「お前の返答次第」

 パソコンの画面は4つに別れており、廊下と出入口。あとはどこかの教室が2つ並べられ映されていた。


「照史。お前は何組だ?」

「僕はひよこだよ!!」


 先程から彼の手元をじっと見ていた照史は、いきなりの質問でもすぐに反応した。

 それを聞いた明人は、カーソルを動かし画面を横にスライドさせていく。


「見つけた。ひよこ組の映像」


 1つの画面を見つけ、目的の映像をクリックすると、4分割されていた画面が1つになった。

 下の方には数字が出てきたため、時間を設定できるようになっているのだろう。


 明人は迷わずパソコンを操作し、時間を遡っていく。


「──まだ。いや、ここか」


 そう呟きながらパソコンを弄っていると、ドアが叩かれた。


「ここにいるのね?! 関係者以外立ち入り禁止よ! 今すぐ開けなさい!!」


 外から聞こえる声は静江の物だった。甲高い声で、焦っているらしく早口だ。


 明人はその声が聞こえていないのか、それともあえて無視しているのか全く反応を見せないで、そのままパソコンに目を向け続けている。

 照史は怖がっているのか、身体を震わせ彼の足にしがみつき、ドアの方を凝視していた。


「──あった。監視カメラがあるにもかかわらずこれか。最低最悪な預け場所だな。他の餓鬼は普通なのか」


 彼が確認している映像には、照史と静江が映っているが、他の園児達は見えない。

 右下に表記されている時間は午後5時18分。

 普通ならもう親がお迎えに来て帰っている時間だ。


 2人が何をやっているのかと言うと、照史を無理やり地面に押し付け、静江は動かせないようにしていた。

 よく見ると、照史は仰向けで寝かせられており、片足をお腹辺りに押さえつけられており、痛むらしく泣いている。

 これはストレッチをしているようにも見えるが、明らかにやりすぎなのと、照史のような子供にはまだ必要ない行動に彼は舌を打ちをした。


「胸糞悪ぃな」


 その映像を確認すると、明人は他にもないかと探し始めた。


「出てこないのなら警察を呼ぶわよ!?」


 外の静江からそのような言葉が聞こえ、明人は面倒くさそうにだが、やっと反応した。もちろん、パソコンからは目を離さずに。


「呼びたかったら呼べばいい。だが、捕まるのは俺じゃなくてお前じゃねぇのか?」


 冷静な言葉に、静江はドアを叩くのをやめた。


「なぜよ。私は何もしていないわ。捕まるのは不法侵入した貴方でしょ」

「何もしていない──だと? ふざけてんのか白を切ってんのか。こんなことしておいてそれを言うか。それに、お前の証拠はあるが、俺が不法侵入した証拠はない。現行犯逮捕しようにも、俺にはお前の弱みが握られている。簡単に呼べるのか?」


 明人はパソコンの電源を落とし、冷淡な声色で口にした。


「大体、親も親だな。この餓鬼だけこんな扱い。他の奴は普通なんだろうな。さっきの親共はなんの疑いもない様子だったし。それに、今も迎えに来ていないらしいじゃねぇか。延長保育っつーもんがあるが、それを利用してまさかこんなことをしてるなんてな。最低だなてめぇら」


 口角を上げ煽っているが、明らかに怒っている。

 足元で震えている照史の頭に手を置き、安心させるように優しく撫でてあげる。その手に安心したらしく、照史は自分から擦り寄り、涙を堪えていた。


「さて、俺がドアを開けるか開けないかは、お前の返答次第だ」

「何をするつもり?」


 その声は固く、緊張していると分かる。


「俺自身は何もしねぇよ。ただ、質問に答えるだけだ」


 その声に返答はない。そのため、明人はそのまま質問をした。


「お前はなぜこんなことをした?」

「こんなことって何かしら。分からないわ」

「惚けてんじゃねぇわ。なんで餓鬼を地面に押付け、無理やりストレッチをやらせてたんだ? お前はあれをストレッチをやっていたと口にするだろうが、そんな理由が通るわけがねぇぞ。しっかりと事実を口にしろ」


 パソコンが乗っている机に寄りかかり、腕を組みながら責めるような口振りでそう問いただす。

 その言葉にすぐ返答はなかったが、明人は待ち続けた。すると、なにか吹っ切れたような笑い声がドア越しでもわかるほど響き渡る。


「なーんだ。やっぱりバレちゃうよね。それで、貴方は私だけじゃなくて、親御さんも疑っているんでしょ? 虐待だのなんだのって。でも、残念ね。確かに、その子の親は虐待、簡単に言えばネグレクトだわ。それでもこうして預けてくれているの。お金は貰ってないけど」

「お金を貰ってない?」


 吹っ切れた声に、明人は眉をひそめ言葉を返す。

 なんとか冷静を保っているが、手には力が入っており、自身の服をシワになるほど握ってしまっている。


「そうよ。この子の保育費は私が変わりに払っているの」

「理由は聞かなくても分かるが、一応確認がてら聞いてやるよ。なんでだ」

「簡単よ。私がその子を自由に扱っても良いって条件で預かっているの」

「そうか。そういう事か。なら、警察なんか生ぬるいな。お前を人形にしてやるよ。ネグレクトクズ親もな」

「えぇ? なに、人形? 貴方、その年でまだお人形さんが好きなの? 笑わせるわ」


 人を馬鹿にするような笑い声をあげている静江など気にせず、明人はドアに近づいた。そして、本棚を避けドアを開けた。そこには、お腹を抱えながら笑っていた彼女が姿を現す。

 そんな静江を気にせず、彼は彼女の頭を鷲掴み、中へと無理やりひっぱった。


「いった! なにすん──」

「さぁ、お前の匣をいただこうか」


 静江の頭を無理やり上に向かせ、五芒星が露になった右目を向ける。

 目が合ってしまった彼女は、そのまま瞼を閉じ意識を失った。

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