第13話 仮想世界と恋と夢!?

「あ……の、ミコさん……敵って、か、彼女ですか?」

「ええ。間違いなく。この気配、殺気は丘の上に立つ狂戦士からのものです」


 この際、LORの世界を再現したことは良しとして、どうして彼女が敵側になって俺の前に姿を見せているんだ。


 俺の前に立って飛んで来る矢を盾で守ってくれているのは有り難いけど、ミコさんはどういうつもりなんだろうか。

 とてもふざけているようには見えないけど、俺たちに遠隔攻撃をして来ているのはどう見てもリンだ。


「イツキ様。このまま私は自動射撃の矢を防ぎ続けます。あなたは剣を手にして、敵に突っ込んでください!」

「て、敵って、リンですよね!? 彼女に剣を向けるんですか?」

「そうです。リンはイツキ様と本気で向き合う想いがあるのです。どんな手段であっても、遂げたいとお思いなのでしょう。あなたがリンを忘れずにいてくれた以上、この世界からでも気持ちを作って頂けませんか?」


 忘れずにいたわけじゃなかったけど、令嬢の力を無駄遣いさせてる気が……。

 

 彼女の想いに応えるとか、好きでも嫌いでも無いしそれはまだ何とも言えないけど、今は戦いに応えるしか無さそうだ。

 ものの見事に視覚だけで片付けられるような世界にしなかったのは、さすがと言える。

 

 俺がリーダーをしていた時はチートな強さを売りにしていたわけじゃなく、話術スキルで懐柔して行ったに過ぎない。

 こうなれば感覚を思い出しながらでも、リンに仕向けるしかないか。


『フン、ようやく来たか。アンタなら、まともに遣り合ってくれるって信じていたよ!』


 セリフだけ聞くと、確かに狂戦士リンそのものだ。

 中の人がリンだとしたら、中途半端な攻撃では一瞬でやられてしまう。


 彼女は双剣を手にして、防御無視で突っ込んで来たはず。

 それなのに剣どころか、武器を装備していないまま小高い丘に佇んでいる。


「イツキ様、あの子はイツキ様を待っているのです。どうぞ、思いきり向かってください」

「わ、分かりました」


 武器を手にしていない相手でも油断をしてはいけない、そう教えたのは俺自身だ。

 ここがバーチャルな世界だと分かっていても、彼女に体当たりをするしかない。

 

『う、うおおおぉぉ!!』


 思いきり勢いを付けて、彼女めがけてタックルを実行した。

 

 ミコさんの言う通り、腕には痺れのようなものが感じられるが、それは恐らくぶつけられたリンにも同じことだろう。

 ぶつかった感触は確かにあったが、相手からは何の反応も無い。


 もしかしてタックルだけで敵を倒したということなのか。


「え、えーと……? リン?」

「あぁ、やはりイツキくんは、わたしのリーダーに相応しい人」

「……へ?」

「こんなにも情熱的に抱きついて来てくれるなんて、そのお姿になってもらって正解ですっ」

「え、いやっ……あがっ!?」

「どうですか? LORの世界を再現出来ています? イツキくんの為にわたし、頑張っちゃいました!!」


 タックルして抑えつけるまでしなかったことで、すっかり油断した俺に、リンは全身で絞め技をして来た。ギリギリの所で力を抜いてくれているので、落ちることは無さそうだが……。


「が、頑張っちゃった……って、何が?」

「いくらわたしが令嬢でも、この設備を整えるのには結構お小遣いが必要だったんです! でもその甲斐がありましたっ! この世界の中でなら、イチャイチャし放題ですよ、イツキくん」

「う、うぅ、く、首が苦し……」

「今日はどのくらいの動きが出来るか試しだったんですけど、これなら外部からでも出来そうです!」

「く、くぅぅ……」


 リンの力はLORの時よりも、弱くしているみたいだがそれに反応出来ていない俺は、もうすぐ気を失いそうだ。


『イツキ様っ!!』

 もう少しで落ちそうだった所で、ミコさんの声とゴーグルが外されてギリギリ助かったようだ。


 ゴーグルが外され周りを見回そうとすると、何故か猛烈な眠気が襲って来て、そのまま眠ってしまった。

 そこからはミコさんに運ばれ、車に乗せられたようだ。


 ◇


「イツキ様、本日は突然のことで申し訳ございません。リンお嬢様は、あなたのことをずっと想っておいでです。また体が回復次第、お付き合いくださいませ……」

「そ、それはいいんですけど、学校の中でも変わらずに近付いて来ますよね?」

「それがリンお嬢様の望みですから。では……」

「みこさん、ありがとうございました」

「……いえ、こちらこそ」


 送りの車ではリンは乗って来ず、家の前で丁寧に頭を下げて来たのは、みこさんだけだ。


 令嬢の力であの世界を再現とか、それは嬉しさ反面、だからといってリンのことを好きになるわけじゃないのは、さすがに言えなかった。


 何にしても攻略組メンバーの彼女のやり方は、手段を問わないようだ。そのことが分かっただけでも良しとしよう。


 ◇◇


『遅~いっ!! 遅いよ、ミキちゃん! 早く家に入って顔を洗ってね!』

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