欠陥少女
久遠寺くおん
序章 プロローグ 七園ユウリ
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些か穏やかでない話だが、しかし客観的に僕らの関係を観測したところで他に言いようがないのだから、なるほど――彼女の辛辣な比喩はなかなかに的を射ている。
僕の全身から迸る愛情と劣情の類をまったく考慮していない辺りも、実にユーリらしかった。
今回はそんな彼女を紹介しようと思う。
七園ユウリは小学校四年生で十歳だ。
眠たげで気だるげな目つきと、新月の夜のように真っ暗な毛髪が特徴的な女の子で、言ってしまえばどこにでもいるような普通の女の子である。
学校で一番の美少女でもなければ、これといった才能もなく、どちらかといえば頭も運動神経も要領も悪い方だ。
手足はまるで野花の茎のように軽く手折れそうなほどに細く、目鼻がはっきりとした顔立ちも相まって、彼女のシルエットはどこかフィギュアを連想させる。
彼女愛用の寝袋に包まった姿はどちらかといえばチョコレートエッグに入っている食玩っぽいのだけども、そこも含めて実に愛らしかった。
ユーリと僕が出会ったのは去年の夏の始まりで、場所は通学路の途中にある閑静な住宅街の一角に申し訳程度に設けられた小さな児童公園だった。
夜の帳が下りたその三角形の公園で、ユーリはブランコに乗って遊んでいた。立ち乗りをして、鎖に繋がれたそれを全力で揺さぶっていたのである。
それまで運命なんてものはまるで信じていなかったのだけども――鼻で笑ってさえいたけども、その瞬間、僕は確かに運命めいたものを感じたのだ。
端的にいってしまえば一目惚れだった。
元々惚れっぽいタチではあったが、雷に打たれたような思いだった。
もっとも。モノの見事に玉砕したのだが……その結果として現在同棲に至っているのだから、案外僕には女の子を口説く才能があるのではないだろうか。
そう、ユーリと僕は同棲しているのである。好き合った男女がするそれだ。
――もっとも、同棲とはいっても橋の下での生活なのだけども。
雨風を凌げる我が家は二級河川に架かるナンタラ大橋の真下に位置している。布団はゴミ捨て場に捨てられていた寝袋で、俗にいうライフラインの類は通っていないのだけども、始めこそ文句しか言わなかったユーリも今ではここでの生活に随分と馴染んていた。
「――で? どうするの?」
ネギ入りの納豆を不器用に持った箸でかき混ぜながら、ユーリは小首を傾げる。
二度目になるのだけども、七園ユーリにはこれといった才能はない。しかしながら彼女の
「ねぇ? 聞いているの? レンタロー?」
「……うん、見なかったことにしよう。朝ご飯を食べようぜ」
もちろん僕のような男子高校生には必要がないし、それは女子小学生(不登校)であるユーリも同じだった。
恐らくは。うだつの上がらない探偵くらいではないだろうか。ユーリの特異なソレを有り難がるのは。
「でも、あのドザエモン。レンタローと同じ学校の制服を着てるよ?」
コンクリート製の橋脚に俯せの状態で引っ掛かった水死体をプリキュアの箸で指したユーリは「ねぇ、ねぇ、ねぇってば」と僕のワイシャツをもう片方の納豆の容器を持った手で器用に掴みながら小さく何度も飛び跳ねる。
――七園ユウリと死体はヒかれ合う。それが彼女にかけられた呪いの正体だ。
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