現代病床雨月物語 第三十八話 「依怙地巡礼 (総集編)」

秋山 雪舟

第三十八話 「依怙地巡礼 (総集編)」

 難病平癒祈願の「近畿三十六不動尊霊場」巡りは二〇一七年の夏にはじまり二〇一九年の秋に満願成就となりました。途中脊椎管狭窄症の為に巡礼が出来なかった事もありましたが現代医療の助けを借りてなんとか自力で結願出来ました。私は、「近畿三十六不動尊霊場」を成し遂げた後にどうしても行かなければならないお寺がありました。それは京都の東寺(=教王護国寺)でした。この東寺は明らかに大きさと雰囲気が奈良の東大寺と関係があるように感じたことを思い出します。

 なぜ東寺(=教王護国寺)か、それは私が不動尊巡礼を初めてしばらくしたころ購入した本に入っていたチラシが目に留まり一冊の本を購入したのがきっかけでした。その本は1970年の東京オリンピックのポスターが表紙でした。橋本治さんの「ひらがな日本美術史7」でした。その時にはもう2020年の東京オリンピックが決まっていたので興味本位で買いました。ところが読んで観ると大変おもしろくこんな日本美術史を創作する橋本治さんに感服しました。それから「ひらがな日本美術史」シリーズを全て読んでしまいました。私がなぜこんな事を書くかと言いますと「ひらがな日本美術史」の1巻で不動明王の事が書かれているからです。

 そこには色々と書かれていました。それを要約すると①不動明王像は、密教になって初めて登場する仏であること。②東寺にある不動明王像が日本で最初であること。③日本で最初の「頭の上が平らな仏像」であること。それまでの仏像とは違い生きた人間に一番近いこと。④東寺を創り不動明王像を登場させたのが空海(弘法大師)であること。⑤初めての不動明王像は立像ではなく座像であること。⑥日本で初めての不動明王像のモデルは空海(弘法大師)であったと思われること。⑦この日本で最初の不動明王像が後の時代の不動明王像とは違いぎこちなさをとどめていること。⑧この不動明王像は平和で優美な平安時代に創られたこと。⑨不動明王は「人間の中には悪がある」ということを「その悪に対応する仏(明王)という形で明確にしたこと。⑩当時の密教は効き目の強い「祈禱」を売り物にする宗教であり、平気で「暗闇」や「恐怖」を提示する宗教であること。⑪空海(弘法大師)が初めて「密教」という体系を完成させたこと(空海(弘法大師)は「胎蔵」「金剛」という、それまで別々に伝えられてきたインド製の二つの密教を初めて一つの体系に創り上げてしまった人間である)。⑫この不動明王像は空海というエネルギッシュな天才の若々しさを表現していること。などであります。

 この様な事が書かれていたので是非とも東寺(=教王護国寺)に行かなければ心が落ち着きません。

 しかし実際に行って観ると私の視力では暗い堂内ではよく観る事が出来ませんでした。いつも巡礼で思うことですが菩薩像・観音像・不動明王像の肝心なところが観えなく物足りなさを感じることがよくあります。本やパンフレットの方が確実に像を確認することが出来るのです。しかしそれでも足が寺に向かうのですこれが不思議でなりません。これが俗に言う信仰の力や好奇心による行動力なのでしょうか。

 私は今回の「近畿三十六不動尊霊場」で私なりに厳選したベスト6ヵ寺を紹介したいと思います。タイトルのように依怙地巡礼なので他者の観点とは違うと思いますがその辺のところは了承ください。

 ベスト6位が京都の第十四番・仁和寺です。ここの不動尊は一願不動または水掛け不動と呼ばれています。京都でありながら拝観料はいりませんでした。なぜここが6位かといいますと寺の敷地の隅の一角で井戸の中に佇む可愛いらしいお不動様が水を掛けられてもいじらしく不動にしている姿が印象的だったからです。

 ベスト5位も京都で第十七番・曼殊院門跡です。ここの不動様の掛け軸が国宝の黄不動明王像(俗に黄不動と言う)がレプリカですが拝見することができます。なぜここが5位といいますと国宝の不動様の画像もすごいのですがこの寺にいるとなぜか居心地が良いのです。平成天皇も皇太子の時に訪れていて皇室とも縁の深い寺院です。また寺の周辺も見た目はなだらかな丘になり何とも言えない心地よさを感じました。

 ベスト4位が大阪で第三十三番・犬鳴山七宝滝寺です車で行くと道が狭くてなかなか大変でした。しかしここは今でも充分に古の修験道の存在を感じることが出来る寺です。マスコットの犬も私好みでした。修行の滝の一帯は今でも霊験を感じることが出来ます。

 ベスト3位も大阪で第三十二番・瀧谷不動明王寺です。私が訪れた時、丁度午前の護摩焚きを見学させて頂きました。ここは本当に今も営営として信仰が続いています。また多くの人がおとずれています。私のように依怙地でなければここがベスト1の寺だと思います。

 ベスト2が奈良の第三十一番・龍泉寺です。この寺を訪れた時、私は小学校五年生のときの林間学校を思い出しました。この天川村どろ川の旅館に泊まり早朝男子だけで大峰山に登りました。今でもここは大峰山登山の入り口であり役行者の遺徳を感じることが出来ます。吉野の金峯山寺が修験道のメッカとよく言われますが私はそれが表向きのことであり本当の日常の修験道のメッカはこの天川村の龍泉寺と思っています。

 最後にベスト1位が京都の第二十一番・同聚院です。ここのお不動様は十万不動と言われ重要文化財の木造座像です。なぜここが1位かというと今までこんな迫力ある不動明王を観たことがないからです。下世話なことですが拝観料が惜しくないと思った事も事実です。ここではこのお不動様のすぐ近くで一対一の対座が出来ます。その時どうしてかわかりませんが私の邪気が払われたように感じ意気揚々として家に帰りました。

 この様に私の依怙地巡礼は、無事に終わることが出来ました。このことが皆さんの寺院巡りの参考になれば幸いです。

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