「見つけた」
ガシャ……ガシャ……
小屋の奥にある洞窟。その奥から金属が擦れるような音が響き渡っていた。それだけではなく、人の声も一緒に聞こえる。
「っ、なぜこんな事をする。貴様は何を考えておるのだ!!!」
洞窟の最奥、カクリは黒い鎖で両手両足を壁に繋がられ、身動きが取れない状態になっていた。それだけではなく、目にも黒い布が巻かれているため、何が起きているのかわかっていない。
「そう喚くな。そんなに時間はかからん」
カクリの質問に答えたのは、明人に大怪我をさせ彼を連れ去った、悪魔のベルゼだった。
彼は今、地面に自身の血を使い魔法陣を書いている。
その魔法陣は真陽留が書いていたものと同じだが、大きさが倍になっており、地面の半分以上が埋め尽くされていた。
「時間などどうでも良い。なぜ明人にあんな事をしたのか聞いておるのだ!!!!」
「そんな怒らなくても良いだろう。お主も同じ所に連れて行ってやる。貴様の力を頂いた後に──な。まぁ、あの男は色々してきているから、閻魔様が地獄に落としているところだろう。あの男と共に居たければ、地獄へ招待するぞ」
楽しげに笑いながら、ベルゼは口にする。
魔法陣を書き終わった為、指にあった傷口を簡単に塞いだ。指から垂れていた血は無くなり、傷跡すら残っていない。
「明人はそう簡単に死なぬ」
「明人という人物は確かにそう簡単に死にそうにないな。だが、それ以前にあやつも脆い人間だ。人間が直ぐに死んでしまうのは、お主も分かっているだろう」
ベルゼの言葉に、カクリはすぐ返答できなかった。
人間が脆いというのはわかっている。だが、それでも明人はまだ生きていると信じていたい。死んでしまったと思いたくない。
カクリは歯を食いしばり、ベルゼを精一杯睨んだ。
「それでも、私は信じておる。あやつは死なん」
「信じるのは勝手だが、絶望して力を暴走させるのはやめておくれよ。この洞窟でも崩れてしまう」
ベルゼはカクリの前に浮いている、光り輝く丸い水晶玉を見ながら言った。
その水晶玉は、この林に張ってある結界の媒体となるもの。それだけではなく、ここの空間は魔力の巣窟。
レーツェルの強い魔力がここに集束されており、膨大な力が溢れている。
ここにいるだけで力が増幅する感覚があり、ベルゼは口角を上げ、楽しげに水晶玉を撫でていた。
「この力。あの化け狐は本当に神様なのか。それとも──いや、今はどうでも良いな。あの
彼はカクリの方に顔を近づかせ、耳元で囁くにように言葉を伝える。
「貴様の力全て、我に寄越せ」
「何を──」
カクリはなんの事か分からず疑問を口にしようとした時、ベルゼが左手を胸あたりに添えた。
「さぁ、我のために死んで貰おうか」
「っ!! 何を──がっ!? な、やめっ──」
カクリは何をされているのか分からず、ただ胸元辺りに走る鋭い痛みだけを感じた。洞窟には、カクリの悲痛の叫びが鳴り響く。
「寄越せ、我に、お前の力を!!!」
「がっぁぁぁあああ!!!!」
ベルゼは左手で無理やりカクリの胸元を切り裂き、中に突っ込む。血飛沫が舞い、ベルゼの顔や体を赤く染めていく。鉄の匂いが徐々に広がり、この狭い洞窟内を埋め尽くす。
それでもベルゼは笑みを浮かべ、口角を上げながら奥へと突っ込む。カクリは痛みで叫び暴れていたが、鎖で繋がれているため、ガシャガシャと鉄の擦り合う音が響くのみ。なんの抵抗も出来ない。
カクリの体の中をまさぐっていたベルゼは、何かを見つけ、先程より口角を上げ呟いた。
「見つけた──」
「っ!!!」
ガバッと、明人は何かを感じ飛び起きた。
明人は今ソファーの上で寝ており、床には真陽留。壁によりかかりながら寝ているのは音禰だった。
ファルシーは寝なくても問題ないため、一応小屋の外でベルゼが襲ってこないか見張っている。
なにか不吉な予感が頭を走り、再度寝ようとはせずソファーから降り、小屋のドアを開ける。外は暗くなっており、月明かりがこの林を照らしていた。
そんな中、空に浮かぶ月を見上げながらファルシーが上空に浮いており、白い翼が月光を反射し、キラキラと光っていた。
上を見上げているファルシーの瞳も光っており、見続けてしまう。
「──あら、まだ寝ていてもいいわよ。月がまだ光り輝いている。この時間は人ならざる者の時間。人間である貴方はまだ活動しない方がいいわ」
横で立っていた明人に気づき、妖艶な微笑みを浮かべ振り返る。その笑みを向けられた彼は、面倒くさそうに頭を掻き、彼女に近付いた。
「うるせぇわ。俺も人ならざる者に近いんだ、別に構わねぇよ」
「そうね。貴方はもう人間と呼べる存在ではない。まぁ、今はそんな事いいわね。それで、貴方はなぜこんな時間に?」
ファルシーは彼に近づきながら問いかけた。その姿が月明かりにより綺麗に照らされ、まるで蝶のように軽やかに舞っているように見える。
明人の目の前に止まり頬に手を添え、ファルシーは優しげな笑みを向けながら顔を近づけた。お互いの吐息が当たるほど近いが、距離など気にせず、ファルシーは話し出す。
「何か不安があるのかしら? 私に教えてくれない? 貴方の気持ち、本心を──」
ファルシーは甘く美しい雰囲気を醸し出し、彼の頬を撫でる。
どちらかが動けばお互いの唇がぶつかってしまいそうな距離。そのような行為をされている明人だったが、表情一つ変えずに微笑みかけている彼女を見て、口を開こうとした。その時──
「何をやっているのですか?」
女性の怒り声が、この月明かりが照らしている林に、響いた。
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