第4話 メリーさんの出現

 宮島によるとこうだ。昨日、授業の合間にスマートフォンを見ると、公衆電話からの着信が五件ほど入っていた。メッセージが残っており、再生すると、

『私メリーさん。今新宿にいるの』

『私メリーさん。今上井草にいるの』

『私メリーさん。今関町北にいるの』

『私メリーさん。今校門にいるの』

『私メリーさん。今昇降口にいるの』

 と言うものだったらしい。

 後で聞いたところによると、宮島にとって「遠い所」というのが新宿などの都会らしい。そこから電車に乗ってやってくる、というイメージだったのだろう。そのため、「電車でごとごと揺られながらやってくるメリーさん」という、人によっては拍子抜けする怪異になってしまったようだ。メリーさんが口にした地名は、いずれも駅がある。

 宮島が驚いてクラスの友達に話すと、聞いた児童が怯えて取り乱し、パニックが広がった。それを岡田が見つけて、宮島のスマートフォン持ち込みが発覚した、ということらしい。宮島は平謝りしながらも、岡田に得体の知れない留守電について訴えた。

「こんなの悪戯だから相手にしちゃいけません」

 岡田がそう言った瞬間、スマートフォンが鳴った。発信元は「公衆電話」。

「出たら駄目ですよ」

 岡田が鋭く告げる。宮島はおろおろした。その間に話を聞いていた別の児童たちも怖がって集まる。やがて、留守番電話に切り替わった。

『ただいま、電話に出ることができません。発信音の後に、メッセージをどうぞ』

 ピー……。


『私メリーさん。今あなたの後ろにいるの』


 教室が悲鳴の渦に巻き込まれた。


「結局、宮島さんの背後には何もいなかったんですが、児童はパニックで授業は中断。他の先生に応援を頼んで皆には落ち着いてもらったんです」

「ごめんなさい」

「過ぎたことなのでもう良いですよ。でもスマートフォンは駄目です」

「だってママが」

「あとでお話ししましょう」

「はぁい……」

 宮島は口をつぐんだ。

「聞いても良いかな?」

 微妙な空気が漂う応接室の沈黙を破ったのはメグだった。可愛い高校生くらいのお姉さん、というのは、小学生の警戒心を解くらしい。

「なんですか?」

「その時、メリーさんはあなたの後ろにはいなかったんだよね?」

「はい」

「その後異変は?」

「ないです」

「うーん」

 メグは首を傾げた。

「あなたが聞いたメリーさんの噂、最後はどうなるの?」

「最後って……『あなたの後ろにいるの』で終わりですけど」

「そうだよね」

「……私、何かまずいことをしちゃったんですか?」

 決定的なことを言わないメグに、宮島は不安そうだった。

「してないと思うよ。ねえ、他の友達もメリーさんの噂は知ってるの?」

「はい……」

「その友達が知ってるラストもそこで終わりなのかな?」

「あー……」

 宮島は中空を見た。

「えーと、ともちゃん……友達は死ぬほど追い掛けられるって言ってました」

 ルイはナツの顔を見た。ナツは頷くと、小声で、

「『消極的な信仰』だね」

 副校長に向き直り、

「あの、明日以降で構わないんですが、生徒さんたちに協力してほしいんです。お願いしても良いでしょうか?」

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