113話 システムの問題か
(これは、一体どういう状況なんだ!?)
グロスとの戦いの最中、突如として現れた冒険者――先日見た冒険者だ。
俺の名を呼ぶ彼女が乱入し、グロスと相討ちになるような形で倒れた。
全く状況が掴めず、俺は混乱するばかりだ。
「なん、だと……コイツは俺が雇った冒険者だぞ……? また女、また女がお前を助けて俺を苦しめるのか」
背中から腹部まで剣を生やしたグロスが女にトドメを刺そうとした瞬間、振り上げた手にクロスボウの矢が刺さった。
女のパーティーメンバーだ。
「サンドラッ、生きているなら離れろっ!」
クロスボウを持つ男が女冒険者に呼びかける。
その声を聞いた瞬間、俺は雷に打たれたようなショックを受けた。
(思い出した、サンドラ――試練の塔か!)
あの時、助けた冒険者。
その姿と倒れて血溜まりを作る冒険者の姿が一致した。
この女はかつて俺が助けた冒険者だ。
「オオォッ!」
俺は弾かれたように跳び、グロスに斬りかかる。
サンドラのパーティーに気を取られていたグロスの反応が鈍い。
斬撃はグロスの左手首を切り飛ばした。
「クソっ、クソっ! だが俺を倒しても手遅れだ! このままダンジョンで我らの、ドワルゲス様の、正統魔王軍の勝利を見届けるがいい!」
捨て
転移の魔道具を使用したのだろう。
もう一方を見ればゴルンはノッポのクズを戦槌で叩き伏せていた。
先ほどのトラブルに動じなかった胆力はさすが鉄血ゴルンと言ったところだ。
(逃げたか、それはいい。問題はサンドラだ)
俺はサンドラを助け起こすように抱え、傷口を確認する。
かなり深い、このままでは致命傷となるだろう。
「サンドラ、分かるか。傷は浅い、気をしっかりと保て」
サンドラは止血する俺を見つめ、力なく頷く。
これは血を流しすぎている。
回復の泉で傷を塞いでも助からないかもしれない。
「ゴルン、そいつを拘束してくれ。俺はサンドラ――この冒険者を病院に運ぶ。知り合いなんだ」
俺はそのまま転移装置を使うようレオに合図を送り、サンドラと共に魔力光に包まれる。
サンドラの仲間たちが何事か叫んでいるが、俺はそれには応えず「任せろ」とのみ伝えて転移した。
「リリー、魔王城の救急医療センターへの転移だ! 座標を指定を頼む! アン、応急処置をする! 救命キットを持ってきてくれ!」
俺が指示を出すと、リリーが力なく首をふる。
「ダメです。緊急通信、通常回線、転移装置、モニター受信、全て使えません。魔王城の魔道機能がダウンしています」
「なんだと、なにがあったんだ!? ダンジョンのシステムの問題か!?」
俺が確認すると、タックが「ちがうっす」と蚊の鳴くような声で答えた。
つい整備不良を疑うような口調になってしまった。
これはよくない。
「こっちのはチェックは問題ないはずっす……魔王城側でトラブルとしか考えられないっす」
「救命キットです! こっちのテーブルを片付けます、乗せてあげてください」
ちょっと気まずい雰囲気になりそうなところでアンが応急処置用の救命キットを持ってきてくれた。
話はあとだ。
片づけたテーブルにサンドラを横たえ、革鎧や衣服を手早く裂いて傷口を確認する。
血がとめどなく流れ続け、意識はすでに失っているようだ。
(ここでは
サンドラ……俺は気まぐれで助けた冒険者のことなどすっかり忘れていた。
このまま時間が過ぎれば助かるかどうかは運次第になる。
『ホモグラフトさんなら無償で助けるのは容易でしょう。ですがそれでは悪目立ちしてしまいます』
以前、エルフ社長から言われた言葉だ。
当時の俺は気分よく人助けをしたつもりだったのだろう。
だが、助けられた方は覚えていた。
めぐりめぐって恩という枷が彼女の足を引き、殺そうとしているのだ。
(クソっ、エルフ社長の言うとおりだ! ん? エルフ社長……?)
この瞬間、ひらめくものがあった。
「タック、新しくできた公社の緊急避難先には医療施設があったな!?」
「あっ! 一応はあるはずっすよ! 災害用の避難施設と同等のはずっす!」
俺はタックの言葉を聞いて「それだ」と頷く。
リリーはすでに避難施設について調べてくれているようだ。
「ありました。仕様書には準災害避難施設と同等と記載されています。専門のスタッフはいないでしょうが、蘇生薬などの備蓄はあるはずです」
「十分だ、蘇生薬による応急処置は俺が行える。緊急転移を頼む」
緊急避難先は廃棄ダンジョンを改修したもので、災害避難施設のようなものだ。
DPを使用した立派なものである。
(今回、こうやって助けるのも余計なお世話なのかもしれないが、な。自分をかばった女を捨ておけんよ)
偶然だろうが、2度ともなれば不思議な縁も感じる。
なにより俺はもうサンドラを思い出してしまったのだ。
死なせたくない気持ちが強い。
「リリー、彼女は試練の塔で助けた冒険者だ。覚えているだろ? その、変なアレじゃないからな」
一応、リリーに断るが無言でニッコリと笑みを浮かべている。
どう解釈していいか困るというか、怖いぞ。
「ちょっと待ってください。そのままじゃ冒険者さんかわいそうです。タオルかけてあげますね」
治療のためとはいえ、半裸になったサンドラにアンが大きなタオルをかけてくれた。
このあたりの気の使い方はアンらしい細やかさだ。
「あー、その……アンも一緒に来てくれるか? 本当はリリーが一緒の方がいいんだろうけど、こっちの状況もアレだし」
なんだか証人を連れて行かないとマズい気がする。
アンには申し訳ないが同行してもらうことにした。
「うししっ、そっちをリリーさんに任せる手もあるんすけどね!」
からかうタックと無言で微笑むリリーに見送られ、俺とアンは転移の魔力光に包まれた。
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