第八話 エメは仲間を手に入れた
冒険者ギルドでエルヴェのパーティに登録をする。エメが
それぞれの戦い方や連携を見るために、レオノブルの初心者向けマップで一度探索することになった。
ギルドで申請して順番待ちで探索は三日後になる。その間にエメは持ち物や装備の相談をエルヴェたちにしていた。
エルヴェは先輩
何度目だったか、エルヴェに向かって
「本当に出るんだね、
「ごめんなさい」
エメが小さな声で謝っても、エルヴェは気にしていないように笑ってみせた。
「大丈夫だよ。
エルヴェに穏やかに声をかけられて、エメは頷いて顔を上げる。エルヴェに杖を向けて落ち着いて声を出す。
「
その瞬間、エメの瞳にさっと赤い色が走った。エルヴェはその色を見て、エメに顔を近付けて瞳を覗き込む。
「え……エルヴェさん……? あの……?」
エメが戸惑って背中を反らすと、エルヴェは慌ててエメから一歩離れた。
「あ、ごめん。今、目の色が……」
「目……ですか?」
「うん、赤く見えたから。でも、今はいつもの緑色だね」
エメはそっと瞼に触れてみたけれど、自覚はないしわからない。エルヴェはすぐに笑って話を切り替えた。
「見間違いとは思えないけど……まあ、いいか。
「ええと……そうですね。
「大体、やろうと思っていたことの反対の効果になるわけだ。攻撃系もいくつか覚えてるんだよね。使ったことある?」
エメが攻撃系の魔法を覚えたのは、一人でダンジョン探索をしようと思ったからだった。その時のことを思い出して、エメはぎゅっと眉を寄せた。
「あります。攻撃系は
「え、ひょっとして、
「……パーティに入れてもらえなかったし、でもダンジョン探索はしたくて……採集だけするなら一人でもなんとかならないかなって思って」
エメは言い訳のように言葉を紡ぐ。エメにとっては、一人でダンジョン探索をしないといけないのは、パーティに入れてもらえなかったことと同義なので、悔しいし悲しいことだった。けれどエルヴェは、その話を好意的に受け取った。
「
エメは信じられないと言うように、目を見開いてエルヴェを見上げた。エルヴェは穏やかにエメを見ている。嫌味でもなく、本心から、そう思っている口振りだった。
「
「でも……結局一人だとうまくいかなくって」
「まあ、
エルヴェの言葉にエメは怯えて大きく首を振る。
「そんな……! 無理です!
「そんなに心配しなくても良いよ。
それからは、エメがどんなに「ダメ」「無理」と言っても、エルヴェはにっこり笑って「大丈夫」とエメに魔法を使わせ続けた。相変わらず
エメはこれまでずっと、魔法を使う時に緊張をしていた。また
でも、何度
練習室の
「エメさんの目、魔法を使う時に赤くなるみたいだね。それとも
帰り道、エルヴェはそんなことを言いながらエメの目をちらりと見た。エメには自分の目の色が見えないので、不思議な気分で瞬きをする。
「目の色が、変わるってことですか?」
「うん、そう。魔法を使う時とか……一瞬の時もあったし、結構長く変わってることもあったよ。赤というか、ちょっと紫っぽい……とても綺麗な色。あ、でも」
エルヴェはそこで一度言葉を切ると、首を傾けてエメの目を覗き込んだ。
「普段の深い緑も綺麗だよね」
エルヴェはそう言ってにこりと笑うと、何事もなかったかのように、また前を向いて歩き続ける。エメはその横を歩きながら、そっと瞼に触れる。瞳の色を褒められたのは初めてだった。
翌日はイネスと一緒に買い物に出かけた。同じ年頃の女性と一緒にこんな風に出かけるのは、エメには初めてのことだった。
最初に雑貨屋に行った。冒険者ギルド加盟店ではないけれど、冒険者向けの小物類を売っているお店なのだそうだ。
「加盟店よりもさ、デザインが良いんだよね、ここ。気に入ってるんだ」
イネスはそう言って、店の中を見回した。色合いやデザインの可愛い雰囲気のものが多い。エメはこれまで簡素なものばかりを使ってきていたので、こういったデザインの凝ったものを見るのは初めてだった。
手近の棚にあった髪留めを一つ手に取って見る。冒険者向けだからか、形はシンプルで邪魔になりにくそうなものになっている。同じデザインの色違いが十二色くらいあり、
イネスと二人でこの色が好きとかこれは使いやすそうとか言い合って店の中を見て回って、それからエメは携帯用の折りたたみブラシを買った。ひとつ9銅貨でエメにとっては少し
ブラシは
イネスも「綺麗な色だね」と言ってくれた。
買い物を終えて、屋台で
「今日、一緒に付き合ってくれてありがとうね。パーティに女の子が入ったら、絶対一緒に買い物に行きたい! って思ってたんだ」
イネスが細長い
「そんな、わたしの方こそありがとうございます。一緒に買い物できて、すごく楽しかったです。こんな風に買い物するの、わたし、初めてで」
エメも
「エメは可愛いよね」
「え、そんなこと初めて言われました! 髪も目も地味だし、ぱっとしないと思うんですが」
「そうかな。わたしはその色合いも好きだけど。でも、見た目の話だけじゃなくて、なんか、そういう雰囲気っていうか」
「えぇ……そんなことない……イネスさんの方が、落ち着いててしっかりしてて大人っぽいし、綺麗だと思います」
エメはそう言って、拗ねたように
イネスはエメの言葉に、ちょっと目を見開いた後、目を細めて笑う。そして、食べかけの
「ありがと! 嬉しい! やっぱりエメ可愛い!」
「ひゃ!」
イネスと二人でじゃれあって、エメは久し振りに声を出して笑った気がした。こんな風に他愛もなくお喋りすることも久し振りだった。
ダンジョン探索がうまくいかなくて、冒険者としての自信も失くしかけていて、エメはもうずっと長いこと気分が塞いでいた。エルヴェたちのパーティに誘われて、そんな憂鬱が段々と晴れていくのを感じていた。
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