森の底 06
枝葉の隙間から陽の光がこぼれ、地面をチラチラと照らしている。
メリーの顔色は、昨日より明るい。足取りも軽そうに見えた。今日は発破をかけなくても良さそうだと、ラトスは少し安心した。
ずいぶんと深く、森に入っている。それでもまだ、人の足がついた場所があった。
昨夜野営した場所もそうだったが、人の気配があるところに獣は近付かない。休憩するにも、安全に進むにも良い。遠目からこういう場所を見つけてはそこを経由して進んでいった。
それでも正午を過ぎ、陽がかたむきはじめるころまで歩くと、人が入っているような場所は明らかに少なくなっていった。
「このあたりの感じは、何だか、見覚えがあります」
メリーは辺りを見回しながら、息を切らして言った。
なるほどと、ラトスはうなずく。たしかにこのあたりから、街道までの距離は遠くなっていくはずだった。ならば、今夜か明日には、目的の場所に着くかもしれない。見覚えがある風景になったからか、メリーの足取りはさらに軽くなったようだった。
進むにつれて、森はさらに深くなっていく。
目的の場所は、森の中の沼だ。近くまでいけば水の流れる音も聞こえるだろうかと、ラトスは思っていた。しかし、二人が枝葉を踏み、かき分ける音と、風が流れて葉がすれあう音以外は、特に聞こえてこなかった。
途方もないと、ラトスは眉根を寄せる。すると、隣を歩いていたメリーが大きな声をあげた。彼女の視線の先に目を向ける。
「倒木か」
「そうですね」
行く先に、古い木々が折りかさなるように倒れていた。その範囲は広く、隙間を埋めるように新たな草木が生えている。大きく迂回しなければ、先に進むことはできそうになかった。
メリーは倒木の隙間を探し、先へ進めないかうかがっている。ラトスが声をかけると、がっかりした様子で首を横にふった。迂回するしかないようだ。
その時、倒木の隙間に生いしげった雑草が、かすかにゆれた。風ではない。意思のある、ゆらぎだった。メリーは驚いて、足を止める。ラトスはゆらぎから一歩距離を取り、倒木の隙間をのぞき込んだ。
ゆっくりと、草むらの奥で、何かが音もなく左右にゆれて、近付いてくる。
「……ひっ」
やがてゆっくりと顔を出したその生き物に、彼女は引きつったような声をあげた。
身体を硬直させ、両肩をすくめる。
それは大きな蛇だった。
まだ頭しか見えていなかったが、それだけでも大きいと認識できるほどだった。大蛇は二人に対し、すでに警戒していた。さらにゆっくりとした動きになり、距離を詰めてくる。
蛇は警戒心の高い動物だ。人をおそうことなど、滅多にない。
だが、おそらくこの蛇の縄張りに入ってしまったのだろう。一瞬でも隙を見せれば、すぐに飛びかかってきそうだった。
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