1月2週目 中編 千咲視点

高杉と西野が密会を開いていた時、同様に千咲もとある人物と会っていた。


場所は千咲の自宅である。




「おじゃましまーす」




私はおずおずとした様子で入ってきた人物にヒシッと縋りつく。


「優華聞いてー!」




「これお土産……ってもう、なんなのよー」


優華は、迷惑そうでどこか嬉しそうな表情を浮かべて見つめてくる。




その状態のまま移動して居間の床に座る。


テーブルの上にはすでに千咲の作った料理が用意してあり




「相変わらずおいしそうね……とりあえず一旦落ち浮いてご飯食べよ」




「う、うん」




「いただきます……」「いただきまーす!」


対称な挨拶をして食べ始める。




しかし、一向に手を付けない千咲をみて、優華が切り出す。


「それで今日はどうしたの?まあその感じだと例の先輩絡みなんでしょうけど」




「う、うん。そうだけど……なんで分かったの?」




「そりゃわかるわよ。そんな不安そうな顔してればね。で、何かあったの?」




「あのさ……最近先輩が冷たいの……」




「冷たい?例えば?」




「話してても全然目線を合わせてくれなかったり、ちょっと近づいただけで大げさに避けられたりしてて……いままでそんなことなかったんだけどなぁ……」




「うーん、それは何か心境の変化がないとそんなことにはならないわよね……心当たりとかはないの?」




「それが全くなくってー!いつも通り接してるだけのつもりなんだけど……気づかないうちに何かしてたのかな?優華の彼氏さんは付き合う前とかにそういうことなったりした?」




「私の場合はそんなことなかったなぁ……」




「えー!じゃあ嫌われちゃったってことなのかな!?そんなの私耐えられないんだけど……」


悲痛な面持ちでそう言うと




「力になれなくてごめんね……なにか手助けできればいいんだけど」


そう言って伏目がちになった途端、


ピロリン!


優華のスマホから通知音が鳴る。




「あ、彼氏からだ」


嬉しそうな表情を浮かべるとスマホを操作し始める。




そんな優華を横目で見ながら思わず意地悪を言ってしまいたくなる。


「へー!お幸せようでいいですねー!私がこんなに悩んでいるっていうのに……」




「すねないでよー!ほら、これみて元気出して!」


そう言って差し出されたスマホには眠っている先輩の姿があった。




「えっ!?なにこれ!なんで優華が先輩の写真持ってるの!?」




「ん?だって私の彼氏千咲の会社の人だし」




「えっ!なにそれ聞いてないよ!ていうか誰!?」




「西野大智って名前なんだけど聞いたことある?」




「えええ!優華の彼氏さんって西野さんだったの!?」




「あれ?言ってなかった?」




「うん!彼氏できたってしか聞いてないよ!まあ、写真見せてとか言わなかった私も悪いんだけどさ……」




「ごめんねー!言おうと思ってたんだけど、忘れちゃってた!」


ペロッと舌を出してそんなことを言ってくる。




「そんな大事なこと忘れないでよ!」




「まあ、でもこれはポジティブに考えればチャンスなんじゃない?」


優華にそう言われてハッと気が付く。




「そっか!優華経由で西野さんから先輩の話聞けるもんね!」




「ご明察!そして愛しの先輩は私の彼氏と飲み会してるみたいよ」




「そっかー。今日は西野先輩と飲みに行ってたんだ。安心した……」


ホッと胸をなでおろす。




「うんうん。それとこの事実はモチベーション上がらない?」




「え?どゆこと?」




「えー。前話したじゃない。ダブルデートしようって。このメンバーで行ったら絶対楽しいと思わない?」




「確かにー!それ絶対楽しいよ!」


とたんに自分でもわかるくらいにテンションが上がる。


そしてそんな状況を想像して


「うん!やっぱり私先輩とお付き合いしたい!」


フンス!と意気込む。




「そうそう、その意気だよ!それに先輩は千咲のことを嫌ってるわけじゃないかもしれないし!」




「ん?どういうこと?」




「いやー、照れ隠し?とか好き避けとかじゃないかなって思ってさ」




「いやいやー。さすがにそんなわけないって!」


そう否定した時先輩のとある発言を思いだす。




『二十代後半にもなってモテた試しがない』


モテるの定義は人によるから何とも言えないけど、もしかしたらもしかするかも!




優華からすれば思い付きの発言だったかもしれないが、そういう目線でみると辻褄が合う。




そのことに気が付いた瞬間


「まあそうだよねー!」


アハハと頭を掻く優華に抱き着いていた。




「ちょ!いきなりどうしたの千咲!?」




「ありがとー優華!」




「ど、どういたしまして?っていったい何があったの?」




「ううんなんでもない!でもありがとう!優華に話したら気が楽になったよ」




「そっか……それならよかったよ」




「よーし!そうと分かれば明日からはエネルギーが必要になってくるぞー!最近食べられなかった分今日は食べまくってやる!」




これからも今まで通り押しまくってやると決意した私は、ペロリとご飯と優華の持ってきてくれたお土産を食べるのだった。

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