静江
「めんどくせぇ」
「最近の俺、不運続きじゃね?」
「そうだな。だが、これはまだ可愛い方ではないかい?」
「可愛くねぇわ。ふざけんな」
「私に怒っても仕方の無いことだと思うのだけれどね」
明人とカクリは、小屋の中でそのような会話をしていた。
小屋の中にはいつものように明人がソファーに、カクリは木の椅子に座っていた。そして、ソファーにはもう1人、ぽかんとした表情を浮かべながら、明人をじっと見ている人物が座っていた。
髪は黒く耳が出るほど短く。目はぱっちりとしており、水色のパーカーに、青色のズボン。靴は振動を与えると光る靴を履いていた。
「おにーちゃんはだれ?」
「お前こそ誰だよ」
「僕? 僕はね、あきとって言うんだよ!!」
「────は?」
「ふっ」
明人の隣に座っている5歳くらいの子供は、元気いっぱいに名前を口にした。
その子供の名は、
なぜか林の中を泣きながらさまよっており、それをカクリが感じ取ったのだ。明人が嫌々林の中を歩くと、照史が泣きながら歩いていたため、渋々保護し、今の会話へとなった。
「まさか、明人と同じ名前とは。良いことではないか」
「ふざけるな。つーか、なんでお前はここに居たんだよ」
「わかんない」
「餓鬼じゃなかったらつるし上げてるところだぞこれ……」
頭を抱え、照史を見る。目線を向けられている本人はよく分からないのか、首を傾げ彼を見上げていた。
「それで、どうするつもりなのだ?」
「警察に突き出す」
「………言い方に問題がありそうだが、警察に保護してもらうのが良いかもしれぬな」
カクリは前回の暴走により、今だ力の制御が難しく少しでも妖力を発散出来るよう、少年の姿に狐の耳と尻尾が生えていた。
「まだその姿なのか? 行けんのかそれ」
「むぅ。すまぬ……」
「うざっ。俺の質問には適切に答えろよ。謝罪はいらねぇ、うぜぇ」
「むっ、少しなら大丈夫だと思うが……。不安だから私は小屋に残ることにする」
「へいへい」
そう確認するとソファーから立ち上がり、照史を外へと連れ出そうとしたのだが、先程までいたはずの少年が姿を消していた。
「は?」
「ん? どうしたのっ──」
カクリが明人へ声をかけた瞬間、何故か言葉が途切れた。そして次の瞬間──
「やややややめるのだぁぁ!!! 尻尾に噛み付くでない!! 痛いだろう離せ!!」
カクリの叫び声が小屋の中に響き、明人も肩をビクッと震わせ声のした方へと目を向ける。
そこには彼の尻尾に噛み付いている照史の姿と、涙目で明人に助けを求めているカクリの姿を確認することが出来た。
「…………めんどくせぇ」
その光景を目にした時、頭を抱え心底めんどくさいと言ったように、深いため息をついた。
「いーやだー!!!! 絶対にいがないぃぃいい!!!」
「はぁ………」
「頑張るのだ明人よ。私にはもう無理だ」
明人が警察に届けようと照史の手を握り、小屋のドアを開け外に出ようとしたのだが、なぜか握っている手を引っ張り出るのを拒まれてしまっていた。
その光景を、カクリはソファーの後ろに隠れながら見ている。
「いがなぃぃぃいいい!! ごごにいうぅぅうう!!!」
泣きわめいている照史に対し、どうすればいいのか分からないらしく、明人は困り果てていた。
「ここに居てもお前に得なんてねぇよ。餓鬼が喜びそうな玩具も本もねぇし。友達と遊びたいだろ。さっさと行く────あ?」
呆れながら繋がれていたであろう手に目を向けると、そこには誰もいなくなっており、なぜかカクリの慌てた声が奥のドアから聞こえた。
「そっちはダメなのだぁああ!!! そのドアを開くでない!! いったぁぁ!! だから尻尾を噛むでない! 明人よ!! 早く来るのだぁぁああ!!」
「…………もうぜってぇ子供なんて保護しねぇ」
そうぼやく明人だが、さすがにほっとけなかったらしく渋々奥のドアをくぐった。
「おい、そっちに行っても面白いもんは──はぁぁああ!?!?」
なぜか記憶保管室部屋のドアが開いており、廊下などにカクリと照史の姿がない。他のドアは開いていないため、2人がどこにいるのかすぐに分かる状況だった。
「おいカクリ!! あの餓鬼にっ──!?!?」
急いで部屋の中に入ると、カクリが照史の裾を引っ張り棚へと近づかせないようにしていた。それでも、子供の好奇心は旺盛らしく手を伸ばし、大事な記憶に手を伸ばそうとしていた。
「待て待て待て!! それには手を触れるな!!」
「すごーい!!!」
「人の話を聞け!!」
カクリが必死に引っ張っているが子供の力は強く、ついに手が離れてしまう。
待っていましたというように照史は、遠慮なく大事な小瓶を手に取ってしまい、何を思ったのかいきなり明人に向かって投げた。
「うぉっ!? おい糞ガキ!! 投げてんじゃ──」
明人は上手く小瓶をキャッチし、照史へ怒りの声と共に目線を向けた。だが、その怒りは絶望に変わり、顔を真っ青にして、目の前で繰り広げられている光景を見ているしかできなかった。
照史は次から次へと小瓶を棚から落としたり、棚に登ろうと上に手を伸ばしたりして遊んでいる。
その様子にカクリと明人は思考が止まり、何も出来ずただただ眺めていることしか出来なかった。
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