第27話 学園の姫は超ハンサムな男子とデートする
スクリーンにコマーシャルが流れ、映画が始まった。
ゴリラやリス、鳥など様々な動物たちが現れ、人間のドクターと会話をしている。こんなことが本当に出来たら面白いだろうな。動物たちのひょうきんなセリフや動作に思わず笑ってしまった。ストーリーに引き込まれながらも、ちらちらと龍と茜さんの方を見ると、買ってきたポップコーンを間において、交互に食べては飲み物を飲んでいる。
「あっ、手が触れてしまった」
ポップコーンを掴もうとした龍の手が茜の手に触れた。その度に茜ははっとしている。ポップコーンには、こういう役割があるのだと、健人は初めて知った。
ツボに入った場面になるたびに、奴は茜さんの耳元で何かささやいている。
―――映画館で会話をするのはいけないんじゃないのか、と思ってもこちらの思いは届かない。
二人はこんな会話をしていたのだった。
「あれ、~に似てるよね」
「ええ、そうかしら」
「あんなのがたら家で飼いたいな」
「アハハ、面白いわね」
「あの子可愛いね、茜さんにそっくり」
「あの子の方が可愛いわよ」
映画は笑いあり、冒険あり、スリルありでどのシーンも楽しめた。
ポップコーンに茜が手を伸ばしたその瞬間、龍は彼女の手を握ってしまった。
「あっ!」っと、健人は声に出しそうになり、言葉を飲み込んだ。
その代わりに茜が「あっ!」と声を出した。
茜さんはちょっと困ったような顔をしているが、相手を探るために懐に飛び込んでしまったので、手を離すわけにはいかない。龍は調子に乗って手を引っ張って自分の方へ近づけてしまった。あれじゃあポップコーンが食べられないじゃないか。しかも茜さんの顔ばかり見ている。これでは映画の話など頭に入っていないはずだ。
健人はじりじりして龍の一挙手一投足を見逃すまいと目を凝らした。
―――十五歳にして何度もデートをこなしているような身のこなしで茜さんを誘惑している。
映画が終わっても二人はなかなか立ち上がらない。仕方なく健人は帽子のつばを掴みながら先に外へ出た。すると二人は最後に出て来た。
―――何を勘違いしたのか龍は茜さんの肩に手を回している。
―――茜さんも振り払おうとはしない。
龍が話しかけている。
「面白かったね」
「ええ、楽しかった。すごくいい映画だったわね」
「一緒に見られてよかったな」
―――傍で見ていると仲がよさそうなカップルに見える。
―――茜さんは奴に心を奪われてしまったんじゃないだろうか。
二人は何やらおしゃべりをしながら映画館を出ると、すぐそばにあるイタリア料理店に入った。映画のチケットを見せると割引になる店だ。
―――お金持ちの割に節約することは忘れない手堅い男なんだな。
健人は二人が席に着いたのを見計らって同じ店内に入り、隅の方の席に座った。持っていた雑誌を読むふりをして顔を下に向けていた。
暫くするとパスタを食べ始めたが、龍はやたら茜の傍へ迫っている。ソファの席で隣り合って座っているせいでいくらでも接近できてしまう。茜さんの方が距離を取ろうとしているようだ。
「真行寺君は、女の子とデートするの慣れてるのね」
「あれ、どうしてそんなことを言うの?」
「こういう所もすごく場慣れしてるみたいだし、話題も豊富だし、それに全然緊張してないみたいだから。私なんかデートなんて慣れてないから、すっごく緊張してたの」
「ほんと? 僕と会うときは緊張しないでよ。自然な茜さんの方がチャーミングだよ」
「ありがとう。真行寺さんはこんなに自然に会話できるなんて、今まで付き合った女の子もたくさんいるのかしら?」
「いや、君が初めてだ。僕の初恋かもしれないな」
―――あれ、健人の話と全く違う。
―――相当な人数の女子と付き合ったことがあるって言ってたのに……。
―――これがこの人の口説き方なのかしら。
「嬉しいわ。初恋の人だなんて」
「映画だけじゃなくて、これからいろいろなところへ行って一緒にいろいろなものを見たいな」
「私も」
「さあ、パスタを食べて、ちょっと散歩でもしよう」
「わあ、美味しそう」
「僕のおごりだよ。遠慮しないでね」
茜は微笑みながらパスタを食べ、二人は散歩することになった。
店を出ると龍は茜を細い路地へいざなった。
「ここを通った方が近道なんだ」
「どこへ行くの?」
「ほら、こっち」
「えっ」
すると竜はいきなり茜の腕を引っ張り壁ドンした。
―――あいつ! 急に壁ドンするんだな。
―――どういうつもりだ!
健人は道の端に寄り財布を出したりして、考え事をしているふりをした。
そのまま時間が止まったように龍は茜の顔を見つめている。まずいキスするつもりだろうか。
龍がキスをしようとして茜の顔に近づけた。じっと茜の表情を窺がっていた。
「やめとくよ。なんか白けちゃった」
「えっ、どうしたの?」
「普通の女の子は僕がキスしようとすると、うっとりして目を閉じるのに、君は全然違うね。まるで僕を観察しているみたいだ」
「あ~ん。私ってそんなふうに見えたの! 真行寺君とのデートは楽しかったのに……」
「それに、あそこにいる彼。僕が気がつかないとでも思ったの。ずっとこっちを見てたでしょう」
「え、え、え、え、え、えっ。あんな人知らないわよっ!」
「君の家の執事君でしょ?」
「あああああ~~、あっあっあっあっ、い~~え」
「ちょっと自信無くしちゃったよ。今日はもう帰るけど、次は君に心から夢中になってもらえるようにするからね。あの彼にもよろしくね、じゃあ!」
「はあ~~~」
―――あ~あ、僕のせいで。
―――僕の尾行が下手だから彼には見え見えだった。
―――あいつもあいつだよな。
―――分かってていちゃいちゃして見せつけたんだからな。
「茜さん、御免。ばれちゃって……」
「いいわよ。誰でも自分に夢中になると思ってたんだろうから」
―――茜さんの言葉を信じていいのだろうか。
―――なんせ真行寺は男の自分が見てもほれぼれするようないい男だったんだから……。
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