それはまるで夢みたいな【ルナリア】
ルナリア・スターレッドはこの街1番の本の虫だ。読破してない本などないほど、幼い頃から本を読むことと、星を詠むことを日課にしている。
この小さな街では知らない者がいないぐらい有名な話で、みんなが知り合いに近い存在だった。
そんな小さな街でルナリアの日常と言えば、まず、起きてすることは部屋に飾ってある植物たちに水をやり自身の身支度をしてから読み途中の本を読む。
それから朝食を取り職場に向かい業務をこなしながら淡々と過ごし、夜は星を詠んで明日の天気や占いを見る。
滞りなければ業務を終えて自宅に帰り本を読む……と、言ったようなもの。
しかしその日は少し状況が違かった。
業務を終えるまでは一緒。けれど帰宅路でそれは起きた。
目の前に大きな黒い獣が荒い息をしながら
一瞬暗い道でわからなかった。本来ならば見落とすほど真っ黒なその獣をルナリアは見つけたのだ。
見て見ぬすればそれで良かった。けれど盛れて聞こえる荒い息はとても苦しそうでルナリアは放っては置けなかった。
「あ、の……、大丈夫ですか?」
声をかけたところで獣が答えるはずもなく、ルナリアはそっと肩を落とした。
物語なら、話して答えてくれるのに……と、密かに思いながら、なぜ苦しんでいるのか、どこか怪我をしているのか、もししているならそれはどこなのか……と悩んだ。
けれど暗い夜道。しかも相手はそんな暗さに溶け込むほど真っ黒な体。分かるはずもない。
しばらく悩んだルナリアは小さく呪文を唱え、水のクッションを作り大きな獣を自宅に運んだ。
自宅に入ると広いリビングに下ろして電気をつけて大きな獣の目の前に腰を下ろす。
明るい場所ではよく見える。前足…人で言う肩の位置に深い切り傷があった。
「……回復系の魔法は得意ではないんです。……けど、止血ぐらいは出来ますから……少し、傷口を触らせてくださいね」
そう獣に呟くと傷口に触れてブツブツと呪文を唱える。
あたたかい光が獣の前足を包み血が止まった。
触れて気づいたのだが、獣に微弱な魔力があること。そして、魔力を消化しすぎていること。
僅かな魔力だと回復も遅い。ただ、ある程度の魔力さえあれば少なからずそれも少しは早くなるはずだ。悪い顔色も治るかもしれない。ならば、とルナリアは本で得た知識を元に自身の魔力を少しだけその獣に流してみた。
心なしか獣のん顔色が少し良くなった気がした。それを見てホッと肩を落とす。
部屋の奥から大きな毛布を持ってくるとその獣にかけてやった。安心したのか強ばっていた眉が下がっていき目を閉じた。
少し経つと小さく寝息が聞こえてきたのでルナリアは小さく笑ってその場を後にした。
物語なら、その獣は人に姿を変えてお礼に来るのだろうが、これは現実だ。そんなことはありえない。と、ベッドに横たわり睡魔に身を委ねた。
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