38話 占有者の侵入アリ
その後、ダンジョンの封鎖を続けるも状況は悪化したと思われた。
思われた、というのは、ダンジョンに異変があったためだ。
「やはりモンスターや宝箱は無かったのか?」
「そうだよ、1階層はちょろっとモンスターがいたけど2階はダメだね。これじゃ日当も出ねえよ」
用心棒は今もダンジョンから帰還した冒険者の話を聞いていたのだが、どうもダンジョンの様子がおかしいらしい。
(今朝の
どちらにせよ、ソルトゴーレムの姿が確認できないのだ。
この封鎖に意味はないだろう。
冒険者たちのボディチェックも行ったが、やはり塩はない。
用心棒は塩商人に再度封鎖の解除を求めに向かった。
「またその話か……昨日の今日で撤退の判断はできん。ソルトゴーレムの不在も2組の冒険者が言っているだけだ」
この答えを聞き、用心棒は「チッ」と聞こえるように舌打ちした。
もうたった半日のことで雇い主に対する最低限の遠慮も霧散してしまったのだ。
「ふん、なら俺が見に行けばバカげた遊びもお終いにしてくれるのか? ダンジョン相手は命がけだ、アンタだって今朝の暴走は見ただろう、意地を張るな」
用心棒は自分でも驚くような早口でまくしたて「まだ分からんのか」と吐き捨てた。
「様子を確認するのならばありがたい。判断の材料にしよう」
「ふん、オマエさんが自分で行ってもいいんだぜ」
明らかに塩商人は気分を害したようだが、すでに愛想を尽かしている用心棒には屁でもない。
雇い主の気が変わらぬうちにサッサと終わらせるのが吉だ。
「よし、俺が3人連れて行こう。残りはここで暴走に備えてくれ」
「変異か、暴走か、どちらがマシなんだろうな」
用心棒の同僚が皮肉を口にした。
これには「さてね」と答えるしかできない。
どちらに遭遇しても生き残れるかは運に任せるのみだ。
用心棒が選出したのはレベル17〜15の冒険者3人。
本当なら用心棒の同僚2人を連れていきたいのだが、戦力比を考えればこうするより他はない。
「俺は前だが
簡単にミーティングをし、用心棒は4人数組のパーティーで異変の起きたダンジョンに足を踏み入れた。
◆
「占有者の侵入アリ! レベルは31、17、15、15です!」
モニターを監視していたリリーが声を上げた。
しばらくは外部の冒険者の出入りこそあれ、動きを見せなかった占有者からのアクションだ。
「かかったぞ、イチバンの大物だぜ」
「4人っすか、ちょっと少ないっすね!」
ゴルンとタック、ドワーフの父娘が真逆の感想をもらした。
たしかにレベルが高い敵ではあるが、21分の4と見れば少ない。
「だが、初めは27人いたからな。すでに6人も倒し、続いてあの4人を倒せば17人になる。27人の仕事は17人ではできないだろう? だからあれを倒せばウチの勝ちだな」
「なるほどっす! 分かりやすいっす!」
俺の説明を聞いてタックも納得したようだ。
(だけど、ここで諦めさせるにはもう一手必要だな)
俺はリリーに「モンスターの準備を頼む」と伝えた。
あまり数が多いと占有者たちが逃げて開拓村に被害が出るかもしれない。
放流したモンスターが範囲外に出ればコントロールを失うのだ。
少し悩みつつもモンスターは2回に分けて襲撃することに決めた。
俺は侵入した占有者たちが引き返せない距離まで進んだのを確認し、指示を出す。
「2回に分けてぶつける。ゴーレム2、ガーゴイル4、バンシー4カモノハシ1。ゴーレムを
「はいっ! ゴーレム2、ガーゴイル4、バンシー4、カモノハシ1! ゴーレムを先頭にします!」
リリーが復唱し、モンスターたちが洞穴の入口付近に転移した。
ゴーレムやガーゴイルはまだしも、廉価版のリポップモンスターにはごく簡単な命令しかくだせない。
すなわち『目につくものを攻撃せよ』のみだ。
今回は占有者たちも警戒をしている。
動きの遅いゴーレムに遠距離攻撃を集中され、洞穴の入口付近で撃破された。
だが、続くガーゴイルやバンシーはノーダメージで占有者との戦闘に突入する。
激しい戦闘だが、ここは占有者が優勢だ。
