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なぜ聖が勇次に部屋に来たがったのか、答えは直ぐに判明した。
部屋に入るや否やパソコンを取り出し、勇次の机に置いていたパソコンからケーブルを抜いてLANを差し込む。
パソコン画面に、高速で大量のプログラミング言語が流れていく。
「まさか、だよな」
「良く家に仕事を持ち帰っている、って前に言っていたね」
ハッキングだ。間違いない。
勇次は緊張して強張ったのだが、劉生は疑問を呈していた。
「意味、無いんじゃないか? うちもそうだだが、機密事項に入る場合、専用回線と暗号通信が使われる。ホームネットワークなんか使わない。重大な規則違反だ」
「家から機密情報に入る場合の話でしょ? それ。
でも逆に、会社のパソコンから家のパソコンにアクセスする場合に、暗号化通信が使用されていない可能性はある。
例えば、仕事のデータを自宅で作業する為に、メールで自宅に送信した、とかね。
パソコンだけで仕事を行うこのご時世に、些末な違反など誰でも犯している可能性はある。
その記録さえ抽出できれば、逆探知できる。
欲しいのは、管理サーバーの特定とアーカイブの中身」
「できたとしても、即バレる。不正プログラムが随時働いている。そこらの民間サーバーなんかとは、桁違いのセキュリティだ」
「バレても構わない。むしろ、そうして警報を鳴らすべき。
敵は、並の人間じゃない。人ですらない。人の闇が生み出した、化物」
聖のパソコンを打つ指が止まった。
画面に点滅信号が輝いた。
「ビンゴ。みつけた」
画面の色が真っ赤に変色する。
「おい、本当に……入ったのか?」
「入るのは簡単。難しいのは、進む事」
それを示すように、パソコンに流れる文字が今までの数倍にも膨れ上がり、その処理を行っているのか? ノートパソコンから、熱とモーター音がうねりを上げる。
「いやぁ、早いなぁ。これは、マズイ」
聖のたんたんと告げた言葉に、勇次は焦燥した。気づいた。
「これ、逆に探知されると……、ここでやってるのが、バレるんじゃ」
聖がこれに応えるとも思えず、劉生に顔を向けた。
劉生は腕を組んでパソコンを見つめたまま、何も返答しない。まるで、何も聞こえていないかの如く、研ぎ澄ました視線で画面だけを見ている。
「あぁ、マズイな」
劉生の小さな呟きに、勇次の焦りは絶頂に達した。
「おい! やめよろ! やめろって!」
聖に手を伸ばそうとした。
時、劉生はまたも呟いた。
「先に、取られていないか?」
不思議な言葉に、勇次の手は止まった。
聖の手は止まらない。表情も変わらない。
しかし、声がしゃがれた。
「あぁ……うん、やられてる」
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