「早くしてくれ」

「よく頑張るな人間よ。やはり、頭がキレる。楽しいぞ!!」

「俺は全く楽しくねぇよ。さっさと死ねやくそ悪魔が」


 明人は体力の限界も近づき、最初はギリギリだったとしても避けきれていた攻撃も、動きが鈍くなり始めかすり始めた。固定しているとはいえ、聞き手は折れており痛みが浮上してきた。


 逆にベルゼは最初と変わらぬ動きで、余裕そうな笑みを浮かべながら大鎌を振り回している。

 体全体を使い振り回しているため、一撃がとても大きい。風を切る鈍い音が明人の耳に聞こえ、一度でも食らってしまうと終わりだと。自然と頭を過る。


「これで終わりだ人間よ!」


 横一線に大鎌を振るベルゼの攻撃を、明人は後ろに避ける。


「っ!?」


 だが、体力の限界で足に力が入らず、膝がガクンと崩れてしまった。体が傾き、力が抜ける。目の前から降り下がってくる大鎌の先。左手に持っているナイフで受け流そうと前に出した瞬間、彼の隣から猛スピードで迫ってくる影に抱えられる。それにより、明人は肩を掠る程度で済んだ。


「なっ、おい!!」


 ドサッと、音が響く。明人が体を起こし、横を見ると。そこには力尽きたファルシーが、明人に手を回しながら地面に倒れていた。

 右腕を支えながら彼は、汗を流し膝から崩れ落ちてしまったファルシーに手を伸ばす。

 体を揺さぶり起こそうとすると、瞳を閉じていたファルシーが目を開ける。


「人間よ。音禰ちゃんは、自身の寿命と引き換えに弓を打っていわ」


 その言葉に、明人は眉を顰める。


「一本放つ事に一年、寿命を消費しているわ。それは本人も了承済み。でも、あの子の寿命がいつまでかは把握出来ていないの。言っている意味は、貴方なら分かるわよね?」


 ファルシーは弱ってしまい立つ事すら出来ない状態だが、目だけは力強く明人に向け、訴えるような口調で言い放った。


 音禰の寿命がいつまでか分からない。もしかしたら、近々音禰の寿命が尽きてしまう可能性がある。

 放つ事に一年という事は、放つ度。自身の死を覚悟しなければならないという事。

 それは精神的にも肉体的にも苦しい。


 それでも音禰は明人の為、弓矢を放ち続けていた。


「正直、私はどうでもいいの。あの子がどうなっても。それはあの子の意思だから構わないわ。でも、貴方は違うでしょう? 早く何とかしなければ、あの子はどんどん弓矢を打ち続けるわよ」

「それを俺に言うな。言うならあいつに言いやがれ」


 明人が言うと、ベルゼがつまらないというように冷めた目で二人を見る。


「なぜ邪魔をする、堕天使よ」

「当たり前でしょう。私は貴方が嫌いだから邪魔をするの。見ているだけで吐き気がするわ」


 限界に近い体にムチ打ち、フラッと明人から離れ立ち上がる。音禰も弓を構え、タダではやられないという意思を向けていた。

 そんな二人を見て、明人は下唇を噛みカクリに目を向ける。いまだ目を閉じているカクリは動く気配がない。


「早く、早く…………」


 明人の小さく弱々しい声は、ベルゼの冷ややかな言葉によりかき消されてしまった。


「立っているだけで精一杯の貴様に、我がやられると思うか!!」


 怒りの籠った声と共に、彼は右手を腕ごと上に振り上げた。すると、地面から複数の棘が現れた。


「っ、立ち止まるな動け!!」


 明人が叫ぶが遅く、ファルシーの腹部に深く突き刺さる。


「ぐっ!!」

「ファルシーさん!!!!!!」


 血があふれ出る。目を大きく見開かれ、引き抜こうと棘を両手で掴む。だが、振るえ力が入らず、意味はない。


 ファルシーに突き刺さった棘は、音禰の声に答えるようなタイミングで動き出し、地面へと戻る。支えがなくなったファルシーの身体は、抗う事なく地面に落ちた。


 音禰はファルシーに近づこうとするが、棘が邪魔をし進む事が出来ない。


「邪魔をしないで!!」


 叫び、膝を付き弓矢を構える。根本を絶とうと、ベルゼに向けて放つ。


「キャッ!!」


 手を離した瞬間、棘が音禰の手に当たる。カランと音を立て、弓が落ちてしまった。だが、先ほど放った弓矢は真っすぐベルゼへと向かって行く。その弓矢を、ベルゼは簡単に避けた。


 明人は今のベルゼに対し、何か違和感を覚え眉を顰める。


「なんでベルゼは、音禰の弓を避ける必要がある。治癒能力は高いはずなのに」


 明人はベルゼの行動一つ一つに疑問を抱き、そこを追求するように細かい部分までしっかりと見て、思考を巡らせる。

 

「堕天使も、さすがにもう動かぬな、ここまでか。まぁ、ここの力も影響しているのだろう。やはり、つまらんな」


 ベルゼが次に目をつけたのは、明人の横に立っていた音禰だった。


「次は、その女だ」


 冷たく無表情で言い放たれた言葉に、音禰は顔を青ざめ身体を震わせる。

 これが本当の死。そう思わせるような空気に彼女は何も出来ず、落ちた弓矢すら拾う事が出来ず、その場で立ちつくしてしまった。

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