九州仙戦
龍閣
第一話 赤い光
九州大地東北の領土
今日は仙人様が村に到着する日だった。村長は村を代表して仙人様を出迎えるために村の入り口で待っていた。村の人々も一度は仙人様を見てみたいとみんなで村の門に集まり意気揚々と仙人様の噂をしていた。
「なあ、仙人様は雲に乗ってくるんだろうか」
「いや、なんでも牛に似た神獣にのってくるってよ」
「私は剣にのってすっごい速さで飛ぶってきいたよ」
村長の長男、
「仙人様がおいでになったぞ!」
誰かがそう叫んだ。遠くから人影がこっちに歩いてくるのが見える。仙人様と呼ばれたその青年は雲にも牛に似た神獣にも乗っていない。剣と思しきものは背中に背負っている。背筋がスッとしていて歩く姿勢はどことなく自信に満ちている、だがそれだけだった、一見身のたしなみがいい普通の青年にしか見えない。
村長が前に出て
「仙人様よくおいでになりました、この度は我々の頼みごとを聞いていただいて誠にありがとうございます。」
若い仙人も拱手して挨拶をかえす。
「いえいえ、仙人様など呼ばれるのは恐縮です、私は姓を
王正と言う若者は自分が仙人では無く術師であることを説明したが、一般の村人たちは何を言っているのか理解できなかった。
村長も返事に困ったように眉間にしわを寄せながら尋ねる。
「え、えっと、王正様は今回我々が依頼した猪の化け物を退治するためにお越しになったのですよね?」
「ええ、そうですよ」
にっこりと笑いながら答える王正。
「あぁ、なら良かった、こちらにどうぞ、昼食をご用意させていただいてます、詳しいことはご飯を食べながらお話し致します」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
食事中、村長は王正に最近村の畑を荒らしまわる猪の化け物が出るようになり、それを止めようと村の若い男たちは何度かその猪の化け物に挑んだが返り討ちにされ、多くの怪我人を出した。大きさは二丈(約6メートル)あり、若者数十人を蹴散らす凶暴さ、さらに嗅覚が発達しているのか、待ち伏せにも罠にもかからない。このままでは村が潰れてしまう、そう思った村人たちが最近町にできた妖怪退治専門の道館の噂を聞いてみんなでお金を出し合い、化け物を退治してもらおうとしたことを王正に説明した。
それを聞いて王正はにっこり微笑み「私にお任せください」だけ言うと、食事がおいしいやら、村が奇麗やら、どうでもいい社交辞令を始めた。
(なんだこれ?!)
晧は赤い剣を見てそう思った。
(この剣、木でできてる、しかも細い、俺たちがチャンバラで使う棒切れだってこれよりましな武器になるぜ、こんな道端に落ちてる木の棒みたいな剣で何ができるんだ?)
