第2話

「だから生徒会に入るのは反対だったの!なんで一緒に帰る約束をダメにしてまで学校のために晴さんが働かなきゃいけないの。」


「まだそんなに遅くなるかもわからないから、多分遅くなる程度。」

昼休みに入ってから、晴は図書室を訪れていた。理由は同じ家に住んでいる一年生の鈴木恵すずき めぐみに生徒会の活動で帰りが遅れることを家族に伝えてもらうためである。


晴自体はそれだけ伝えて図書委員の仕事をしている恵の邪魔にならないようすぐに帰るつもりだったがそうはいかないらしい。

「晴さんは真面目すぎるんです。少しぐらい休憩する時間を取らないといつか倒れちゃいます。全く、あの先輩方は本当に…」

以前から恵は晴のことになると気性が荒くなり誰にでも恐れずに噛み付いてしまう

生徒会に入ることになった際には楢崎先輩と大池先輩に対して晴さんを無理やり入れるのはおかしい、と直談判したくらいだ。

・・・二歳も上の先輩方に対して自分の意見をしっかりと伝えることが出来ている。

そのことを考慮したら恵は俺よりも生徒会に入るべきなんじゃないか?


「別に夜遅くまで遊ぶわけでもないから、あやさんとりょうさんにも伝えといて」


「・・・。わかりました。出来るだけ早く帰って来てくださいね」

なにか言葉に詰まっていたが笑顔で返事してくれるなら納得したと考えていいのかな。

晴のことをまっすぐ見つめる恵から視線を外すように窓の外の空を見つめる。

「どうかしました、晴さん?」

「んや、なんでもないよ。とりあえず今日は一緒に帰れないから友達と帰るように」

はい!と元気よく返事する恵、


の素直さをみて、いい妹を持ったと感じる。恵は素直で真面目、勉強もしっかりと出来る欠点なんて無いように感じる。

しかし、家庭のことは全くと言ってできない。両親が両働きだった恵は本来なら家事も一通り任されるはずだった。しかし鈴木家には晴がいた。炊事、洗濯、掃除、その他全ての家のことはすべて晴がこなしてしまうのだ。

小学生の時からそんな状況が続いているので恵自体も当たり前に感じているだろう。中学二年生頃からはお手伝いを積極的にしてくれようとはしてくれる。晴としては家事は自分の仕事なのであまり気が進まなかったが恵から『お嫁さんになろうとした時に家事がなにもできなくて結婚できなかったらお兄ちゃんは責任とってくれるの?』と言われてしまいなにも言い返せなかった。晴としては家のことは女の人の仕事という考えは違うと思いながらも確かに中学生になって洗濯が全くできないのは男女問わずあまり良いものではないと考え、簡単なものは任せるようにしている。



鈴木晴は家庭的でしっかり者である。家の内外からは全てを任せられる立派な子。保護者の視点からも手がかからない子という評価だ。地区の活動には積極的に参加し、どんな面倒なことでもしっかりとやり切る。


ご近所さんとの付き合いもよくすれ違うたび挨拶されるほど仲はいい。

しかし、近所の同世代の子供たちには友人と言える存在はいない。別に近くに子供が少ないわけではなく晴の付き合い方が悪いわけでもない。

ただ、関わる子供たちは少しずつではあるが晴から距離を取るのだ。


それ以外にも家からかなり離れたこの高校に通い始めたのも原因の一端だろう。



伝えることは伝えて他の図書委員の人に頭を下げて出て行く。

頭を下げられた図書委員は驚きつつ会釈する。



「またそんな悲しい言い方するんだね、、」

「ん?どうかした恵?」

「いえ、なんでもないですよ。」


友人の図書委員に笑顔を返した恵の顔には、先程一瞬見せた寂しそうな表情はなかった。


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