微生物から始まる最強異世界ライフ ~転生したのはプランクトン。〈コピー〉のスキルでサバイバル&最強進化したいと思います~
武家諸ハット
第1話 人としての最後の記憶
この
それは、今でもはっきりと思い出せる。
あれは十二月、とても冷える金曜日の夜。
残業に疲れ切った社畜の俺──
頭をよぎるのは、昼休みにトイレの個室で運悪く聞いてしまった同僚の会話だった。
『鳴神ってさ、アイツもうちょいどうにかなんないの……?』
『あ~。無理っしょ。アレだもん、シンプルに無能。あれだったら多分うちの金魚のほうが賢いぜ?』
『うわ、お前ひどいわー』
二人分の、押し殺したような下卑た笑い声。
『いや、マジマジ。笑えねぇって。あいつがまともに出来るのってコピーくらいじゃね』
『ウケる。コピーは早いよな、妙に。キモいわ』
『今日の飲み会、誘っとこか?』
『ざっけんな』
爆笑しながらトイレから去っていく同僚の声が、脳内にこびりついている。
怒りとか、憎しみとかはもう沸かない。
ただ、自分を産み一人で育ててくれた母親に申し訳ない。
こんな役立たずで、ごめん。
そう思った。
涙で視界が滲む。
それと同時に誰かから声をかけられた。
「鳴神くん、お疲れ様! そっちも残業……ってどうしたの!?」
横を振り向くと、一つ先輩の
可愛くて仕事が出来て……俺が密かに思いを寄せている人だ。
「あ、その、すいません。花粉症で……」
真冬に何を言ってるんだと自分でも思う。
「お節介だったらアレだけど、なんかあったら相談乗るよ……?」
「…………」
愛宕さんの優しさに何も返せないでいると、ホームに列車の到着を知らせるアナウンスが響いた。
その時──千鳥足の太った酔っ払いが、愛宕さんの背中に思い切りぶつかった。
「あっ……!」
愛宕さんの華奢な身体はいとも簡単に弾き飛ばされ、片方のパンプスだけを残して彼女の姿が線路へと放り出されていく。
驚愕に凍りついた彼女の顔がスローモーションで目に焼き付く。
俺は無意識の内に彼女の腕を掴み、精一杯こちらへ引き戻した。
融通の効かない物理法則が、無理な体勢の俺を、彼女と引き換えに線路へ引きずり込む。
彼女が無事ホームに倒れ込んだのを視界の隅に捉えた直後、後頭部に重い衝撃を受けた。
誰かの悲鳴が電車のけたたましい警笛にかき消される。
視界が電車のライトで塗りつぶされていく中、俺は最後に『何だ。人の役にたてるじゃないか』と思った。
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