ソーシャルハートディスタンス
かなる
プロローグ ソーシャルハートディスタンスの始まり
えぇ、政府は新たにウイルス感染拡大を防止するため『ソーシャルディスタンス』を遵守してほしいという声明を出しました。
2020年。中国の武漢市で発見された新型ウイルスは瞬く間に世界に飛び回り、全世界で40万人もの死者を出し近代ウイルス史に残る非常に無念な歴史として刻まれてから。3年の月日が流れた。
あれから、世界は大きく変わった。
2020年に開催されるはずだった東京オリンピックは翌年の2021年に開催された。
いまだに感染者がいるという国々からは批判の声が寄せられたそうだがオリンピック委員会もやむなしといった感じで大会は開催された。
そして、各企業の株価の大暴落。寝床から叩き起こされ、住んでいた家を泣く泣く手渡した資産家が跡を立たなかった。
そして、一番大きな変化は...
2021年秋、アメリカの有名大学研究チームが長年研究を進めていたテーマ、相手との心の距離を計測する、それを数値化して視認できるようにすること。そのシステムが完成した。ウイルスの影響もあり、皮肉にもそれは。
『ソーシャル•ハート•ディスタンス』
と名付けられ全世界で話題となった。
簡単に言うと、自分と相手との心の距離。心の距離といっても色々あるがここではいわゆる相手が自分と接する、関わることで変化する感情の起伏などがもろもろ加わった心の距離というのが数値化され、それを自分の目で視認できるということだ。
それはあくまで相手と自分との心の距離で、相手と第三者の心の距離を見ることはできない。
例えば、身近なところで言うと家族。血の繋がった家族であれば心の距離はほぼゼロ。数値はゼロから100までの数値が存在し、ゼロに近ければ近いほど相手との心の距離は狭く、親密。遠ければ遠いほど心の距離は広く、疎遠。ということになる。
具体的な視認方法はまず、手の甲に5ミリほどのマイクロチップを埋め込み、脳の神経を司る部分に直接信号を与え、そこから視覚を司る部分から信号が送られ、実際に視認できるというものである。
そして、この方法。手術が必要なのだが、5分程度で終わり、費用も3万円弱ということだった。
この世紀の大発明はすぐに日本にも影響を与えた。
日本では一般的な外科でこの手術を受けることができる。だが、その費用を安くするためにチップ埋め込み業者なるものまで現れ、一時は日本でも問題になったが政府により摘発され。今では正規の国指定の病院の外科で税込29800円で受けることができる。
ソーシャルハートディスタンスは流行りに流行った。相手との心の距離が測れるのだから手術を受けない人はほとんどいなかった。
家族、友人、恋人、会社の上司、街行く人との心の距離が測れる。それは社会の、日本の、世界の歴史をいっぺんに塗り替えてしまった。
2023年。この物語の主人公、花畑太陽は今年から京都の大学に通うことになっている。
もともと、人付き合いが好きじゃない彼にとって心の距離が測れるというのは生きづらくなる要因でしかなかった。友達、先生、女子生徒、両親。
それらとの心の距離が見れるというのは彼にはとても不思議なことであった。
雅な風が吹く京の街で、彼は今日も人との心の距離を測っていた。
ソーシャルハートディスタンス かなる @arlq1202
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