量産型スモウ・レスラーSM-00RKSの最期
綾繁 忍
第1話 捨てられるでごわす
「わ……わしはもう駄目でごわす……体が、溶けて……」
「諦めたら駄目ごわす! みんなでこの川を……何とかするでごわす!」
二千年以上も昔、この国が凶作に見舞われた折、時の最高権力者は二十一の神住まう社へ勅使を派遣し、加護を祈念することで、翌年の豊作を実現したという。その際に行われたのがスモウであり、この西暦3125年のネオ・トーキョーのリョウゴク・サンクチュアリにおいても一大エクストリームスポーツとして隆盛を誇っていた。
しかし政情不安を背景に加速度的にタニマチ達の要求水準は上がり、現在ではもはや生身の人間には応えることのできない激しさへと至っていた。そこで登場したのがクローン・力士である。
身長2.5メートル、体重480kgを誇るクローン・力士、『スモウ・レスラー』は科学の申し子だ。度重なる遺伝子操作によって強化を施された肉体に、サイバネティクス技術による機械化を施されたスモウ・レスラーはもはや歩く要塞と表現して差し支えない。そんな彼らが、狭く区切られたドヒョウ・フィールドの中で激しい攻防を繰り広げるのだ。徹底的なカスタマイズを施されたスモウ・レスラー達はバンヅケと呼ばれるランキング・システムによって管理され、人々の尊敬と畏怖の眼差しを一身に受けていた。
しかし、それもスモウの中でも最も華やかなランクでの話でしかない。このネオ・トーキョーのスモウの裾野は広く、貧民層が見ることができるのは画一的な外見をした量産型スモウ・レスラーのトリクミだけであった。それでも企業にとってはマーケティング上重要な事項として位置づけられていたらしく、クローン・力士を始めとしたバイオケミカル製品を扱う国内最大手企業であるカクリキ重工は定期的なクローン・力士のシリーズ刷新を行っていた。
そういう事情であったので、数百体に及ぶ量産型スモウ・レスラーSM00-RKSの一斉在庫処分が決まったのも、やむを得ないことではあった。
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