12月3週目 後編 千咲視点
恍作が美月と食事をしていた時、千咲は学生時代の同級生ととある用事で会っていた。
待ち合わせ場所でしばらく時間を潰していると、少しウェーブがかった茶髪を揺らしながらこちらに走り寄ってくる人物が見える。
「ごめーん!お待たせ千咲!」
この子は、松本優華まつもとゆうか私の高校時代からの親友で私の数少ない心を許している人物の一人である。
「全然大丈夫!私もさっき着いたとこだし」
「ほんと?それならよかった!で、どうしたの急に呼び出して?その表情だと困りごとって感じじゃないね、もしかして男かー?」
ウリウリと茶化すように肘でつついてくる。
「えっと……そ、それは……」
事実先輩のことで相談しようとしているため図星を突かれてしまい答えに窮してしまう。
すると優華の先ほどまでのニヤニヤが止み急に真顔になる。
「え?ほんとにそうなの?」
「う、うん……実はそうなの……」
「えー!学生のころからモテるのになんでか付き合わなかったあの千咲が!?なんだか嬉しい!それでどんな人なの?会社の人?それとも社外の人?」
と次々と矢継ぎ早に質問される。
優華のテンションについていけない私は、どの質問から答えればいいか困ってしまう。
「えーっと……会社の人で……」
「会社の人なんだ!先輩?同期?ていうかゆっくり話聞きたいし早く予約したご飯屋さん行こう!」
私はハイテンションの優華に引きずられるようにしてお店に連れていかれるのだった。
☆☆☆
「へー!そんなことがあったんだ!てか結構千咲も攻めたねー」
一通り今までの経緯を話し終えると開口一番そんなことを言われる。
「う、うん。看病したりデートしたり、私なりに頑張ってみたんだけどね……先輩には全く響いてないみたいで……」
自分で言っていて虚しくなってまいどこか遠くを見つめてしまう。
「うーん。そこまで押してもダメなんてほんとに大丈夫なの?」
「し、失礼だよ!鈍いけどまともな人だもん……」
「ま、話聞いてる限り悪い人ではなさそうだから安心したよ」
「うん!鈍いけど気も遣えるしぶっきらぼうに見えて優しいところもあって、それでねそれでね……」
先輩を認めてもらえた喜びから思わず饒舌になってしまう。
「先輩がいいってことはわかったから。で、今日の目的はなんなの?話を聞いてほしいだけって訳ではなさようよね」
すると、優華が私の会話に割って入り話題を変えてくる。
「あー。実はその先輩のことで相談に乗ってほしくて」
「ん?なになに?」
こちらに身を乗り出すようにして話を聞いてくれる。
「あのさ……男の人ってクリスマスに何あげれば喜ぶのかな?」
「あっ、思ってたよりもマイルド」
「え?なにがマイルドなの?」
「あーいや……こっちの話だから気にしないで」
「そう?話し続けるね。それで彼氏のいる優華がどういうのあげるのか教えてもらいたくて……」
「なるほどねー。それで連絡してきたわけだ」
「うん……こんなの聞けるの優華しかいなくて……」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの!よし!わかった!私に任せなさい!」
そう言いエヘンと胸を張る優華。
「ほんとに!ありがとー!」
「いいよいいよこれくらい。大切な親友の恋だもん!全力で応援するよ!それじゃあ、早速リサーチしないとね!先輩の好きなものってわかる?」
そう言われて思い返す。好きな食べ物や趣味の話はしたけどそれ以外だとあんまり知らないかも……
「うーん……あんまりそんな話してないんだよね……カフェに行くのが好きとは言ってたけど……」
「カフェかー。それだけだとなかなか分からないな……」
「ごめんねー。こんなことならもっとリサーチしておけばよかったー」
「仕方ないよ、初恋なんだし!ま、切り替えて先輩に意識してもらえるようなプレゼント選ばないとね!」
「うん。ありがとう!私頑張るね!」
そう言いガッツポーズを見せる。
その私の行動に満足したのか、優華は嬉しそうな表情を浮かべて頷く。
プレゼント探しがんばるぞ!そう意気込んでスマホを取り出すといきなり振動する。
画面を見るとそこには先輩の名前が表示されていた。
普段先輩からメッセージが送られてくることなどほとんどないためすぐに返信しようとメッセージアプリを開く。
「んん?もしかして愛しの先輩からですかー?」
横から優華が茶化してくる。
「ちょっとやめてよー」
のぞき込んで来ようとする優華を腕で制しながら画面を見つめる。
そこには私の予想外のことが書かれていた。
『来週の集まりもなしでいいか?』
「えっ……?」
思わず声が漏れてしまう。
「ん?どうしたの千咲?」
「えっと……この場合はなんて返事したらいいのかな……?」
困ってしまった私は思わず優華に頼ってしまう。
「あー。これは……ちょっと貸して」
そう言って私のスマホをひょいと取り上げると操作し始める。慌てて止めに入ろうとするがどうやら遅かったらしい。
「よし!これで完成!送信っと」
私が見たときには送信は完了しており、既読マークもついてしまっていた。
『えっ!?なんでですか?できれば来週は断っていただきたいです……なにか絶対に外せない用事なんですか?』
私からの返信(優華作)にはこうかかれており、これでは私が先輩に好意を持っていることが伝わってしまうのではないかと心配したが、優華には
「大丈夫大丈夫!これくらいしたって気づかないよ」
と言われてしまい、喜んでいいやら悲しんでいいやら分からない感情になった。
さらにその後も優華はスマホを返してくれず勝手に返事をしていたが、最終的にはなんとかクリスマスは一緒に過ごすことを約束できたようだった。
そしてため息交じりでスマホが返却される。
「やりとりして思ったけど……この人相当鈍感ね……」
「分かってくれる?優華」
「想像以上よ……こうなってくると、相当分かりやすいものプレゼントしないと千咲の気持ちに気づいてくれないと思うのだけど……」
「薄々そんな気はしていたけどやっぱりそうなんだね。それで、分かりやすいプレゼントって何かな……?」
「うーん。いろいろあるけどやっぱりペアのものよね!」
「ペ、ペア!?」
「なに驚いてるのよ!それくらいしないと気付いてくれないよ!」
「うーん……でもこれで関係が悪くなるかもしれないし……」
「何弱気になってるの!こういうイベントでさらにアピールしないと他の人に取られるかもしれないんだよ!」
その優華の言葉で弱気になっていた私の心に小さな火が灯る。
(優華の言う通りだ……グズグズしてたら先輩が他の人の恋人になっちゃうかもしれない!)
「そうだよね!私もう少し頑張ってみるよ!」
「うん!その意気その意気!」
「なんだか優華に相談したらウジウジしてたのが馬鹿らしくなっちゃった。プレゼントはペアのもので先輩にも喜んでもらえるものを自分で探してみることにするよ」
「うんうん。それがいいよ。相手のことを想ったプレゼントなら絶対に喜んでもらえるよ!」
「わかった!本当に参考になったよ!ありがとう!」
「ううん。私も千咲の恋応援したいし困ったことがあったらいつでも連絡してきてくれていいから!」
「ほんとに?助かるー!やっぱり持つべきものは親友だー!」
テンションが上がってしまい思わず優華に抱き着いてしまう。
「千咲の恋が実ったら私と一緒にダブルデートしようね!」
「うん!分かった!それが実現できるように私頑張るね!」
その後2人で、ダブルデートの妄想話で盛り上がり夜は更けていくのでした。
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