終末の空はより青く
クソクラエス
機械の少女
プロローグ
かつてビルの森であったこの地区も今はただ瓦礫と無限の砂がそれらを埋めているのみとなっていた。
そんな瓦礫の中を僕は実地調査という名目のもと、そのビルだったものがどのようにして破壊されたのかを注意深く観察していた。時折その瓦礫の中に入ったり、その一部を持ち上げたりをしてはそれらを手元のレポート用紙に書き込んでいった。
用紙一枚にぎっしりと情報が書き込まれると、それを引きはがして白衣のポケットに無理やり押し込む。そして新しい用紙にまた書き込む。それを来る日も来る日も繰り返していた。
そんな自分のレポートは誰かに読まれることは万が一でもありえないであろう。それは自分がそれらを秘匿するからではなく、それを読む人々がもはや存在しないからだ。
一年前、人類の最も高度な最後の戦争が終わった。それは人類の滅亡を意味し、僕の予測では残った人類はせいぜい一万人程度であろうと考えている。そしてそれらの人類も緑地の残っていない地上においては、備蓄が底を尽きる残り三年がタイムリミットといったところだ。
だからこそ、僕は残された生涯を懸けての調査に乗り出したのだ。
「やはり、新型爆弾の威力は予想以上だったか……」
四枚ほどレポートが埋まった段階で、大きな破片に腰かけ休息を取った。砂漠と化した地上には依然と変わりのない太陽が隙間なく地上を焼き、額を汗がつたう。
「本当に人類は地上から姿を消してしまったのだな」
陽炎で歪むビルを見ながら、ぼそっと言ったその時、微かに座っていた破片が動いた気がした。
「まさか……」
真っ先に僕は自分自身を疑った。熱中症にでもなってしまったのだろうか。そこで立ち上がり少し歩いてみる。大丈夫だ、意識はちゃんとある。
なら先ほどの感覚は勘違いか、またはたまたま本当に微かに動いただけだったのだろう。いつもの自分ならそう結論付けて終わるだろう。だが今日は少し暑さに頭がやられていた。どうしてもその破片を持ち上げたいという欲望に勝つことができなかった。
「もしかしたら……」
破片の端を持ち、腰で踏ん張りながら持ち上げる。非力な自分にとってかなりの重労働であったが何とかひっくり返すことができた。
岩の下のダンゴムシを見たい。そんなような気持ちで破片の蓋を開けた僕の目には全くの予想外のものが飛び込んできた。
「何だ、これ」
そこにいたのはダンゴムシではなく、少女だった。美しく整った顔に、生き生きとした髪質の少女がそこにはいたのだが、その腹部は皮膚が破れ金属類がむき出しで、右腕に至っては存在していなかった。
「さっき動いたのはこれのせいなのか……」
少女の頬に手を触れるが、金属のように冷たい肌はピクリとも動く気配はない。死んでいるのか?それとも——
「これは少し調べる必要があるな……」
好奇心はもはや瓦礫よりも彼女に向いていた。僕は少女を砂上バイクの上に載せると、自身の研究所へと向かった。
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