1月2週目 後編
西野に千咲の情報をもらう約束をした翌日、俺は緊張した面持ちで千咲の帰りを待っていた。
「はぁ……西野にはなんとかしてみると言ったものの、正直全然なにも対策が思いつかない……どうしたらいいものか……」
『好きな人 目線合わせられない 対処法』
などと検索してしまう始末である。
そこには、”思い切って恥ずかしいことを伝えてみよう!”などとも書かれていたが、こんなことを伝えたら俺の好意がバレてしまうのではないか、や好意がバレることで千咲が離れて行ってしまうではないかと考えてしまう。
「はぁ……まあやれるだけやってみるか……」
そんなことをポソリと呟いた途端ガチャリと扉が開く。
「お邪魔しまーす!お疲れ様です先輩!」
元気な挨拶をしながら千咲が入ってくる。
その様子をみてつい一瞬前まで、頑張ってみようと思っていたのにも関わらず
「お、おう。お疲れ……」
そっぽを向きながら不愛想な挨拶をしてしまっていた。
自分の情けなさに憤りを覚えながら、千咲はきっと不機嫌になってしまっただろうとチラリとみるとそこにはなぜかニヤニヤと笑う姿があった。
昨日までなら、なんでそんな態度をとるのかと詰め寄ってきていたのにも関わらずそんな態度を取られては少し拍子抜けしてしまう。
「お前なにかあったのか?昨日までだったらそんな態度じゃなかったような気がするんだが……」
なおもニヤニヤし続ける千咲を不審に思い問いかけるも
「いえ!なにもないですよー!そんなことよりも先輩はお風呂入ってきちゃってください!」
と誤魔化されてしまい、結局理由を知ることはできなかったのだった。
☆☆☆
風呂から上がると毎度の通り、いい匂いが部屋に満ちていた。
「いい匂いだな。今日は何なんだ?」
「ふふーん。今日は先輩が以前好物だって言っていたものです!」
「お、ということは?」
「はい!から揚げです!なんだかんだで忙しくて作れていなかったので」
「おお、それは楽しみだ」
「はい!もう少ししたらできあがるのでちょっと待っててください!」
「ああ。了解だ」
しばらく待っているとホカホカと湯気を上げたから揚げが大皿に盛られて出てきた。
「おお……うまそうだ……」
「はい!それじゃあさっそくいただきましょう!」
「「いただきます」」
早速から揚げに箸をのばす。
「そんなに慌てなくても逃げませんよ!」
千咲はなだめるように言ってくるがそういう訳にもいかない。
久方ぶりの手料理でのからあげを一心不乱に食べ進めているとあることに気が付く。
「ん?中に大きさが違うものがあるんだな」
「あっ!それはつくり方が違うんです」
「作り方が違う?」
「はい!こっちの小さいから揚げはころもを片栗粉だけで揚げてあるんですけど、大きいほうは片栗粉だけじゃなくて卵と酒でとろみのあるころもを作って、それで揚げているのでサイズが大きくなるんですよねー」
「へー。そんなのもあるのか」
「そうなんですよ。私も大学生時代に友達に教えてもらったんですよね」
「なるほど。さっそく食べてもいいか?」
「どうぞどうぞ!」
促されるまま口に運ぶ。そして、アッと驚く。
「なんだこれ?」
いままで食べていたから揚げと比べるところもが肉厚でジューシーさが増していた。
噛むたびに卵と肉のうまみが口いっぱいに広がりこれまたビールと白ご飯が進む。
「おいしそうに食べてもらえてうれしいです!ちょっと思ったんですけど、先輩はなんでそんなにから揚げのが好きなんですか?」
「うーん……味もそうだが、強いて挙げるなら子供時代の思い出だな」
「子供時代の思い出ですか?」
「ああ、母親が誕生日になると必ず作ってくれてな。思い出補正もかかって好きなのかもしれない……」
「分かります!思い出の味だとさらにおいしく感じますよねー!ちなみに先輩の誕生日っていつなんですか?」
「ん?俺は5月の末だが……そういう千咲はいつなんだ?」
「私ですか……?」
なぜか急に言い渋る千咲。
「ん?なにか言えない事情とかあるのか?」
「あ、いえ。そういう訳ではないんですけど……時期が悪いと言いますか」
「ん?どういうことだ?」
「いえ……実は来週なんですよ誕生日」
「えっ?」
その事実をようやく理解し始めた時
「いや、ホントに!急かしてるとかそういう訳じゃないですから!プレゼントとか用意してもらわなくて大丈夫ですから!」
慌てた様子で必死に言いつくろう千咲。
そうやって必死に千咲が言いつくろっていた時、顔には出していない(と思いたい)が俺も内心かなり焦っていた。
(いやいやいや……あいつはああ言っているが、なにも用意しないわけにはいかないだろ……ていうか何も言わずに選んだほうがいいのか?ほしいものを聞いたほうがいいのか?)
どうすればいいのか分からなくなりパニックになった俺は急いで西野に相談しなくては……と考えるのだった。
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