第2話 お腹に宿った命

はっと気付いた。

周りを見渡すと、僕は病院の待合室の椅子に座っている。


一瞬、眠っていた様だ。僕は仕方ないと大きく首を振った。

会社は繁忙期に入り、ここ数週間、三時間弱の睡眠しか取れていなかった。でも結婚して八年、長い不妊治療の末に授かった僕達の娘の為、僕は加奈の定期健診には必ず付き合う事と決めていた。

しかし、そのことが繁忙期の業務の忙しさと相まって、僕の睡眠時間を削る原因の一つとなってしまった。


でも加奈とそのお腹に宿った娘は僕にとって、何よりも増して愛おしい存在だった。


先ほどの夢で見た、十五年前の加奈の僕への告白のシーンも、僕の大事な娘を育んでくれている加奈を愛おしく感じている気持ちの表れかもしれないと、僕は夢を反芻はんすうしながら自分の心臓こころが高鳴るのを感じていた。


検査室から加奈が戻って来た。その顔は笑顔で溢れている。そして彼女は胸元にタブレットを抱えている。


「どうだった? 加奈?」


立ち上がった僕に彼女がタブレットを差し出した。


「これは?」


「これ見て、先生に三次元超音波測定したデーターを貰ったの……。八カ月の私達の娘……愛莉よ」


そのタブレットには、CGで描かれた娘の姿が見える。大きな頭、小さな身体。そして両手には小さな指が揃っている。

僕はジーンとして目に涙が浮かんで来るのを感じていた。


僕は加奈と手を繋ぎ、病院の建物の外に出た。横を歩く彼女はとても幸せそうに見える。


病院の駐車場で自分の車に近づいた。しかしドアの横のスペースが狭くてお腹の大きな加奈が車に乗り込むのは無理そうだった。


「加奈、ちょっと待って。車を出すから……」

僕がそう言うと彼女は大きく頷いて車の前で待ってくれた。

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