#最終話 王と光線銃

夜明けの光線銃

 サンジョウを倒したあと、他のゾンビは潮が引いていくようにいなくなった。


 代わりに憲兵が現れ、倒れたゾンビの山とサンジョウの遺体を引き取っていった。

 当然、ビョウブらは拘束されることを覚悟していたが、そうした詮議は全くされなかった。

 むしろ、その場において存在を無視されていたと言ってよい扱いだった。

 ビョウブ達の質問にもろくに答えず、憲兵達は感情を失ったかのように事務的に処理をして立ち去っていった。


 ビョウブはコーエンとヤマシロをそれぞれ自室に送り届けた。

 コーエンは憲兵の作業中も終始泣いており、そのまま眠ってしまった。


 対してヤマシロは、ビョウブが駆け寄った時点で目を覚ました。サンジョウの一閃を受けて胸に傷を負っていたが

「・・肋骨が折れている。心配ない」

と、余計に人を心配させるような発言をすると、ベッドで眠りについた。


 ビョウブは二人を寝かせた後、自室に戻ると、戦いの汚れも落とさぬまま、泥のように眠った。


 翌朝。

 ビョウブは窓から吹き込む雨と風で目を覚ました。

 どうやら窓を全開にしたまま眠っていたらしかった。


「よく眠っておったの。身体に痛いところはないか?」

 カモイがベッドの隅から声を掛けてきた。召喚書をほっぽり出したままだったようだ。


 ビョウブは起きあがると、腕や足を一通り動かしてみたが、特に大きな怪我をしている箇所はなさそうだった。無論、打ち身や切り傷、擦り傷の類はそこら中にあったが、大したことではなかった。

 一応、部屋の姿見で自身を確認してみた。

 やや血色の悪い自分の顔が映っている。目の下にはくまができかかっており、以前より痩せた気がした。


 そうしてビョウブが鏡とにらめっこしていると、ドアを叩く音がした。


「あのぅ、お食事の準備ができていますので、一階までいらしてください」

 店の主人だった。台所の地下倉庫で無事だったらしい。それにしても、店内は滅茶苦茶になっていたはずだが、通常営業が可能なのだろうか。

 ビョウブは首をかしげながら、一階へと降りた。


 驚いたことにすでにヤマシロとコーエンが、丸テーブルに座って食事を摂っている。


「遅かったわね」

「・・先に頂いている」

 テーブルの上には網カゴに入れられたたくさんのパンと、木のボウルに入ったサラダ、スープが並べられていた。

「ソーセージを焼きましたよ」

 ちょうど店主が焼いたソーセージを皿に載せて運んできた。


 ビョウブが店内を見回すと、所々窓や壁の破れたあとはあるものの、いずれもなんらかの応急処置がなされていた。憲兵たちだろうか。

「今朝もね、憲兵さんたちがきてくれたんですよ」

 店主はにこやかに話している。

「『騒がせてすまなかった。これで許してくれ』って、直すのを手伝ってくれた上、金貨を十枚ももらってしまいました」

 なんでもあけすけに話す店主である。

 しかし、金貨十枚とは、この一階を全面改装してお釣りがくるくらいの金額だった。


「あなたも食べたら?腹が減っては戦はできぬ、よ」

 コーエンにすすめられて、ビョウブも丸テーブルに着いた。


 宿の主人がすぐにスープを運んでくる。

 ビョウブはスープとパンにむしゃぶりついた。思っていたよりもずっと腹が減っていたらしい。


「・・ここの飯はうまい」

 ヤマシロがフォークにソーセージを突き刺しながら言った。

 宿の主人が台所から「ありがとうございます」と陽気な声をあげた。


 コーエンは、スープを全て平らげると、

「本当はサンジョウ様から話を聞いてほしかったのだけれど、こうなった以上、私が知っている限りの事を話すわ」

と改まって言った。

 眉間に少し皺が寄っている。

 まだ「サンジョウ」という名を口にするには、りきを入れないといけないらしい。


 ビョウブもつられて、力強くパンを食いちぎると

「おねがふぁいします」

と言った。まだパンが口内に残っているのだ。


 コーエンは少し、笑った。

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