1月1週目 後編

「3、2、1。明けましておめでとうございます!」


時計を見ながらカウントダウンをしていた千咲はちょうど時間になったタイミングでこちらを向き挨拶してくる。




「明けましておめでとう」


千咲につられて俺も挨拶する。




「ふふっ。私、年越しを旅行先で過ごすなんて初めてなんですよねー!先輩はどうですか?」


嬉しそうな表情を浮かべて見つめてくる千咲。




「ああ……俺も言われてみればそうかもしれないな」




「そうですか!じゃあおそろいですね!先輩は私と年越しを過ごせてよかったですか?」




「ん?まあ、こういうのも悪くないなとは思うが」




「そうですか、それならよかったですー。それと、私は先輩と過ごせて嬉しかったですよ!」


と顔を赤くさせながらそんなことを言われてしまい、こっちまで照れ臭くなってしまう。




「お、おう」


そうしてぶっきらぼうに返事するしかできなかった。




それが千咲にも伝染してしまったのか


「あ、じゃじゃあ私友達にメッセージ送ってきますので……」


と恥ずかしそうにしながらスススと別室に入っていくのだった。




先ほどの食事の事件からなんとなく意識してしまっていた俺は今までにない感覚に戸惑ってしまい


「なんなんだよホントに……」


と頭をガシガシと掻くのだった。




☆☆☆




朝日がうっすらと出てきたタイミングでのそりと起き上がる。


あれから千咲の事を悶々と考え続けてしまい結局ほとんど寝ずに朝を迎えてしまっていた。




「あー、頭いて……」


寝不足と思ったよりもお酒を飲んでしまったせいか、頭痛がひどい。




居間で俺が寝て寝室で千咲が寝ることを事前に決めていたため千咲の様子は分からないが、どうやら寝ているようだった。




「とりあえず風呂にでも入ってサッパリするか……」


俺はそう呟くと温泉に向かった。






温泉から上がり部屋に戻ると居間に千咲の姿があった。


「早起きだな、まだ5時台だぞ」




「あ、おはようございます先輩。なんだかあまり寝付けなくって……ていうか先輩だって起きてるじゃないですか、お風呂ですか?」


寝起きということもあるのか、どこか間の抜けた表情をしている。




「ああ、俺も目が覚めてしまって今戻ってきたところだ……」




「そうですか……あ、そうだ。まだ朝食までに時間あるので少しお話しませんか?」




「ん、なんだ改まって?まあいいが……」




「ありがとうございます。それでお話したいことなんですけど、あの返事を聞かせてもらえないかと思いまして……ていうか覚えてますよね?」


少し自信なさげな様子で言われて少し前に千咲とした話を思い出す。




(そういえば千咲に毎日飯を作りに来ていいかと言われていたんだった……)


「ああ、もちろん覚えている。俺の気持ちとしてはそうしてくれるのはありがたいが……」




途端にパアッと表情が明るくなりがバッと顔を上げる。


「じゃ、じゃあ!いいってことですか!?」




しかし、それを遮るようにして俺は話し出す。


「が、俺とお前との間柄で毎日俺の家に来るっていうのはちょっと違うと思うんだよ」




「な、なんでですか?」


先ほどから一転して暗い表情を浮かべる。




「なあ、俺たちの関係ってなんだ……?」




「えっ!それは会社の先輩と後輩ですよね?」




「そうだ。だからこそ、それだけの関係で毎日飯をつくりに来るってのはおかしいんじゃないか?まあ、いまさら何言ってるんだって話ではあるが……」




それを聞き千咲は押し黙ってしまう。


「「…………」」


しばし沈黙が流れる。




「……お話はわかりました。先輩はいまの私たちの関係性のいびつさが気になるってことですよね……」




「ああ、俺も今の生活には満足しているし感謝している。無理にこの関係に名前を付ける必要はないと思う。ただ、俺がこの提案を受け入れてしまえば今まで通りの先輩後輩には戻れないがそれでいいのか?」




真剣なトーンでそう言うとなぜか千咲はにっこりと微笑む。


「なーんだ、先輩はそんなことにビビッてたんですか?そんなの決まってます……私は最初からそのつもりでしたよ!」




「おい、それはいったいどういう……」




詳しく聞こうとするも遮られ


「大丈夫ですよ先輩、安心してください。私が先輩の元から離れるなんてことは絶対にあり得ませんから!」


ビシッと指さしてきたかと思えば、俺が今一番聞きたかった言葉をかけてきたのだった。




その言葉を聞いて驚くほど気持ちの整理がついた俺は


「そうか。それじゃあ、これからもお願いしていいか……?」


と口に出していた。




それは無意識に発せられたものだったが、ちゃんと千咲には届いていたようで


「はい!これからもお任せください!」


とニコニコしながら言ってくるのだった。




☆☆☆




あれから温泉を楽しみ、俺たちは帰路についていた。


早起きがあだとなったのか電車に揺られながらウトウトしている千咲を横目でみながら俺は考えに耽る。




あの時の千咲の言葉を聞いて、気持ちの整理がついたとの同時にあることに気が付いた。




……




……俺はおそらく千咲のことが”好き”なんだろう……




……


しかも俺の勘違いでなければ、あいつも俺のことを少なからず意識してくれている様子である。




好きな人に好きになってもらった経験がほとんどない俺にとってこの気持ちと状況をどう対応したらいいのかわからない。




しかし、いつかかならずこの気持ちを伝えようと決意するのだった。

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