第44話 彼女が襲って来るのは仕様ですか?

「――うーん……あ、あれ?」


 学校に入る前、目の居座ったリンと黒服のお姉さんたちを見たまでは覚えている。

 ――のだが、そこから先の記憶が無くなっているような。


 気絶させられたことすら記憶に無い。

 そうなると盛られたか、いや、何も飲まされてもいないけど。


 それはともかく、目覚めたはいいが目の前が真っ暗で何も見えない。

 どこかに横にされたでも無く、きちんとした椅子に座らされている。


 両手は何かのコントローラーを握っていて、足は縛られていて身動きが出来ない。

 これはもしかしなくても――。


 そう思っていたら、ブウゥンといった何かの起動音が聞こえて来た。

 そして真っ暗だった視界が急に明るくなった。


「んんん? フィールド……? どこかで見たことあるような」


 かつて部屋に籠って”引退”するまで遊びつくしたアレに似ている。

 視界に見える光景は、以前リンやミコさんと遊んだ画面とはまるで違う。


 どう見てもこれは――。

 そう思っていたら、画面の奥に見える草原から俺の所に何かが向かって来るのが見える。


 どう見ても敵にしか見えない。

 俺の手元にはありきたりの片手剣と、防御力が乏しい青銅製の盾が一枚あるだけ。


 向こうから向かって来るという時点で、こっちは敵からの攻撃を防御することしか出来ない。

 そうこうしているうちに、敵は目の前にいて両手に持っている鎌を振り上げていた。


「――うわあぁぁ!?」


 バシュッという斬られた音とともに、エフェクトがすぐに感じられた。

 痛みは無いが、リアルに血しぶきが上がっている。


 やはりこの世界は、LORの世界を表現しているようだ。


「そんなのも避けられないなんて、弱くなったものだな、リーダー?」

「――! リ、リン……か?」

「他にいるか?」


 画面上には見えていないが、耳元からは狂戦士リンの音声がはっきりと聞こえている。

 どうやらVRゴーグルを装着させられ、姿勢は固定という何とも言えない世界へ招待されたらしい。


 俺の予想と異なったが、これがおれに対するリンの表現ということなのだろう。


「まぁ、そうだな。それで、どうするつもりだ?」

「まずはリーダーをいたぶる。戦う感覚を取り戻さなければ、リンはリーダーの全てを奪う! 勝手に引退した償いは、体で償ってもらう!」

「えええっ!? そんな無茶な……」

「次、行くぞ!!」


 恐らく屋敷の中のどこかだと思われるが、手はコントローラー固定だし座らされているし、どうやってリアルに戻ることが出来るのか。


 リアルな痛みは無いとはいえ、公開処刑みたいで辛いぞこれは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る