森の底 07
「ラトスさん……」
「分かっている。とにかく逃げるな。背を向けると襲い掛かってくるぞ」
ラトスは言いながら、ゆっくりと腰にある短剣に手をかけた。
だが、すぐには抜かない。動物の多くは、金属の反射光を見るだけで、興味を持ったり、興奮したりするからだ。
やがて大蛇は、ラトスとメリーから一定の距離をたもって、左右にふれはじめた。
蛇の大きさは人の三倍はあった。あまりの威圧感に、メリーは明らかに呼吸が乱れはじめている。大蛇がゆれるのにあわせて、自らも身体を横にふってしまっていた。
「メリーさん、落ち着いてくれ」
「……え?」
ラトスの言葉に、メリーは青ざめた顔をしてうなずく。ところが、頭の動きとは裏腹に、腰に下げた剣へ手を伸ばしはじめていた。
彼女の手は震えていた。
剣の柄に指先がふれると、カチカチと音が鳴った。
彼女の動きを見て、ラトスはぞくりとした。声をかけ、制止しようとしたが、間に合わない。メリーはふるえながら剣を抜きはなち、切っ先を大蛇に向けてしまったのだ。
大蛇は鋭い剣先をじっと見て、小さく頭をふりはじめる。
次の瞬間、ラトスは大蛇とメリーの間に向かって走りだした。
大蛇がメリーに向かって鋭く突進したのだ。
メリーは、恐怖が勝って動けなかった。抜剣したまま、固まっている。切っ先は大蛇に向かっているが、戦意は微塵もこもっていなかった。
大蛇は少し頭を下げ、彼女の剣の下にもぐり込む。
そこへラトスも、腰にある短剣を抜きはなち、飛び込んだ。大蛇の頭よりやや後ろのほうに、刃を突きたてる。いきおいそのままに大蛇の頭をつかむと、地面に押し付けた。同時に、突きたてた短剣の刃をさらに深く刺す。
大蛇の尾は、まだ激しく動いていた。
上下左右にバタバタと跳ねていたが、ラトスが腰にあるもうひとつの短剣を抜いて大蛇の頭部に突きたてた。深く、強く突き刺す。大蛇の身体は次第に動きを弱らせ、ついに静かになった。
「メリーさん」
「え……あ、はい」
「昼飯にしようか」
大蛇の頭を持ちあげ、ラトスが言う。
メリーは目を丸くして、何度もうなずいた。
彼女の手は、まだふるえていた。抜きはなった剣がカチカチと音を鳴らしている。その様子を見て、ラトスが何度か声をかけた。やっとのことで我に返ったメリーは、その場に力なく座り込むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます