63話 いろんなヤツがいるもんだな
3階層にめどがついた。
次はオープンのタイミングだ。
ウチのダンジョンは人間から見れば暴走や変異が多いと感じていた(45話参照)。
なるべく分かりやすい前兆を用意した方がいいだろう。
「ダンジョンを増設する前に前兆のようなサインを出すべきらしいが……さて、どんなのだろう?」
「前回ダンジョンに手を入れたのは占有の後ですね。あの時の状況を考えれば……
そう、リリーの言うとおり、前回は占有者を追っ払ってから来場者が激減したためにテコ入れをしたのだ。
追加したオイスターにどれほど集客効果があったのかは謎だが、今ではダンジョン内で漁をする者が現れる程度にはなっている。
「いや、暴走の前に宝箱とモンスターを引き上げただろ。開拓村を考えれば暴走は控えたほうがいいだろうよ」
「それもそうだな。リリー、冒険者の様子を見てモンスターと宝箱を引き上げよう」
モニターを見る限りではそこそこの冒険者はいる。
前回のように一気にというわけにはいかないだろう。
「はい、冒険者のいないエリアから順にゴーレム、ガーゴイル、宝箱を引き上げます。他のモンスターはリポップを止めてはどうですか?」
「そうだな、それでいこうか。2日もリポップを止めれば、さすがに気づくだろう」
さっそくリリーはモニターをいじり、設定を変えている。
「あとは時間がかかるな。2〜3日くらい放置しとくか」
「そうですね。あまりこちらから手を加えないほうがいいと思います」
現在、ダンジョン内には4組の冒険者がいる。
漁をしている者や
「おっ、この
「ふむ、斥候か。言われてみれば見たことあるような気もするな」
リリーが冒険者に分析をかけると、ステータスが表示された。
「えーっと、偵察、隠蔽、隠密、挑発、投擲、窃盗、解錠……まだあるな、なんだ罠設置って。
「2階層あたりをチョロチョロして他のパーティーが仕留めたモンスターの取りこぼしを狙ったり、死んだ冒険者の死体剥ぎに精を出すロクデナシだ。なぜか宝箱を狙わねえでスカベンジばかりしてる、いわゆる変わり者ってやつだろうよ」
先を進む冒険者は倒したモンスターの素材を全て回収するわけではない。
放置されたモンスターの死骸から素材を回収する行為を『スカベンジ』と呼ぶが、この骨拾いはそれを専門とする変わり種だ。
他の冒険者の死体からも金目の物を剥ぎ取ると言うのだから悪質ではある。
「だが、犯罪じゃない。遺品回収だってニーズはあるだろ」
「まあな、それは分かるから放置してるんだが、なかなか徹底したやつでな」
この骨拾い、見れば見るほどみすぼらしい男である。
骨ばって目だけがギョロリとした凶相……年齢はイマイチ分からない。
背は低く、脊椎が曲がっておかしな姿勢になっている。
ただ、レベルは意外なほど高く、20レベルだ。
「直接誰かを襲ったり盗みをやるわけじゃねえけどよ、わりとキワどいこともやるぜ。モンスターの注意を引いて他にぶつけたりな」
「ふうん、いろんなヤツがいるもんだな」
苦い表情を見るに、ゴルンから見てもギリギリの行為を繰り返す骨拾いは苦々しい存在なのだろう。
冒険者はマナーの良くない者が多い。
犯罪者は論外だが、気に入らないから、マナーが悪いからとイチイチ排除していては来場者がいなくなってしまう。
それゆえにゴルンもマークしながらもダンジョンに出入りを許していたはずだ。
「ギリギリの部分を踏み越えないのは、コイツなりの
「ふん、くだらねえ。これだけの腕がありゃ真面目にやるのがイチバンだろうが」
職人気質のゴルンからすれば、骨拾いは身につけた技術をムダにしているように感じるのかもしれない。
「よし、じゃあコイツを正道に戻してやるとするか。リリー、ソルトガーゴイルをまとめてコントロール下に置いてくれ」
「はい、ダンジョンに残るソルトガーゴイルをコントロール下に置きます」
俺の指示をリリーが復唱し、ダンジョンに残るガーゴイルをコントロール状態にした。
ゴーレムやガーゴイルはリポップモンスターではないため、ある程度のコントロールができるのだ。
「なんだ、排除するのか?」
「まあ、見とけよ。リリー、モンスター部屋のモンスターは移動させてくれ」
この様子を見たゴルンが「ああん?」と
◆
(畜生がっ! どうなってやがるんだ!?)
際限なく続くソルトガーゴイルの襲撃に骨拾いは戸惑っていた。
いつもならば得意の隠密でやりすごしているモンスターだ。
だが、なぜか今日に限っては執拗に骨拾いを狙い、ダンジョンの奥へ奥へと追いたててくる。
骨拾いは斥候の腕には自信があるが、近接戦闘は苦手だった。
投擲のスキルは高いが、これはモンスターの気を引くためのもので、接近戦で使えるようなモノではない。
生まれつき背が低く、背が曲がっていた。
ゆえに武術の才能は皆無だ。
口減らしで冒険者になった貧民ゆえに学もなく、魔法なども身につかない。
他の冒険者たちにミソッカス扱いされ、地を舐めるように身につけたスカベンジのスタイルなのだ。
おまけに顔までまずく、バカにされるだけでロクな仲間もいたためしはない。
いつの間にか窃盗のスキルまで習得したため、ギルドからも信用などはない。
(マズいマズいマズい、このままだとモンスター部屋に転移しちまうぞっ?)
先ほど、見かけた他のパーティーに擦りつけようとしたのだが、なぜかガーゴイルは骨拾い
こんな状況はダンジョンからの『排除』しか思いつかないが、骨拾いは心当たりもない。
(ダメだ、この部屋で転移しちまう! なんで俺がこんな目に合わなきゃいけねえんだっ!)
骨拾いとて、ダンジョンを荒らせば排除されることは知っている。
だからこのダンジョンでは大人しくしていたのだ。
(なのに、このザマか!)
骨ばった顔をクシャクシャに歪ませながら骨拾いは自らが魔力光に包まれるのを感じた。
転移直後、囲まれないように一気に部屋の隅に走るが様子がおかしい。
囲まれるどころかモンスターがいないのだ。
先ほどまで執拗に追ってきていたガーゴイルもいない。
「なんなんだ、バカにしてるのか」
安堵と戸惑いから思わず悪態が口をついた。
骨拾いも何度かモンスター部屋に入ったことはあった。
それは他のパーティーにくっついて転移しただけではあるが……今の状況は、その時とは明らかに違っている。
(これは……階段だと?)
モンスター部屋はダンジョンの最奥部だったはずだ。
このダンジョンは変異している、ならば先ほどのガーゴイルは変異時の異常行動かと思い至る。
冒険者を長くやれば変異の恐ろしさは何度も耳にするものだ。
巻き込まれてはタダでは済まないだろう。
(冗談じゃねえ、こんなもんに関わるもんじゃねえ!)
ひどく恐ろしいモノを見た気がし、骨拾いは階段から背を向け急いで転移装置に向かった。
ロクデナシぞろいの冒険者の中でも
新たな階層の発見、未踏の地の冒険など華やかな活躍は自分から最も遠いものだと割り切っていた。
なるべく目立たぬよう、死なないようにプライドを捨て這い回っていた中で事故のように巡り合った最高のチャンス。
だが、骨拾いは喜びよりも大きな不安に息苦しさを感じながら帰路を急いだ。
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