第8話 裸の王様は助けたい②
「クエストが……ない?」
俺達はギルドに来て即、頭を抱えた。
あんなに意気込んでいたというのに……クエスト、つまり依頼が無い。
なぜだ、前は掲示板を覆い尽くすくらいあっただろう……今は閑古鳥が鳴いていそうなくらいほとんどない。
「もしかして…クエストを受けに来たのですか?」
暇そうにしてた受付嬢がおずおずと話しかけてきた。
「なんでこんなにもクエストが無いんですか?前はあんなにあったのに!」
俺は抗議するように言った。
この調子ではただの霊能力者からホームレス霊能力者になってしまう。
それはマズイ。
非常にマズイ。
ただでさえ異世界に送られ、帰る手段は見つからず、おまけに金が尽きてホームレスにでもなったら確実にこの地に骨をうずめることになる。しかも餓死で。
何か、何でもいい。
俺達に金を稼がせてくれ……!
「あ、あのもしお金が尽きて行く当てがないならわたしの家に来ても……」
メアリーがまたもやもじもじしながら言ってきた。
普段ヤバい発言と行動で俺をドン引かせてるくせになぜこういう時だけ恥ずかしがるのだろうか。
順序がバラバラである。
そしてこうなる可能性もあるからいやなんだ。
もし俺が「えっいいの!?やったぁ!」(これはイメージです)なんて言ってのこのこついていったら確実に喰われる。
尊厳を捨ててまでコイツの家には行きたくない。
人間、捨てて良い物と悪い物がある。
「気持ちだけで十分だ」
俺がそう言うとメアリーは「素晴らしい精神だわ!」と言って感激していた。
恋は盲目というが、ここまでくるとアホの領域だな。
「実は……貴方と一緒にいた若い期待の新人冒険者さん達が次々と依頼を引き受けてしまって……ほとんど残っていないんですよ」
受付嬢が申し訳なさそうに言ってくる。
その期待の新人冒険者達に俺は入っていたのだろうかと疑問に思ったがすぐに考えるのをやめた。
クソ!アイツらめ!
物には限度というものがあるだろう!
次に会ったら幽霊の奴らに一緒に添い寝させて金縛りにさせるよう頼んでおこう。
だがどうしたものか……依頼はほとんどない、そして依頼を受けるのは初めて。
どうすればいい、どうすればいい?
「なぁ、依頼が無かったなら依頼を募集すればいいんじゃないか?」
「依頼を募集…?」
と、不意にダンゲルが俺の身体と一体化するという謎の遊びをしながら言ってきた。
まるでパンが無ければお菓子を食べればいいのよ、みたいな事を言ってきた。
そして次に俺の身体でそんなことしたらエクソシストを呼んで追い払ってもらうからな。
「あぁ!その方法もありますね!依頼が少なかった時にたまに募集するパーティの方々を見かけますが、それなりに依頼をされる方が多いんですよ。一度ご検討されてみては?」
俺とダンゲルが話していた事を聞いた受付嬢が提案した。
そもそも受付嬢にはダンゲルの姿は見えないので、結果的には俺が独り言を喋っていたのを聞いていたということになる。
なるほど、その手もあるか。
背に腹は代えられない、依頼が来るかどうか分からないが早速募集の紙を書いて出しておこう。
俺はできるだけ丁寧に文字を書き、自分達のアピールポイントを書き出した。
幽霊が見える能力を持っているので霊に関する相談を受け付けること、優秀な呪術師がいて占いが出来たりすることなど、他とは違うと強調させるように書き掲示板に張り出した。
「さすがに一人は来るだろう」
「そうね、優秀な霊能力者と呪術師が二人もいるんだもの!軽く数十人は押し寄せるはずよ!」
「そうだそうだ!この嬢ちゃんは俺の呪いを解いたんだからな!」
俺達は謎の安心感を覚えていた。
さすがに誰かは来るという、根拠のない安心感があった。
そして…待つこと一時間。
「「誰も来ない……」」
俺とメアリーが息ぴったりに呟いた。
依頼募集の紙を掲示板に貼って近くのテーブルに座って約一時間が経つが、誰一人として来ない。
ギルドの中はそれなりに人がいるのに、誰一人として来ない。
どうなっているんだ、人間、一つくらい悩みがあるだろう。
それを解決することが出来るのに、いいのか?今お前らは損をしているぞ?
ああ、ダメだ。
マイナスなイメージしか湧いて来ない。
考えるな、嫌な事を考えるな。
もうこの際どんな地雷を持った人間でもいい、金になる仕事をくれ!
「あっ!ねぇねぇキミ達!依頼募集の紙を見て来たんだけどここで合ってるかな?」
絶望しかけていた俺達の前に現れたのは、茶髪の短い髪の女性だった。
年は俺達よりも同じか、少し上で見た目は女冒険者のような軽装、腰にナイフをぶら下げていて胸やら太ももやら色々と見えそうな危険な格好だった。
「あっあたしの事はアイバって呼んで!悩み事があって困ってたんだけどその時ちょうど掲示板見かけてさー!君達がここにいたから声をかけて見たんだ!」
そう言ってアイバはケラケラと笑う。
なんだ、ちゃんとした人じゃないか。
これなら依頼もそこまで大変なものではないだろう。
「そうなんですか。ちょうど俺達も依頼を待ってたんですよ。それで、何か悩み事があるそうですね?どうぞお話ください」
俺が出来るだけ失礼のないように聞くと、アイバは「いやぁ悪いね!」と言って俺達の前に座った。
そして俺の隣にはさも当然かのように肌と肌が触れ合う距離にメアリーが座っていた。
文句の一つでも言ってやろうと思ったが大切な依頼人一号の手前、そんな事は出来なかった。
「仲良さそうだね君達〜!」
不意にそんな事を言われて俺は曖昧に愛想笑いでその場を切り抜けようとした。
だがメアリーは「クフフ」と謎の笑いで俺の顔をチラリと見ると、
「そうなんですよ。私達、既に愛の契りを交わしていまして、この場では言えないようなことも………」
「そんな事は断じてしていない。妄想と現実を混ぜるんじゃない」
俺達がそんなやりとりをしているとアイバは「ハハハ!」と笑いながら俺達を見ていた。
できれば早いとこ依頼を言ってて欲しいのだが……
「そうだ!君達悩み事相談してくれるんでしょ?実はあたし悩み事があってさ〜」
「悩み事というのは?」
俺が聞くとアイバはニコニコ笑顔から一転、瞬時に表情が無に還った。
「実は死のうと思ってて………」
「えぇ……?」
俺達の初めての依頼人は………とんでもない地雷でした。
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