ねこみみ日和
浅葱 ひな
1話にゃん‼︎ プロローグのはず
「お兄ちゃん、この子、捨てられちゃったのかな?」
その少女は、わたしの目の前に跪いて、様子を窺った後、そっと後ろに立っていた少年に、そう声をかけた。
「そうだろうなぁ? でもなにも、猫神さまの神社の前に捨てなくても……」
少年の言葉からすると、わたしのいた場所は、猫の神さまを祀っている神社の境内らしい。そして、この少年と少女は兄妹らしい。でもよぉ、猫神さま? いるんなら助けてくれてもよかったんじゃね? 置き去りにした元飼い主に天罰与えるくらい、できたんじゃね? つうか、腹減ったなぁ……。
わたしの思考が、ここまで辿りついた時に、不意に少女に抱き上げられた。優しく繊細に包まれるようにだ。
「お兄ちゃん、この子、うちで飼えないかな? お父さんたち、ダメって言うかなぁ?」
「たぶんな。生き物を飼うってたいへんなんだぞ。おまえひとりじゃ、世話できねぇだろ?」
「そ、そんなことないよっ。わたしだって、もう中学生なんだよ、そのくらいできるって……」
「中学生だから、できねぇんだろ? 学校行ってる間、どうすんだ?」
少年の言葉に、少女のほうが黙り込む。下を向いて唇を噛んでいた。
まぁ、普通に考えたらそうだろうな。前の飼い主だって、面倒みきれなくて、わたしを置き去りにしたんだろうからな。この子が拾ってくれなかったとしても、野良として生きてけば、なんとかなんだろ。
わたしがここまで考えた時、今度は、不意に首元を摘まれ、少年のほうへと引き寄せられた。
首根っこを持つのはいけないことだって知らねぇのか?
「あぁ、そうだったな。こういう持ち方はいけなかったんだ」
「ん……?」
少年が、そう呟くと、わたしを抱えなおした。わたしの『にゃ……?」という鳴き声が漏れる。その声に反応するかのように、少年の指がわたしの頭を撫でた。耳の後ろをコリコリと擽られる。気持ちいいじゃねぇか……。
「あぁ、父さんたちには、俺がお願いしてやるよ。俺が拾ったって言って。でも、叱られたら、おまえも一緒に謝れよ」
「お兄ちゃん、せっかくカッコいいこと言ってくれたのに、最後で台無しだよぉ〜。でも、ありがと。お兄ちゃん、大好き!」
少女が、わたしの見てる前で少年に抱きついた。
人間どもは、誰の目構わず、所構わず、例え神さまの前であってもベタベタすんのか? 見てるわたしのほうが恥ずかしいわっ。
わたしは、こうして、新たな飼い主に拾われ、少年に『ユキ』と名付けられた。
この兄妹の家で暮らすようになって一週間が過ぎ、そして、事故が起きた。
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