「告られた」
その後も、日常風景がずっと流れ続けていた。
砂場で遊んでいたり、二つあるブランコを取り合ったり。三人でお買い物に行ったり、悪い事をして怒られたりと。子供の頃なら誰でも経験あるような光景が映し出され続けた。それを明人は、黙って見続けている。
そんな光景が流れていると、なぜか途中で一瞬砂嵐が流れる。そのあとすぐに、また映像が映し出された。
今回は少し成長しており、中学生くらいの三人が制服を着て、学校の廊下に溜まり何かを見せ合いながら話していた。
『また相想は満点かよ……。くそっ。天才様が』
『そう言うお前は赤点ギリギリだな。三人で勉強したはずなんだが……』
『うるせぇよ!! 赤点じゃないならいいだろ!!』
『良くは、無いかな。もう少し頑張ろう
『そうそう、頑張ろうぜ真陽留ちゃん』
『お前のはただ馬鹿にしてるだけだろ!!』
茶髪の男性が藍色の髪の男性を”相想”と呼び、あt間を叩こうとした。だが、それを綺麗にするりと避ける。喧嘩が始まりそうな雰囲気に、腰まで長い茶髪を翻しながら、女性は慌てて止めようと手を振りあげた。
『ちょっと、喧嘩はダメだって!!』
『『いってぇ!!』』
『あら、ごめんなさい。ふふっ』
喧嘩はダメと言っている女性だが、スムーズすぎる動作で二人を同時に叩いた。流れる動作で振り上げられ、二人は避けられず素直に叩かれる。
「これは、俺の過去──か?」
明人はその光景を見つめながら、考えるように呟いた。
相想と呼ばれている男は、明人と似ている姿をしている。藍色の髪に漆黒の瞳。だが、両目ともしっかりと見えており、もちろん五芒星なども刻まれていない。そして、他の二人も。名前は呼ばれていないが、見覚えがある。
茶髪で、相想とよくケンカをしているのは魔蛭。だが、制服の胸元についているネームプレートには
この三人は幼馴染。小さい時からの記憶が今、しっかりと映し出されていた。すると、またしても砂嵐が映し出されていた光景を覆い、画面が切り替わる。
今度は三人は私服なため、遊びに出かけている場面。
『まったく、なんで僕がお前の荷物まで持たねぇとなんねぇんだよ!!』
『ジャンケン負けたからだろ』
『なんで僕はあの時グーを出してしまったんだ……』
落胆する真陽留に、音禰は困り顔で手を差し出し『持とうか?』と聞いている。それを真陽留は肩をビクッと上げ頬を染め、『い、いやいや!! 大丈夫だ!! これくらい問題ない!!』と断った。
『そ、そう? なら、いいんだけど。でも、無理はしないでね?』
『安心するが良い音禰さん。こいつには荷物持ちがお似合いなのである』
相想が音禰の肩に腕を回し、自身の顎に手を持っていき無駄にかっこつけたように言う。それを、音禰はびっくりした顔で彼を見て『何言ってんのよ!!』と手を振りあげ怒ってしまう。それを相想は『おっと、怖い怖い』とすぐに離れ、殴られてたまるかと言うように余裕で逃げた。
彼女はそんな彼を見て、怒りながらも楽しげに笑い、少し頬を淡いピンクに染めている。
その様子を、真陽留は無表情で見ていた。二人が不思議そうに振り返ると、すぐにいつもの表情に戻り『ふざけんなよ!!』と怒り出す。
「…………復讐……とか、違くねこれ」
明人は映し出されている光景から目を離さず。考えながらボソリと言葉を零す。二人の表情を見て何かを察し眉を顰め、ため息を吐く。
その後も画面は切り替わり続ける。
三人で下校していたり、口喧嘩、テスト勉強。ほとんどの時間を三人で行動している。だが、その場面はどれも、真陽留は音禰に目を向けており、音禰も、相想に目を向けていた。
画面が切り替わり続け、次の光景には相想はいなかった。真陽留と音禰が二人向かい合って立っており、場所は校舎裏。
『それ、本当?』
『う、うん。多分、意識なんてまったくされてないと思うけど。でも、伝えるだけ伝えようと思ったの』
音禰は顔を俯かせ、何かモジモジしながら言葉を繋げていた。それを、真陽留はなんともないように振る舞いをしながら受け答えをしている。
『私、相想に今の気持ちを伝える』
顔を上げて宣言する音禰の表情は、迷いがなく決心したような表情だった。その顔を見た真陽留は何も言う事が出来ず、拳を強く握る。
『だからね、えっと。真陽留、応援──してくれるかな?』
顔を赤くし、音禰は真陽留に微笑みながら問いかけた。彼の思いになんて全く気づいておらず、期待のまなざしを向ける。
輝くような目で見られた真陽留は口角を上げ、短く答えた。
『うん。応援するよ、音禰』
『あ、ありがとう!!!』
真陽留の返答を聞き満面の笑みを浮かべる音禰に、笑みを消さずに彼は微笑み続けた。相手に悟られないように、口元に手を置き、俯く。その事を不思議に思った音禰は、心配そうに顔を覗き込もうとした。その時、予想外の人物が学校の曲がり角から姿を現してしまい、酷く慌ててしまう。
『っえ!? そそそそそ相想!? なななななな、なんでここに!?』
学校の曲がり角から姿を現したのは、怪訝そうな顔を浮かべた相想だった。
彼の姿を確認した瞬間、音禰は動揺が隠せず凄く焦ってしまい、それを真陽留は呆れたような表情で見ている。
『何をそんなに焦ってんだ?』
問いかける相想。先程の二人の会話は聞こえていない。それを察した二人は、安堵の息を吐き『なんでもない』と伝えた。
『ところで、なんでお前はここにいんだよ』
『あ? あぁ……。うん、告られた』
『『ん?/へ?』』
相想の言葉に、音禰と真陽留は間抜けな声を出してしまった。
『え、じゃ、じゃぁ、相想は彼女持ち……?』
音禰は震える手を何とか抑え、不安げに問いかけた。相想はなぜそんな事を言われたのか分からず首を傾げているが、勘違いを訂正するため端的に答えた。
『断ったけど?』
『え、そうなの?』
『おう。つーか、名前すら知らない』
『は?/へ?』
またしても相想の予想外の言葉に、二人は先程と同様に間抜け声を出してしまう。
『それに、今は俺、この三人が一番楽でいいだわ。彼女とか面倒くさそうだし、今のこの関係が結構気に入ってんだよ』
相想は含みのない笑みを浮かべながら二人に言い放つ。その言葉に、真陽留は戸惑いの顔を浮かべ、音禰をちらっと見る。
音禰は最初、どう返答すればいいのか悩んでいたが、すぐにいつもの笑みを浮かべ『そっか』と答えた。
『とりあえず、早く教室戻んぞ。次の先生、遅刻にはくそうるせぇから』
『とか言って、サボる気じゃないでしょうね?』
『どうだろうなぁ〜』
相想の横に駆け足で音禰は移動する。その後ろ姿を、真陽留はずっと見続けていた。すると、突然音禰が振り返り、悲しげな笑みを浮かべ、口パクで『大丈夫だよ』と伝える。
『…………そうかよ』
真陽留は握っている手を振るわせ口にしたあと、二人の半歩後ろをゆっくりとついて行った。
そこでまたしても光景が切り替わる。今度映し出されたのは、誰かの家の中で、音禰が涙を流しながら笑みを浮かべている姿と、顔を俯かせ隣に座る真陽留の姿だった。
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