リトルウィッチ・アンドロボ 〜女神の娘は魔道機械《ロボット》と共に『クジラが空を泳ぐ国』や『聖女が闇に堕ちた国』など、個性的な国々を巡る旅に出る〜

レンga

眠らない国

第1話 ルカとクラリス


「ねえねえ、クラリスー」

「どうかいたしましたか?ルカ様」


 ひゅーんと、風を切ってホウキが森の上を飛んでいる。

 そのホウキの柄の先には、淡い水色の長髪に、つばの広い魔女帽を被った少女がまたがっていて、すぐその後ろに横乗りする形で、銀色の髪をショートヘアに切り揃えた女性が座っていた。

 クラリスと呼ばれた女性が、少し前のめりになって、自身がルカと呼んだ少女の横顔に視線を向ける。


「わたし、気づいちゃったんだけどね」

 ルカは自分が飛ぶ先を見つめながら、後ろに座るクラリスに言葉を投げかけた。

「この森、どこまで行っても終わんない気がするの」

「そうですね、私もなんだかそんな気がします」

 クラリスは淡々と、言葉を返す。

「あ、やっぱり?」


 ルカがホウキの柄の先を少し手前に引くようにすると、スーッとホウキが静止する。

 眼下に広がる森は、緑が濃く、生えている木の種類もほぼ均一だった。特徴があるとすると、所々で火の手が上がっているくらいか。

 ホウキが止まっているこの隙にと、クラリスはホウキにぶら下がったカバンの中から黒いカチューシャを取り出し、それを頭につけた。

「なんかクラリス、今日印象違うなーって思ったら、それつけてなかったんだね」

「うっかりしてました。せっかくルカ様から頂いたものですのに」

 なんて会話をしながら、2人は森を眺める。

 火の手が急速に広がっている。誰かが火をつけたのか、それとも自然発生したものなのか。

 いずれにせよ、そこから立ち上る黒煙は煙たく、2人はさっさとここから立ち去りたいという事で意見が一致していた。


「えっと、ねえクラリス」

「なんでしょう」

「次の目的地って、なんてとこだったっけ」

 ホウキをゆっくり旋回させながら、ルカは高度を少し下げた。

「眠らない国、と呼ばれる場所があると、行商の方が教えてくださいましたね」

「眠れない国じゃなくて?」

「いえ、眠らない国です」

 ルカはうーんと腕を組み、ホウキを手放しで旋回させ続ける。黒いローブが、風になびいた。


「困ったなあ」

「何が困ったんです?」

「もうすぐだと思って、前の国で買った果物を全部食べてしまったの」

「ルカ様はおバカですね」

「こら、クラリス」

「失礼しました」


 じっくりと見て回っていると、クラリスが何かに気づいたようで、ルカに静止を呼びかける。

「ん、どしたの?何か見つけた?」

「北の方角に誰かいるようです。妖精族のようですが……」

「え、全然見えない。やっぱり古代のメイドロボは一味違うね」

「元メイドロボです」

「もうロボじゃないんだっけ?」

「メイドじゃないんです」

 そんなふざけた会話をしながらも、ルカはホウキに魔力を込め、クラリスの言う方向に全速力で飛んでいく。

 これまでこの森の上を飛んでいた限り、誰かがいる気配も、何もなかった。

 だからこそ、まあ森が燃えていても誰もいないのなら問題ないだろうと考えて、通過を目的にしていたのだけれど、人がいるのなら話は別だ。


 立ち上る黒煙をいくつか切り裂き、しばらく進むと、森の中から妖精族の少女が弱弱しく真上へ飛んで来ているのが分かった。ほとんど意識もないようだ。

 少女のすぐそばまでホウキを寄せると、クラリスがその少女を空中からすくい上げ、優しく抱いた。

「大丈夫ですか?何があったんです」

 背の小さなルカの、そのまた半分くらいの大きさしかない妖精族の少女は、クラリスの硬い胸に抱かれながら、ゆっくりと息を引き取った。


 2人はお互い目を合わせて、その少女が元居たであろう場所へと、勢いよく降下した。






────────────────



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ルカとクラリスの旅の続きが

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