「証拠を見つける」

 シーソーに近づき、明人は手で動かした。

 最初やった事と同じなのだが、今も元気に楽しく笑っている。


「元気だねぇ。俺はもう死にそうだっつーの」


 そうぼやきながらシーソーを動かしていると、先程園長に伝えてくると園内に入った静江が小走りで戻ってきた。


「遅くなってしまいすいません。照史君、沢山遊べた?」

「うっ、うん」


 静江がしゃがみこみ照史へと声をかけたのだが、目線を逸らし、微かに体を震わせながら小さく頷く。

 シーソーから降りたと思ったら、一直線に明人の足元に向かって隠れてしまった。


「ふふっ。本当に楽しかったのね。でも、今日はもうおしまいよ。さぁ、私と一緒に戻りましょう。お母さんも迎えに来てしまうわ」


 怖がられているのに気づいていないのか、優しい頬笑みを浮かべ続け、手を広げる。

 見た目だけなら良い保育士に見える。だが、なぜか照史は怯えており、明人の足にしがみついて離さない。


「ほら、お兄さんにこれ以上迷惑をかけるのはやめなさい」

「………おに……ちゃ……たす……けて……」


 照史はか細く震えた声で彼に助けを求めた。それを、悲しげな目で見下ろしている。こうなることはわかっていたのか、動揺の色すら見せない。


「もう、帰らないとダメだよ照史君。昨日も心配していたのだから。ほら、帰るよ」


 静江は我慢の限界になったのか、笑みはそのままに照史を無理やり引き剥がそうと腕を掴み、思いっきり引っ張った。


「いっ!!」


 照史は腕に痛みが走ったらしく、顔を思わず歪ませてしまった。


「カクリ」

「了解だ」


 カクリは名前が呼ばれるのと同時に、明人の肩から飛び降り、静江の肩へと移動し尻尾で視界を覆った。


「ちょっ!? 一体何なの!! ぬいぐるみが動いた!?」


 どうやら、明人の肩に乗っていたカクリをぬいぐるみだと思っていたらしい。

 カクリが時間を稼いでいるうちに、照史を脇に抱え園内へと走り出す。


「おっ、お兄ちゃん?!」

「ようやく本性を表しやがったあの女。これは不法侵入になるからやりたくなかったが……。仕方がねぇな。カクリ、戻れ」


 静江の視界を覆っていたカクリは、明人の言葉に従いその場から離れた。そして、走り出し彼に追いつく。


「どうするつもりだ明人よ」

「証拠を見つける。餓鬼共が帰る前にだ」


 保育園の出入口には、親御さん達が子供の手を握り帰ろうとしている姿があり、明人は慌てたように額から汗を流している。


「ちっ、帰られたら困るんだよ!! カクリ、餓鬼以外の奴らを全員眠らせろ」

「了解だっ──全員?」

「親全員だ。早くしろ」


 走りながらそう指示を出し、明人は園内へと土足のまま踏み入れた。


「まったく。狐使いの荒い人間だ」


 カクリはそう愚痴を零し、先程よりスピードを上げ親御さん達へと向かった。そして、1人の子供を足場にして大人の身長まで跳ぶ。


「なっ、狐!?」


 いきなりのことにすぐ反応ができず、1人の女性はカクリの前足が頭に触れた瞬間、すぐにその場に倒れ込んでしまう。


「え、どうしたの!?」


 1人が倒れてしまったことに、周りの親御さん達も取り乱してしまった。だが、カクリはそのような事は一切気にせず、次々と飛び移り眠らせていく。

 子供は親御さんを起こそうとしているが、起きないのを確認すると泣き始める人や、慰め合う子供までいた。


「明人。これで良いのだな」


 カクリは全員の親を眠らせたあと、保育園に目を向ける。


「早く行かねば」


 そう呟き、狐の姿のまま園内へと走り中へと入っていった。






 明人は今ある部屋に向かっていた。それは、事務室だ。


 保育園の出入口にある園内の地図を、走りながら1目確認したあと、全てを暗記したらしく真っ直ぐ事務室へと向かっていく。


「お兄ちゃん! どこ行くの?」

「どっかそこまで」

「どっか?」


 適当に返事をし、前を見て走り続ける。すると、事務室はすぐに見えてきてドアを勢いよく開いた。

 中は狭く、パソコン1つと小さな本棚が右側に置いてあるだけだった。

 パソコンの近くには、正方形のメモ紙が1枚置いてある。


「おそらくここに……」


 中へと入り、余計な人が入らないよう鍵を閉めた。そして、本棚を動かしドアの前に置く。


「さて、このパソコンに監視カメラの映像が保存されているはず」


 そう口にするとパソコンの前に立ち、当たり前のように電源を付け操作を始めた。


「ちっ、パスワード。このパソコンは保育園の所有物だった場合──」


 明人は考えながら、ポケットから携帯を取り出し操作した。そして、画面を見ながら次にパソコンを操作し、画面上に1865と打った。


「………ま、こんなに単純なわけねぇか。なら、創立された日付を全て足して──このメモ……。あ、なるほどな。最初の保育園に務める保育士の数を足して──と。パソコン近くにパスのメモ置いとくってアホなのか」


 パソコンの近くに置いてあったメモにはこう書かれていた。


『1865年 教員 14』


 これはおそらく、この保育園が設立された年と教員の人数を表しているのだろう。

 明人はこの紙を見つけ、パスワードを入力した。


「これか」


 画面を見ているといくつもあるアイコンから、明人はカメラのマークを2度クリックする。

 開かれた画面には、録画されていたであろう園内の様子が映し出されていた。

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