第16話 学園の姫に看病される

―――今日はやけに体がだるい。


―――こんなことはめったにないのだが、どうしたんだろう。


 健人は布団に入ると、あっという間に意識が無くなった。すぐさま眠ってしまったのである。


 そんなこんなで、あっという間に朝になり目を開けた。昨日の気分は少しは良くなっていたのだが、起きるとふらふらする。しかし、学校へ行かないわけにはいかない。茜が一人になってしまうからだ。執事見習いとしては、そんなことは絶対に許されない。


「さて、起きるぞ。こんなの体を動かしていれば、治ってしまう!」


 気合を入れるために、声を出していってみた。幾分元気になったような気がした。しかしそれは全くの気のせいだった。


「だけどあまり食欲がない。牛乳とバナナだけでいいかな」


 またしても独り言を言い、学校へ出発した。両親も仕事に行ってしまった。休んでいる場合ではない。



 学校へ着くと茜はすぐさま健人に話しかけてきた。一緒に飾った七夕飾りの話で盛り上がり、話は止まらない。


「それで、あれから二人が書いたのを見て塁が大笑いしちゃってさあ……」

「た、楽しかった。折り紙を覚えられて、良かった……」

「あら、どうしちゃったの。元気なさそうじゃない」

「そ、そんなことは、ないよ……。ちょっと疲れただけだ……」


 いつまでも話したがっている茜さんから離れて一人自分の席についた。


「じゃあ、もう朝のホームルーム始まりそうだから私も座るわ」

「ああ、そうだね」


―――学校へようやくたどり着いたものの、体は昨晩よりもふらふらしてきた。


―――どうしたんだあ!


―――目覚めろお! 


 下を向いて、エネルギーをチャージしてみる。


 目をつぶって、体を極力動かさないようにする。それでも、体のだるさは消えない。


―――まあいい、一時間目は座学の授業だから何とかしのげるだろう。


―――下を向いてできるだけ指名されないようにじっとしていよう。


「ふ~っ、ようやく一時間目が終わったところだ。やっぱり俺変だ」

「保健室へ行ってみようか。私が付き添うから」

「……ああ、御免ね」


 茜に付き添われて、保健室へ行った。念のため熱を測ってみると三十七度八分あった。


「あら、熱があるわ。もう家へ帰った方がいいわ」

「一時間休んでから返ってもいいですか。寝たら熱が下がるかもしれないから」

「一時間ぐらいじゃあ下がらないと思うけど、だるいんだったら休んでてもいいわよ。でも一時間だけよ」


 学園では保健室で寝ていられるのは、一時間だけと決まっている。それでも治らなければ家宅することになっている。


「あ、茜さん。こんなことになって……」

「心配しないで。寝ててね。次の休み時間にまた来るから」

「先生、熱を下げる薬はないんですか」

「薬は人によって副作用があるから無いのよ。御免ね」


 保健室の先生は、ミネラルウォーターや、保冷材などを用意してくれた。健人は冷たい水を飲み頭を冷やして一時間横になっていた。


「一時間たったから、熱を測らせてくださいっ!」

「まあ、まあ、そんなにすぐは下がらないものよ。はい」


 計ってみても、案の定ほとんど熱は下がっていなかった。


「帰った方がいいわね」

「……そ、そうですか。分かりました」

「家の人は迎えに来てくれるのかしら?」

「いえ、仕事なので。自分で帰れます」

「そう、気を付けてね」


―――はあ、もう帰らなければならない。


―――茜さんがやってきたが、先に帰るのが心苦しい。


「健人、熱は?」

「下がらない。もう帰るね」

「帰るって一人で帰るの?」

「誰もいないから仕方ない。じゃあ、本当に心苦しいんだけど、茜さん一人で頑張って……」

「……そんなあ! 私一人で……」


―――茜さんは、涙目になっている。


―――そんな顔をされても困るな。


 健人は担任に断って一人寂しく帰宅した。




 ……はずだったのだが……。



 保冷材を頭に乗せ布団の中にもぐりこんでいると、玄関のチャイムが鳴った。無視しようかと思って無視していたら、スマホに着信があった。


(健人! 開けて。家の前にいるから。 茜)


―――はあ。何だって! 


―――家の前に、茜さんが来てる!


 健人は起き上り、鏡を見た。


―――こんなぼーっとした顔見られたくない。頭も……痛い。


「はい」

「私よ。茜」

「一体どうしたんですか?」

「あたしも早退してきちたのよ」

「そんなあ……ダメだよ。僕が怒られちゃう」

「内緒にしとくからいいわよ」


―――茜さんが部屋にいても起きて話をするわけにもいかない。


―――どうしたらいいんだ!


「寝ててね」

「あ、はい」

「看病しに来たんだから」

「そんな、悪いなあ」

「健人が倒れちゃうと困るんだ。だから早く良くなるように、看病するね」


―――そういうことなのか。


 健人は、再び布団にもぐりこみ安心して眠りについた。時々頭に手を置かれたり、保冷材が取り換えられる気配があった。その度に後で薄目を開けると、茜が心配そうに健人を見ていた。そしてまた目を閉じて眠り続けた。いつの間にか昼になっていた。


「健人、おかゆを作ったから食べてみてね」

「どうやって、作ったの」

「台所で、なべとお米を見つけたからぐつぐつ煮て作ったの」


 おかゆからは湯気が出ていた。健人は冷蔵庫から梅干を取ってきて乗せた。そういえば、朝食もあまり採っていなかった。急に空腹だったことに気が付いた。


「始めて作ったんだけど、どうかな?」

「美味しい! ふっくらして優しい味」


 おかゆを食べると体中に、元気がみなぎっていくようだった。


「ありがとう」


 そういって、健人は再び布団にもぐりこんだ。

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