晧はそう思いながらその剣をさらに細々と見た。
(色も赤い塗料で塗りつぶしただけじゃん)
(こりゃあ
「来たぞーー!!猪がきたぞーー!」
外から突然誰かが叫んだ。
「来たようですね、私が行きます、皆さんは危ないので離れていてください」
そう言うなり王正は外に駆け出した、皆もその後を追う。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
畑を荒らしていた猪の化け物は王正が近づいてきた事に気づいた様子、振り返り王正めがけて突進してきた。
王正は立ち止まり、背中の剣を右手で抜き、猪に向かって突き出した、左手は印を結んでいる。
猪があと一丈(約3メートル)のところまで来た時、王正は印の形を変え「はっ!!」と叫んだ。
次の瞬間、細い剣が伸びたように赤い一筋の光になり「ジュッ」と音と共に猪の眉間に差し込んだ、その光は長さ二丈ある猪を貫通して消えた。一瞬の出来事だった。
「ドスンッ」
地面に倒れた猪の化け物の
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
王正が倒した猪の化け物は解体して今夜の宴の主食になった、久しぶりの肉で村人たちは大喜だった。
村の者は王正を囲んでお酒を飲み交わしていた。
村長は王正の隣で盃を挙げて礼を言った。
「いやはや、目にも止まらぬ速さでこんな大きな化け物を仕留めるとはさすがは仙人様、今回仙人様にお願いして本当に良かったです」
「はは、ですから僕は仙人ではないのですよ、確かに仙人の下で修業をしていましたが、仙人と名乗る資格も実力もないのです」王正は苦笑しながら言う。
「何言ってんだ、オラたちからしたらもう十分仙人様だよ、なあみんなもそう思うだろ!」と近くにいた一人の村人。
「ああ、そうだ、そうだ」と一斉に観衆が声を上げた。
これを聞いた王正は、盃を手に取り、立ち上がり皆に向かって語りかけた。
「
盃を村人たちの方に一旦かざして中の酒を飲み干した。
王正の取った行動は
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
夜も深まり宴会も終わりに近づいた頃、村人たちも各自王正に挨拶をして自分の家に戻っていった。
ずっと話ができる機会を待っていた晧は王正に近寄り、拱手をしながら軽くお辞儀をして挨拶した。
「初めまして王術師、僕の名前は晧です、村長の長男です、今回は本当にありがとうございました」
王正はこの男の子が大人の様なきちんとした言葉使いと礼儀作法に少々驚いたようだったが直ぐ友好な笑顔になり、拱手し返して言う。
「いえいえ、こちらこそ力になれて良かったです」
「王術師、僕も王術師の様になりたいです、どうすればいいのか教えてください!」
晧は心底感心していた。王正の活躍を見てから晧は仙人になりたいと思った。王正は自分のことは術師だと声明したが、そんなのはどうでもよかった、とにかく自分も将来は王正のような力をつけて、化け物退治をする仕事ができればいいお金になる、そう思ったのだ。今回討伐依頼に出したお金は
物心ついた頃からお金が大事だと意識した晧は絶対お金持ちになってやるとそう誓ったのだった。晧は村の塾で教えている先生になりたかった。塾の先生は畑に行かず子供たちに一日数時間時の読み書きを教えるだけでお金が入る、さらに村中の人から物知りの人だと尊敬されている、何事も先生の意見を聞くことが村の風習になっていた、今回も先生が出した意見で大金を出して王正を招いたのだ。いい職業と思っていたが今回王正の収入を知った晧は心に強い衝撃を受ける。俺も一日で二年以上のお金を稼ぎたい。そう強く思った。
「ええっと、それはつまり仙人修行をしたいって事かな」
「はい!」
「うーん、仙人修行は誰でもできるものじゃない、本当に縁のある者しかできないんだ、私もお師匠様とは奇遇な出会いだったから弟子入りできたものだし、こればっかりは何ともできないんだ」
「それでは王術師はお弟子を取らないのですか?」
「僕はまだまだ未熟ものだ、三人の兄弟子たちと最近青州にやってきて、今は山の向こうの町で道館を拠点にしばらく生計を立てようと思ってたとこだ、だから弟子を取ることはまだ考えていない」
「お願いします、王術師のような人になりたいんです!」
晧は是が非でも諦めたくなかった、この機会を逃してしまうともう二度と仙術を習うことができないかもしれない。
「お願いします、弟子を取らないなら雑用でも何でもいいので傍に置いてください」
そう言うなり土下座をしてお願いする晧。
「ふう、分かったよ、私の負けだよ。君に仙人修行ができるかもしれない場所を教えてあげる、だから早く面をあげて」
「ありがとうございます!」
「いいかい、ここからずーっと東に行くと
「鳳来山ですね、分かりました、有難うございます」
「君が鳳来山で仙人修行ができるように祈ってるよ、私はそろそろ休ませてもらうよ、明日は朝一で山を越えらなきゃいけないからね」
王正はそう言って自分のために準備された宿舎に戻った。
この会話が晧を鳳来山へ搔きたてた。
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