1月4週目 後編1

「あー……やっと終ったな……」




疲れた様子で新幹線に乗り込む俺と西野。




「そうだなー。これでやっと森田さんに会えるな!」


ニカッと白い歯を見せながら笑いかけてくる西野。




「ま、まあそうだな……これからのことを考えると正直憂鬱なんだがな……」




「それは仕方ねぇ!ま、当たって砕けてこい!」


そう言うとバシッと背中をたたいてくる。




「……砕けたら困るんだが……」




「そんなことは分かってるよ!そういう気概で行けってことだよ!」




「そうかよ……まあ、そうなったら骨は拾ってくれ……」




「おう!任せておけ!」


ドンッと胸をたたく。




あれから音信不通だし、どんな顔して会えばいいんだ……


俺はそんなことを考えながら、目的地に到着するまで緊張の面持ちを浮かべているのだった。




☆☆☆




新幹線は順調に進み目的の駅に停車する。




「さっ!着いたぞ!」


相変わらずテンションの高い西野に引きずられるようにして下車する。




「もう帰りか……憂鬱だ……今日はもう直帰でいいんだっけか?」




「ああ、そのまま帰って大丈夫だ」




「そうか……それじゃあ、帰るとするよ。」




「おう!それじゃあな。森田さんの機嫌直せるように頑張れよ」


最後に西野からそう励まされ俺は帰路へとつくのだった。




スマホをみて時刻を確認する。普段ならもう家にいる時間だ。


返事が返ってくるとは到底思えないが一応千咲に連絡してみる。




『今から家に帰る。そっちはどうだ?』




しばらく待ってみるが、返事はない。


「ま、それもそうか……とりあえずあいつの部屋に行ってみよう……」


俺はそんなことを呟いて歩きはじめる。




どうやって誤解を解こうか……連絡もまともにとれないのに会いに行って大丈夫なんだろうか……そんなことを悶々と考えていると気が付けば家についてしまっていた。




エントランスに立ち


「よし……とにかく当たってみるしかないよな……」


頬を軽く叩き気合を入れなおすと千咲の部屋へと向かう。




そして、千咲の部屋の前に着くと


「スーハー……スーハー……」


深呼吸をしてインターフォンを押す。




”ピンポーン……”




しかし、どれだけ待っても反応がない。


不審に思った俺は、もう一度鳴らす。


それでも、中からの反応はない。




「なんだ……まだ帰ってないのか……?」


そう呟いた途端


”ピロン!”


スマホが鳴る。




慌てて画面を見るとそこには、千咲から1件のメッセージと表示されていた。


ほぼ1週間ぶりの連絡に胸の高鳴りを感じながら開くと、そこには


『お疲れ様です。いつものところで待ってます』


と簡素な文章が送られてきていた。






そして、それを読んだ瞬間俺は走り出していた。


いつものところ、と言われればもちろんあそこしかない。




階段を1段飛ばしで駆けあがる


「はぁっ……はぁっ……」


久しぶりに走った影響からか、簡単に息が上がってしまう。




そのまま自分の部屋の前に着くと勢いよくドアを開く。




そして目の前に飛び込んできたのは、エプロンを身に着けた千咲だった。




その姿を見て、安心感からか頭の中で考えていたことが吹き飛んでしまい


「あ、あの時はっ……」


うまく言葉が出てこない。




そんな俺の様子を見て、千咲はニコリとほほ笑んだかと思えば


「お疲れ様です先輩!ここで話すのもなんですし、ご飯食べながら話しませんか?」


とお皿に載った料理を見せながら、今まで通りの態度をとってくるのだった。

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