昔の話〜也凪編(語り)
はい、これが私の昔話。与太話にもほどがあるわよ、もうこれ以上貴方に話すことはないと思うけれど。
(実は、貴女がいつ『
ああ、なんだ、そう。そのことね。最初からそう聞いてくれたら、私だってこんなこっ恥ずかしい話しなくてよかったのに。
(いえいえ、面白かったですよ。貴女の可愛らしい一面が拝見できて、大変貴重な体験でした。)
……最悪。絶対書かないでちょうだいね。やってみなさい、末代まで祟ってやるから。(肝に銘じます)(笑い)
それで、『符契』ね。あれ、
(彼から直接聞いたということですか?)
いいえ。誰も『
(それでは、どうやって?)
(
(そうですね。できれば。)
……あまり、故人を暴く真似はしたくなくって。
(しばし、沈黙)
(また改めましょうか。一年であろうと、十年であろうと、私は貴女の心からの語りを待ちましょう。)
……ごめんなさい、貴方にも立場があるものね。ありがとう。大丈夫、ちゃんと話すわ。
今となっては大昔の話だけど、そうね、あの年の二年くらい前かしら。風月と
師走、いえ、その頃はまだ
風月って意外と物持ちなの。私もその時までは知らなかった。本当、押し入れの中からたくさん出てくるのよ。乾涸びた押し花のしおりとか、へんてこな似顔絵とか、そういうの。捨てられない
その中に、蒔絵の
(陶器や祭具のような物でしょうか。当時のお社では、祭祀なども行っていたと聞き及んでおります。)
私も最初はそう思ったんだけれど、残念外れ。なんと、入っていたのは、お金。すごいでしょう、筥いっぱいの、金貨よ。まるでお伽噺の玉手箱みたいにね。
(金貨ですか?)
……貴方もそう思う? そうよね。私だって、それを見て後悔したわ。それまで、金貨なんて見たことも触ったこともなかったの。だって、
なんで風月がって、思った。それも、一生遊んで暮らせるだけの金貨。私、それで知ったわ——『符契』って一体なんなのか。
(それは、どういう?)
実は、筥の中に入っていたのは金貨だけじゃなくって、手紙も二通入っていたの。そうね、片方は恋文とでも言うべきかしら。煤けた紙の上に、女筆の細い字で、こう書いてあったわ、
『あなた、
『なんと、これほど引き取られました。あなたに委ねられ、虚しい骸』
『どうか、その引き裂かれん痛みを、心ばかり慰めてくださいまし』
『ああ、
『ひと、いつか絶えるもの。あなたとて、この金塊と同じ。いつか彼方に待つものは、等しく脆い終わりのみ』
『然すれば、この永久なる私こそ、あなたの半魂を受け入れる器に相応しい』
『
『こうして、あなたの死するときこそ、私の死するとき。あるいは、私の死するときがまた、あなたの死するとき。相成って、地の果てを見果てるまで永遠なり。これ即ち、私の幸せにございます』
『どうか、私も、私にも、あなた、どうか憐れに思って』
『あなた、「死にたくない」と仰いました』
(この手紙の差出人に覚えは?)
いいえ、全く。私にはわからないわ。予想もつかない。
(いえ、私の方こそ、失礼いたしました。ちなみに、もう一通の手紙にはなんと? 現在もご記憶でしょうか?)
……ええ。そっちは、手紙というよりは何かの切れ端のようだった。そこに書かれていたのは、一言だけ。おどろおどろしくって、震えた筆跡だったから、よく覚えている——
『
(これは、貴女の他の誰かもご覧になった?)
このときは、私だけだったの。他の誰にも見せなかった。言ったでしょ、故人を暴く真似したくないって。こんなの、誰にも見せたくないじゃない。すごく、恐ろしいものに思えたし。
それで、どこかに隠そうと思った。このまま風月の部屋にあったら、誰かが見つけてしまうかもしれないでしょう。使っていない部屋に隠しても、知らないうちに片付けに入ってしまうかもしれない。だから、私、
(まさか、今もそこにあるでしょうか。)
どうかしら。だって、今のお社のこと、貴方も知っているでしょう。ほとんど焼け落ちてしまったじゃない。当時のものはもう何も残っていないと思うけれど。
(そうですか。たいへん参考になりました。ありがとうございました。)
(慶成十一年八月三日談)
——————
(追記)
しかし、あの当時の状況で、一体誰が
やはり、一度ヒユルらと合流した方が賢明かもしれない。
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