉越しじゃよく聞こえなかったところもある。君たちは『人道的立場』からなら協力はしてくれるんだろう? 協力して欲しいな〜、情報提供っていう協力を」

「構わないよ。信じるか信じないかは君の自由だ。それを他の二カ国に共有するのかも、ね」

「ふふふ、さすが話のわかる王子様だ。勿論、分かってるよ〜」


 …あれ…なんか、二人の間にばちばちとした仄暗いものが見えるような…?


「…俺たちは部屋で先に休ませてもらうぜ、フレデリック」

「うん、おやすみ二人とも」

「え!」

「行くぜ。“大人の話”はてめーにはまだ早い」

「…う…」


 高度な政治の話ってやつか…確かに俺なんかにはまだ全然分かんない、と思う。

 あとなんかめっちゃ空気悪い…。

 あれがグリーブトの、王子様…フレデリック様ともヨナとも全然タイプが違うな。

 一言で言うとキモい。


「…なんか久しぶりに厄介なタイプだな」


 部屋に戻っての第一声がそれって…。

 確かにキモい感じだったけど。


「やばいの?」

「エグさならフレディも負けてねぇよ」


 自分の兄貴をエグいって…。


「切れたりはしねーだろうけど、フレディがあんまり好きなタイプじゃねーからな…」

「フレデリック様、本当に結構沸点低いしな」

「んー、そう言う意味じゃあねぇんだが…。お前、あの部屋から細長い奴隷商人がどうなったかは見てただろう?」

「…う、うん」


 俺を攫ったことをフレデリック様から咎められ、裁かれた。

 命は取られなかったけど、ああなると奴隷商人だろうがなんだろーがこの後の人生は地獄だ。

 生き延びられても奴隷だろう。


「…それを見た上でフレディに…いや、俺らに普通にあのテンションで話しかけて来るやつとか、まともだと思うか? …俺は思わないね…。そんな奴との交渉だ…お前や俺はつい余計なこと口走っちまうかもしれねぇからな…少しでもリスクは減らした方がいいだろう?」

「ん、た、確かに…。…でもヨナも?」

「こういうことに関してはやっぱフレディの方が慣れてるからな」


 …外面的な意味でか…!


「…それになにより…」

「…?」

「面倒だが明日フレディを叩き起こさなきゃならなくなるかもしれねぇ。魔法の準備しとかねーと」

「……………」


 フレデリック様を起こす魔法って、準備いるんだ…⁉︎






 ********




 翌朝。


「起きろ」

「あう」


 早!

 俺より早いなんて…。

 頭をガシガシ掻きながら時計を見ると朝五時過ぎ。

 んん、いつも通り…。


「意外と普通に寝こけやがって…」

「? …! フレデリック様は⁉︎」

「とりあえず徹夜してもらったわ。…機嫌はあんまり良くねーけど」


 お、おおう…。


「話し合いどうなったの?」

「情報提供と引き換えにグリーブトでの自由行動を許可、だとさ。まぁ、他にも色々話し合ったみてぇだが…細かい政治の話、お前興味ある?」

「ある!」

「マジか。…まあ、だとしてもとりあえず着替えて飯食いに行くぞ。なにより、フレディの機嫌取りはお前の仕事だ」

「いつの間にか難易度の高い仕事増えてる⁉︎」


 …まあ、でも料金を考えるとそのくらいはやらないと、かな?

 着替えてヨナとフレデリック様の部屋に行く。

 ノックして入ると、成る程機嫌悪そう…。


「…おはよう、二人とも…眠い…」

「今日は頑張れ。お前が寝ると確実に半日動けねぇだろう?」

「…こういう時体質が恨めしいよ。…そうだ、ハクラ朗報だよ。グリーブトまで飛行機に乗って行くことになったから、今日から飛行機移動だよ」

「…え?」


 …え?

 え、ちょっと待って。

 入って早々…え? え? え???


「飛行機…?」


 飛行機って、飛行機って、空飛ぶ…あれ?

 え、うそ、待っ…待って…いきなり、そんな…!


「飛行機⁉︎」

「グリーブトまでね。…ただし、リーバル氏の物だから彼も一緒だよ。…約二十四時間の空旅だってさ」


 にこり。


「………わ、わぁい…(ヤベェこえぇ…)」

「…………(喜びがめちゃくそ半減してらぁ…哀れだ…)」


 夢だった飛行機!

 飛行機に、乗れる!

 …でもリーバル王子と一緒に丸一日一緒って…ヤベェ、つれぇ…。

 す、素直に喜べない…。

 でも、飛行機は本気で嬉しい…!

 だ、だってずっと憧れてたんだぜ⁉︎

 乗れるなんて思ってなかった!

 ……でも、リーバル王子と一緒か…。

 フレデリック様のこの表情から考えてもやっぱヤベェ人に違いねぇ。

 いや、けど! 飛行機!

 ぬあぁあ! この複雑な感情〜!


「…多少は信頼出来そうな奴なのか?」

「あはは、本気で聞いてるのかいヨナ?」

「いやあんまり」

「…とんだ曲者だろうね。まあ、うちの国ですら政治に関わるものはロクでもないのが多いけど…あれは別格だ。王子であれじゃあ国王はさぞやって感じ。…お前がハクラと早々に部屋に引っ込んだのは大正解だよ」

「…やだなぁ…そんな奴と丸一日一緒かよ…つれぇ…」

「二人は出来るだけ彼とは話さない方向で頼むよ。言葉端から変なことになりかねない。…いいかい、ハクラ」

「わ、分かった!」


 そ、そんなにやばい人なのか。


「…飛行機ねぇ…。移動手段を握られるのはなんか怖え気もするけど」

「彼は僕らが単身飛行可能だなんて知らないだろう。万が一の時は逃げればいいさ」

「……」


 大分物騒な話ししてるのはなんとなくわかる…。

 う、うわぁ…俺もなんか不安になってきたんだけど…。

 やだなぁ…。





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