12月4週目 前編
本日は12月24日、クリスマスイブである。
街はイルミネーションで彩られ、行きかう人々もどこか浮かれた様子が見て取れた。
しかし俺は、絶賛一人で帰路についている最中である。
まあ、社会人。特に俺のような人間にとっては特に何の変哲もないだたの平日なのだが、今年は少し違う。なぜか会社の後輩とクリスマスを過ごすこととなったのである。
俺のほうが先に仕事が終わったようで、買い出しを提案しする。
『俺終わったからもう帰るな。買い出しとか必要か?』
『お疲れ様です!いえ!準備してあるので今日は大丈夫です』
『そうか、了解』
『はい!私も終わらせてすぐ帰りますので今日はお酒も待っててください!』
しかし、なにか計画があるようで断られてしまった。
「なにか俺にできることがあればと思ったが、必要ないみたいだな……てか、せっかくのクリスマスなのにあいつ俺なんかと過ごしていいのか……」
正直それだけが心配である。
社内外問わず人気のあるあいつはたくさんの人から食事やパーティーのお誘いがあり、それを断っているのだろうと考えると申し訳ない気持ちになってくる。
「ほんとなんでこんなことになったんだろうな……」
俺はそんなことを呟きながら、煌びやかな街の中を通って帰っていくのだった。
☆☆☆
「ただいまですー!お待たせして申し訳ないです!」
ガチャリと扉が開き千咲が入ってくる。
「ああ、お疲れ様。てかすごい荷物だな……」
千咲が両手に持った荷物を見ながらつぶやく。
「いやー、ちょっと張り切りすぎちゃいまして……」
てへへと頭をかく千咲。
どさりと荷物を置き俺の方に向き直る。
「それじゃ、先輩は飾りつけお願いしてもいいですか?私料理の準備しますので!」
「それは分かったが、飾りつけってなにすればいいんだ……?」
「じゃじゃーん!これです!」
そう言って取り出したのはコンパクトなサイズのクリスマスツリー。
「これに飾りつけお願いします!飾りはこの袋に入ってますので」
どうやらあの大荷物は飾りと食材だったようだ。
「なるほど、やってみるよ」
「はい!お願いしますねー!」
千咲はそう言うとキッチンに立ち、料理に取り掛かり始める。
俺も千咲にならって飾りつけ始めるのだった。
☆☆☆
「よし。こんなもんでいいだろう……」
やっと飾りつけが終わった俺は一息つく。
すると千咲がピョコリとキッチンから顔を出し。
「あっ!終わりました?私もちょうど終わったので料理運びますねー!」
「おお。わかった」
そうして千咲の運んできた料理をみて思わず声を上げる。
「おお。今日は一段と豪勢だな」
その内容は、煮込みハンバーグ・ラザニア・コーンスープという、どれもクリスマスを感じさせるメニューだった。
「はい!なんて言ったって今日はクリスマスのですからね!普段よりも腕によりをかけて作りました!」
エッヘンと胸を張り自信ありげな表情をする。
「うむ。いい匂いだ……」
「今回もいい感じにできました!冷めないうちに食べちゃいましょう!」
「そうだな」
二人そろって手を合わせる。
「「いただきます」」
早速メインのハンバーグを頬張る。
すると中にチーズが隠れていて、あふれ出る肉汁ととろけるチーズが絶妙に合わさり口いっぱいにうまみが広がる。
「おお。うまい」
「ほんとですかー!よかったです!じゃあこれもどうぞ!」
そう言い千咲がラザニアを取り分けてくれる。
「ああ、ありがとう。これもうまいな」
「ほんとですか?あーよかったー!初めて作ったのでお口に合うかちょっと心配だったんですけど……」
「そうなのか?そうは思えない出来だぞ」
「いやー、そこまで言われると照れちゃいますね……」
「いや、これだけじゃなくて他の料理もほんとにうまいよ。まあ、誰かと二人でクリスマスを過ごすのが初めてだからかもしれないが……」
「えっ!?そうなんですか?」
俺のそう言うと途端にニヤニヤとしだす千咲。
「なんでちょっと嬉しそうなんだよ……」
「ええっ、そんなことありませんよー!いやでも、そっか、そっかー先輩はこうやって異性と過ごすのは初めてなんですねー!」
何がそんなに嬉しいのか、ニコニコしながらこちらを見つめてくる。
「そういうお前はどうなんだよ……?」
「えっ!?気になっちゃいます??気になっちゃいます??」
「なんかそう言われると聞く気なくなるな……もうどうでもよくなってきた」
そう言うと不機嫌になり唇を尖らせてくる。
「むぅ!なんでそんな態度取るんですかー!?私のことにもちょっとは興味持ってくださいよ!」
「……」
少し面倒に感じ無視を決め込むと、俺の肩を揺さぶりなおも抗議してくる。
「興味持ってくーだーさーいーよー」
ガクガクと揺さぶられ続けていると、このままでは拉致が開かない……そう感じ折れてしまう。
「はぁ……わかったよ。お前はどうなんだ?」
するとパァッと嬉しそうな顔になり
「もちろん私も初めてですよ!ていうか、異性と2人きりでクリスマス過ごすこと自体生まれて初めてです!」
と食い気味に答えてきた。
「えっ、そうなのか……人気者のお前のことだからお誘いとか多いと思っていたが……」
「先輩は私のことなんだと思ってるんですか……男性とお出かけしたことなら何回かありますけど、こんなに距離の近い異性は先輩が初めてですよ!よかったですねー」
とニコニコした笑顔をこちらに向けてくる。
思わずその表情にドキッとしてしまった俺は感づかれないようにそっぽを向く。
しかし、正面に座る千咲には気づかれてしまったようで。
「あれー?先輩照れちゃったんですかー?」
と茶化してくる。
これ以上はまずいと感じた俺は、なにかこの状況を打開できる手立てはないかと辺りを見渡す。
すると、部屋の隅に置かれた包装袋を見つける。中には俺から千咲に渡す予定をしているプレゼントである。
正直打開できるほどのものでは無いかもしれないが、話題ぐらいはそらせるだろうと考えその包装袋に手を伸ばしたのだった。
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