12月2週目 前編
エレベータの扉が開き一階のエントランスに着く。
今日はこれから珍しく予定が入っており、集合時間間近であるためすこし急ぎ気味に出口に向かう。
するとそこには見知った人物の姿があった。
その人物は俺のことを見つけると、笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
「せーんぱい!お疲れ様です!今日の忘年会はもちろん参加ですよね?」
「……まぁそうだな。うちの会社、そんなに飲み会もないしこれくらいは参加しておいたほうがいいと思って。で、お前は何してるんだこんなところで?」
俺の言葉を聞き千咲はムッと頬を膨らましてくる。
「なんなんですかその態度!先輩のこと待ってたんじゃないですか!」
「じゃないですかって……そんなこと言われても知らなかったし」
「知らなくっても私がこんなところで待ってるんですから、そこは察してくださいよ!もういいですさっさと行きますよ!今日は飲みすぎないでくださいね」
そう言うと、歩き出す。
「ああ。もちろんだ……あんな経験はもう二度とごめんだからな」
思い返せばあの飲み会からなにもかもがおかしくなったのだろう。
あのころの俺にいまの状況を話しても信じてはくれないだろうな……
「ほんとに気を付けてくださいね!違う部署なので最初の席は離れてるらしいですけど、私が行くまで酔っぱらわないでくださいよ!」
ビシッと指さしてくる。
「お前の助けなどいらん……まぁ助言通り今日は抑え気味にするが」
「絶対ですからね!ていうか、嫌がっても私先輩のところいきますから!」
「そうかよ……もう好きにしてくれ……」
その目を見ていつも通り流されてしまうことを悟った俺は半ばあきらめ気味にそう呟くのだった。
☆☆☆
そんなことを話していると目的地に到着する。
「ここですね!じゃ、入りましょっか!」
そう言い俺を連れて入ろうとする千咲。それに嫌な予感を感じた俺は立ち止まる。
千咲は不思議そうにこちらを振り向く。
「どうしたんですか先輩?なにかありました?」
「い、いや。ちょっと待て、俺とお前が同時に入ったら怪しまれる。先に入っててくれ」
「考えすぎですよ!大丈夫ですってー」
そう言い俺の手とると取り引きずるようにして店に入っていく。
「わ、わかった。わかったから、手だけ放してくれ」
「ちぇっ、わかりましたよー。あっ!この部屋ですね。お先にどうぞー」
千咲は少し残念そうにそう呟く手を放す。
そして扉を開け中に入る。もうすでに会は始まっていたらしくガヤガヤと騒がしい。
俺の後に続いて入ってきた千咲は早速他の社員に見つかり、部署の席に座らされていた。
俺なんかと比べて本当に人気があるんだな……それなのになんで俺なんかにあんなにかまうんだろうか……
そんなことを考えながらキョロキョロとあたりを見回すと、西野の姿を見つける。どうやら飲み会があまり得意ではない俺に気を遣って隅の席を確保してくれていたらしい。
「すまんな。席確保しといてくれたみたいで」
西野に話しかけ、正面に座る。
「おお、高杉か!遅かったな!」
「ああ。ちょっと今日中に片付けときたい仕事があってな」
「なるほど、お前が時間かかるなんて相当面倒な仕事やったみたいやな」
「いつも言っているが、お前のその俺に対する過大評価はどうにかならんのか」
「そんなこと言われてもなぁ……俺からすればこの評価は間違ってないと思うが」
「間違ってないってお前なぁ……」
普段はそんなことないのに、この話に関してはやりづらいな……そんなことを考えながらビールを口に含む。
すると、西野はあたりを確認して
「よし。誰も聞いてないな……」
とそんなことを呟いたかと思えば
「ま、その話は置いといて!」
西野がニコニコしながらこちらに顔を寄せ小声になる。
「お前森田さんとどこまでやった?」
いきなりのその発言に
”ブフー!”
思わず飲み物を吹き出してしまい、思い切り西野の顔にかかってしまう。
「ちょ、汚いなぁ……」
「す、すまん。しかし、いきなりなんでそんなこと聞いてくるんだよ……」
「いやー。前高杉から電話かかってきて以来、その話するタイミングがなかったやん。だからずっと気になってたんよ!あんな意味深な電話してきたってことは、なんかあったんだろ?」
そう言われて思い返す。
そういえば千咲と初めて出かけたときに電話かけて以来その話をしていなかった。
「そういうことか……まぁ残念ながらお前の思っているような関係じゃないぞ」
「ん?何だその言い方。完全に否定しないあたりなにかあったんやな?」
変に鋭い西野は痛いところを突いてくる。
「うっ……」
「その反応……やっぱり何かあったんやな。詳しく聞かせてくれよ」
ニヤニヤしながら俺の反応をうかがう。
「いや……俺の判断だけで話するはちょっと……」
「じゃあ今すぐ森田さんに確認してくれ」
ジーッと俺の目を見つめ、有無を言わさないその態度にたじろく。
しかし千咲同様その態度に負けてしまい
「わ、わかったよ……」
しぶしぶスマホを取り出しメッセージを送る。
『西野に俺たちの関係について話していいか?』
「あいつも飲み会参加してるから返事来るか分からないぞ」
「いいよいいよ。そうなったらまた今度聞くし!」
笑いながら酒をあおる。
まあこんだけ騒がしかったら通知音なんて気が付かんだろう……
そんな淡い期待をしていたが、それはものの見事に砕け散る。
『西野先輩だったらいいですよー!』
「はぁ……なんでなんだよ……」
その返事にため息をつきながら頭を抱えていると、西野が横から俺のスマホを取り上げ画面を見る。
「おっ!森田さんからの許可おりてるやん!じゃ、遠慮なく話してもらおうかな」
と絶妙にイラつく表情を浮かべながら話をきく体勢になる西野。
「はぁ……なんでこんなことに……」
俺は今日何度目かもわからないため息をつきながら、いままでの経緯を西野に話し始めるのだった。
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