「かもしれない」
「本当にムカつくなお前」
「おいおい。俺が美しすぎるからって惚れんじゃねぇぞ。男なんぞ願い下げだ」
「僕だってごめんだよ!!」
明人は呪いがどれだけ進んでいるか確認するため、上の服を脱ぎ床に置いた。
今の状態は酷く、体の半分以上が黒く変色しており、呪いが明人の全てを蝕むまでそう時間がかからない状態になっている。
呪いの証である紋章が、今も紫色に輝き続けていた。
「酷い状態だな」
「辛いから当然だろ。…………だいぶ広がってんな」
服を脱ぎ、自身の体を見る明人。もう背中だけではなく、お腹や胸辺り、腕までも呪いで黒くなっていた。
「どうするのだ?」
「そうだな……。カクリ、黒と記憶の小瓶を真陽留と二個ずつもって来い」
いきなりの言葉に、真陽留とカクリはお互い顔を見合わせる。反発したい気持ちがお互いにあったが、今は時間がないため我慢し言う通りにした。
棚から言われた物を手にし、明人に見せた。
「これでいいのか?」
「あぁ」
二人が持ってきた小瓶を受け取り、明人は中を覗き込んでいる。何を見ているのか二人には分からないため、何も言えず黙ったまま彼の次の行動を待っていた。
「────これしかねぇか……」
明人は二つあるうちの一つ。黒い想いが入っている方の小瓶を床に置き、手に持っていた記憶の小瓶の蓋を開けた。そして、もう一つの黒い小瓶も開け、何を思ったのか記憶が入っている小瓶へと移し入れてしまった。
「なっ。何をしている明人よ!!」
カクリは慌てて止めようとしたがそれを彼が制止し、確認するように小瓶の中を覗き込む。
真陽留は何も分からずただ見ているだけで、カクリは驚きで目を丸くし明人を見上げてる。
「やべ、入れすぎた。…………もう少し……」
なにかを調整しており、次は少しずつ記憶が入っている小瓶の中身を入れ始める。
「何を考えている。教えてくれ、明人よ」
不安げにカクリは問いかけるが、集中しており聞こえておらず、黙ったまま調整をし続けている。
「────こんなもんか」
五分程で調整は終わり、綺麗に輝いていた液体は黒く濁ってしまい光を失ってしまっていた。
今まではそのような状態になるのを避けていたのだが、なぜか今回。記憶の欠片をいきなり黒く濁らせてしまった事に、カクリは困惑しっぱなしだ。
「明人よ、何故だ。なぜそのような事をした!!」
怒りが含まれている言葉に、明人はやっと口を開き二人に伝えた。
「この液体を飲む。そして、内側から浄化する」
「「────は?」」
明人の端的な説明を聞いた二人だったが、よく意味が理解出来ず首を傾げるしかない。
その二人を明人は面倒くさそうに顔を歪め、視線を送った。
「はぁ。簡単に言いすぎたか。今受け取った記憶の欠片をそのまま飲めば、浄化は確実に出来るだろう。だが、人の記憶が入ってくる訳だからどうなるかわからん。なら、少しでも記憶の要素を薄くするため黒い液体を混ぜたんだ。料理と一緒だろ」
「絶対に違うだろう!!!」
「お前はいっつも変な事を考えるな!?」
二人はやっと明人のやらんとした事が理解でき怒りの声を上げ、真陽留は彼の両肩に手を置き揺さぶっている。
「これが一番手っ取り早い」
「早いかもしれぬが成功確率は低いだろう!!」
カクリは混ぜられた液体の入った小瓶を取ろうと手を伸ばしたが、明人の方が早く取られてしまう。次に真陽留が奪い取ろうとするも、それを読んでおり簡単に腕だけで避けられてしまった。
「やるしかねぇんだよ。それに、呪いを解かねぇと死ぬ。呪いを解いても死ぬかもしれない。なら、”かもしれない”に賭けるしかねぇーだろ」
彼はもう決意を固めている。カクリと真陽留が何を言ってももう意味は無い。それを悟った二人は、顔を見合せ難しい顔を浮かべ俯く。
その間、明人は服を再度着て小瓶をゆっくりと振っていた。
「……何を言っても聞かないんだな」
「あぁ。てめぇらの言う事なんて聞くわけないだろ」
「そうじゃないだろ!!!」
明人のいつも通りの返答に、逆に力が抜け。真陽留は頭を抱え、カクリは顔を青くして大きなため息を吐いた。
「………………なら、必ず呪いを解くのだぞ。約束だ。絶対だ」
「んなもん分かるか。約束なんてな、破るためっ──ウィッス」
明人はだるそうに口を開いたが、カクリは言葉の途中で手を伸ばし彼の左手を握った。その顔はベルゼなんかより何倍も凶悪そうな悪魔のようになっており、真陽留は油汗を流し、明人も最後まで言葉を繋げる事が出来ず頷いた。
「なら、早くしよう」
「へいへい」
すぐに悪魔の形相がなくなり、いつもの無表情へと戻る。
「なら、飲むぞ──おっとそうだった。カクリ、お前は俺が小瓶の中を飲み干したのと同時に力を使い、俺から想いの欠片を取り除けよ。それと同時に呪いも一緒に浮きでるはずだ」
ついでというようにカクリに言い放つ。その言葉を理解するのに数秒かかってしまったカクリは、目を丸くして彼を見ているしか出来なかった。
「……なっ」
カクリが理解したのと同時に、明人は小瓶の中にある想いの欠片を飲み干してしまい、口元を拭う。
さすがに最後の言葉は真陽留も予想外だったらしく、目を丸くして彼を見続ける。
「ふぅ、マッズ……。おい、何を惚けてやがる。さっさと操作して俺から想いの欠片と共に呪いを取りのぞっ──」
色んな甘いジュースが混ざったような味が明人の口内に広がり、思わずうげっと舌を出し苦い顔を浮かべた。だが、その顔は直ぐに消え、いきなり襲ってきた心臓が大きく跳ねあがるような感覚に苦しみ出す。
先程まで唖然としていた二人だったが、彼の様子を見て正気を取り戻し、急いで駆け寄った。
「あ、明人! しっかりするのだ!」
「おい! しっかりしやがれ!!」
二人の声など聞こえておらず、明人は自身の胸元を押さえ苦しむばかりだった。
カクリはどうすればいいのか分からず声をかけ続けていたが、真陽留は先程の彼の言葉を思い出し、カクリに伝えた。
「おい狐!! 早く明人の中にある想いの欠片と呪いを取り除け!! 力が増幅している今なら出来るはずだ!!」
真陽留の焦っている言葉に、カクリはハッとなり両手を前に出した。不安げに瞳を揺らしているが、やるしかないと決意を固め、深呼吸し、集中した。
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