「残りモンスターは何体だ?」
「はいっ、ゴーレムは3、ガーゴイルは4です! リポップモンスターは徐々に回復中、バンシーは4! スライムが8います!」
俺の質問にリリーが答える。
この息のあったやり取りが心地よい。
「よし、続けて攻撃だ! ゴーレム2、ガーゴイル4、スライムも4!」
「はいっ! ゴーレム2、ガーゴイル4、スライム4!」
戦闘中の占有者たちは第2陣に対応できず、激しい乱戦となった。
ここで足は遅いが物理無効のスライムが投入されたことで大混乱が起きているようだ。
「エグいっす! このために2手に分けたんすか!?」
「ああ、それもあるし、一気に大群を出したら逃げられるからな。彼らが対処できる数を初めに入れて、足止めしたわけだ」
さすがに高レベルの30、27の2人が頑張ってるので占有者が勝ちそうだ。
特に30の方は魔法使いらしく、スライムをたて続けに消滅させている。
だが、もう何人かは死亡しているし、負傷者は多数。
これ以上の占有は不可能だろう。
タックがしきりに「エグいっす! エグいっす!」と騒いでいるが、きっと褒め言葉だろう……たぶん。
「万が一、モンスターが勝ってしまったら範囲外に行く前に再転移を頼む。俺もそろそろ行こう」
俺は兜のバイザーを下ろし、マスタールームの扉へ向かう。
ダンジョンを進む占有者たちも2階層に向かったようだ。
「ゴルンは待機してくれ。万が一があるからな」
「おう、危なそうなら助太刀してやるよ」
ゴルンの豪快な笑い声を背に、俺はマスタールームを出た。
階段を下りると、先を進む占有者4人の姿が見える。
カツン、カツン、と俺の足音が響く。
鉄靴(ミスリルだが、装備としてはミスリル靴とは呼ばないのだ)を履いているために気配を消して近づくことはできない。
すぐに占有者たちは俺に気づき、警戒を見せた。
「止まれ! 今はこのダンジョンは封鎖中だ! お前は何者だ!?」
「あれは魔族だ! 攻撃しろっ!」
魔族だから攻撃しろとは、なかなか凄い理屈だ。
(まあ、俺も殺すつもりだがな、人間っ!)
俺は剣を抜き、走る。
ミスリルの甲冑がガチャガチャと賑やかに騒ぐ。
魔法がいくらか飛んできたが、意にも介さない。
ミスリルは魔力に対し、非常に強い耐性がある。
敵が飛ばしてきた
(――もらったぞ!)
俺は剣を前に構え、先頭の盾役にそのまま突っ込む。
オリハルコンの剣は『キィイイ』と不快な金属音をたて、そのまま大ぶりの盾ごと盾役を貫いた。
「うわっ! なんだコイ――」
俺は盾に突き立った剣から手を離し、取り乱した隣の男の首をはねる。
剣は2本あるのだ。
首を無くした男はなにやら言いかけていたようだが、おしゃべりが過ぎる。
「まて! 黒い鎧、2本の魔剣、キサマは黒い死にが――」
敵の指揮官が何やら騒いでいたが、コイツはバカか。
俺は飛びかかり、肩口から深々と切り下げた。
戦闘中に敵から『待て』と言われて待つやつがいるものか。
そのまま返す刃で隣の男を切り上げる。
燕返しと呼ばれる剣技だ。
全員がほぼ即死、盾役が僅かにうめいていたのでトドメを刺した。
盾から剣を抜き、改めると僅かに刃が潰れている。
なかなかよい盾だったようだ。
(やれやれ、次の休みにでも研ぎに出すか)
剣を鞘に納め、冒険者たちの武器をいくつか拾う。
これらは宝箱の中身になるのだ。
(これで占有をするバカが出てこなけりゃいいんだけどな)
俺は「はあ、くたびれた」と呟きながらマスタールームに向かった。
■リザルト■
冒険者レベル31(死亡)DP307
冒険者レベル17(死亡)DP172
冒険者レベル15(死亡)DP154
冒険者レベル15(死亡)DP150
冒険者レベル10(死亡)DP101
冒険者レベル12(死亡)DP120
人足レベル7(死亡)DP72
負傷ポイント合計DP238
滞在ポイント合計DP124
合計DP1438
残りDP5363
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