126話 また、俺の人生は大きく動き出したようだ

 それから、反乱の収束は早かった。


 周辺からローガイン軍が圧力をかけ続けたことで、反乱軍の大多数は防壁にかかりきりとなる。

 そこをリンとオグマが派手に暴れまわったことで士気が低下。

 城内の少ない戦力は時計台で釘づけとなっており、そこへ転移による外からの援軍である。


 ドワルゲスは一発逆転を狙い、離宮へ攻撃を繰り返したが、そんなものが通用するはずはない。


 反乱軍の作戦は念入りに準備が重ねられ、見事な初動を見せたのは間違いない。

 だが、綿密な作戦とは一度狂いが生じれば立て直せるものではないのだ。


 いちはやくドワルゲス周辺は転移の魔道具で逃亡したが、即座に追跡されて逮捕。

 反乱軍の首謀者、共謀者は脳を取り出された後、洗いざらい記憶を覗かれて廃棄だ。

 体は魔道実験の素体になるだろう。


 参加した者も士官ともなれば死刑もありえる非常に厳しい罰が待っているはずだ。

 非常に重い刑罰ではあるが、それだけのことをしでかしたわけだ。


 一方、呼応した人間の軍は単独で魔王軍と戦える規模ではない。

 こちらはキスギ司令の軍が増員され、ほどなく撃退された。

 おそらくは今後、報復のために人間の国へ侵攻作戦が計画されるはずだ。


 だが、人間の国の技術レベルは低く、生産性も低い。

 人口は多いが外国人を大量に抱えるのはリスクが高いし、ほどほどで停戦交渉となるだろう。

 あまり占領する価値がないのだ。


 まあ、反乱軍の顛末てんまつとしてはこのくらいだろうか。


 それにしても問題は俺である。

 当然のように魔王様からのプロポーズの話は領内に広まり(作為を感じるが)、リリーを交えた3者会議は半ば公開討論のように注目されてしまったのだ。


 もうね、リリーが怒ってるのが丸わかりなわけですよ。

 魔王様は「取り上げたいわけじゃないんだ! 半分こしたいだけだ!」って必死に訴えていたが、そういう問題ではないだろう。


 しまいに魔王様は魔道技術で俺を分割するとか言い出していたが、とにかく譲る気はない。

 当然、割り込まれた形のリリーだって身を引く理由はない。


「わ、私は2番目でいいんだっ! リリーとホモくんが結婚して2人と離ればなれになったら生きていけないっ! だから私も混ぜてくれっ!」

「なんで姉さんと混ざらなきゃいけないのよ! 魔王が2番目なんて許されるわけないでしょ!」


 珍しくリリーが声を荒げて怒っているが、やはり姉妹の気安さというやつだろう。


 世間は俺のことをハーレム展開だなんだと囃したてるが……しかし、考えてほしい。

 俺を挟んで国家元首と継承権1位が争っているのである。


(これ、こじれたら内乱になるんじゃないのか……?)


 もう、俺のストレスは限界を超えている。

 心労から逆流性食道炎になるし、常に胸やけして胃が痛い。


 龍虎相打つ大物に挟まれた俺の主張はささやかなものだ。


「俺はリリーに見捨てられたら生きていけない! 頼むから捨てないでくれ!」


 これである。


 みっともなかろうが、40男に巡ってきた結婚のチャンスを逃したら先はない(サンドラが「アタイがいるよ」みたいな反応だが、マジでやめてほしい)。

 そもそも、俺が魔王様やサンドラを引っ掛けたわけじゃないんだ。


 俺が怖いのはリリーに『こんな面倒くさいやついらないわ』と捨てられることだ。

 何だかんだで俺はリリーが好きなわけで、もう恥も外聞もなく情にすがりつくしかない。


 ついにリリーも左右から俺と魔王様に『結婚してくれなきゃ俺死んじゃう』『私を独りにしないでくれっ』と泣き落としをされて、とうとう折れた。


「分かったわよ、もう。でも絶対に寝室は別にするからね」


 寝室が別とは残念だが、これに俺と魔王様が手を取り合って感激したのは言うまでもない。


「でも、王族相手の重婚なんて許されないわよ。言っちゃなんだけど、姉さんはもちろん私も側室なんて嫌だし許される立場じゃないもの」

「大丈夫だっ! もう手は打ってるんだ!」


 この魔王様の手とは、馬鹿らしいほど単純な作戦であった。


 つまり、俺の『ホモグラフト家』を新興貴族として立て、リリーをホモグラフト夫人として降嫁させる。

 そして俺を『王配』として魔王様に婿入りさせるという手順だ。


 つまり、魔王様は婿をとったんだから2号さんじゃありません。

 リリーは正式にホモグラフト家に嫁ぐから側室じゃありません、という理屈だ。


 詭弁である。


 もちろん議会は紛糾して硬直してしまったし、世論も俺に『優柔不断』『リリアンヌ殿下かわいそう』『ヤリチン野郎』など厳しい声ばかりだ。

 まだ魔王様には手を出してないのにひどい話だと思う。


 ちなみに横入りした形の魔王様は体積がふくらんだことから『お幸せそう』で片付くのだから解せぬ。

 バッシングはなぜか俺が一手に引き受けた形だ。


 連日、俺とリリーと魔王様の報道は加熱し、反乱軍のことはぶっとんでしまった感がある。

 被害としてはダンジョンがもっともひどかったのだが、領民には被害があまりなかったことがイマイチ報道されない原因だろう。


 俺は議会にも呼ばれるし、査問会にも呼ばれるし(二度目は歴代タイ記録だ)、スキャンダルキングとかヤリ奉行とかさんざんな異名がついてしまった。


 意外なことにホモグラフト貴族家を創設するのはわりとスムーズに決まり、俺の功績なら問題なしとされたのだから分からないものだ。


 そして議会と魔王様との協議の結果、俺は『貴族になるなら働けよ』と人間の国との和平交渉に放り出されるわけだが……まあ、これは別の話かな。


 ちなみにホモグラフト家は領地や財産なんかないので、公的な貴族のつき合いが可能なくらいの年金が支給される。

 貴族は半ば公人なので、こうやって年金が出る代わりに仕事を押しつけられることもあるらしい(めったにないらしいが)。

 税金も庶民より多く払うし、つき合いも大変だし、議会にも行かなきゃいけないし、貴族とは実に大変なもののようだ。


「ホモくん、交渉はじいやに任せておけばいいからな。帰ってきたら結婚式の準備だ。ちゃんとXYZゼクシズ(有名なブライダル誌だ)を読むんだぞ」

「エド、ダンジョンの方は任せてください。貴族の公務は公休扱いですし、心配しないで大丈夫ですよ」


 魔王様とリリーがそれぞれの言葉で送り出してくれる。

 正直、めちゃくちゃイチャイチャしたいのだが、マスコミもいるし我慢の子である。


「それじゃ、行ってくるよ」


 俺は2人に見送られ、停戦交渉の使節団と共に歩き出した。


 また、俺の人生は大きく動き出したようだ。

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