第一章 ~『対等な戦いとシルバードラゴン』~
魔石を餌にした罠を張り、ドラゴンを狩る。この作戦は見事に的中した。
「これで百体目だっ!」
「ふふふ、もう一階層のドラゴンなら負け知らずですね♪」
小部屋に閉じ込められていてはドラゴンの長所を何一つとして活かすことができない。身動きの取れないドラゴンを狩るのは欠伸をするように容易かった。
「魔力量もかなり増えてきたな」
「百体ものドラゴンを狩ったのですから。それは強くもなりますとも」
「このまま千体討伐を目指すか……それともランクCの魔導書に挑戦するか……」
「アルクくんなら前者を優先すべきですね。そちらの方がより早く強くなることができます」
「それは持久戦を戦い抜けるようにか?」
「それもありますが、アルクくんの戦闘スタイルが離れて戦う正統派の魔法使いではないからです……だからこそ近接戦で効力を発揮する無詠唱魔法を強化するためにも魔力を増やすべきだと思うのです」
なぜ無詠唱魔法に魔力が必要なのかと、疑問が沸くがそれよりも先に確認すべきことがあった。
「無詠唱魔法は三段階ランク低下するんだろ? そんな魔法を強化して意味があるのか?」
「実は、アルクくんには秘密にしていましたが、無詠唱魔法はランク低下の制約なしに発動する抜け道があるのです」
「そんな便利な方法があるならもっと早く教えてくれよ……」
「教えても意味がありませんでしたから。なにせこの抜け道はランクCどころかランクA相当の魔力量がなければ使えないのですから」
ここまで聞けば、話の道筋が見えてくる。
「無詠唱魔法は普通に使えば三段階ランク低下の制約がある。だがその制約をなしにできるとは思えない。別の方法、つまりは魔力で代替するんだな」
「正解です♪ さすがはアルクくんですね♪」
無詠唱魔法をランク低下なしで使用する場合、消費する魔力量は通常時の十倍になる。魔導書を読む魔力量さえ命を賭けなければ得られなかったアルクにとっては、確かに現状の強さを手に入れるまでは聞いても役に立たない情報だった。
「無詠唱魔法を極めれば、接近戦で無類の強さを誇ります。それこそ剣士にだって後れを取りません」
「相変わらず剣士が嫌いなんだな……」
クリスは剣術を否定するが、アルクはいまだ剣の強さを疑っていないし、無詠唱魔法と組み合わせることで、より接近戦が強くなると信じていた。
「でも千体のドラゴンを狩るとなると、より効率的な方法を考えないとな」
「ふふふ、実は私に考えがあります……アルクくんはドラゴンがどのように子供を生むかを知っていますか?」
「……俺にセクハラしたいわけじゃないよな?」
「違いますよ! ドラゴンは五年に一度の周期で単為生殖する生き物で、胃の隣にある魔力器で育てられた卵を口からポロっと吐きだすのです」
「五年に一度か。でもそんなに待っていられないぞ……」
「そこで私の出番です」
「なるほど。俺が修業していた時の流れが異なる結界空間にドラゴンを閉じ込めればいいんだな!」
一年が一秒になる空間なら外の世界で五秒経過するごとにドラゴンが生まれることになる。戦う相手に困らなくなるのだ。
「それにこの方法ならもう一つの長所があります。正確にはアルクくんの魔石で釣って、罠に嵌めるアイデアの欠点を埋めてくれる方法と言い換えるべきかもしれません」
「俺のアイデアの欠点?」
「アルクくんの罠のアイデアは素晴らしいですが、相手が中型や大型のドラゴンだからこそ成り立っているのも事実です。もし小型のドラゴンが引き寄せられれば、この戦術は通用しません」
「なるほどな……だがその心配は無用だ。分かっていて、この罠を張ったんだからな」
「どういうことですか?」
「俺の目的は魔力を高めることの他に実戦経験を得ることがある。対等な立場で戦わないで得た経験は実戦と呼べるか疑問だからな」
身動きを取れない相手を魔法で一方的に刈り取る。だがこれから戦う相手に同じ戦法が通じるはずもない。一度は実戦を経験しておくべきだ。
「こんな話をしていたからかな。どうやらまた一匹、罠にかかったみたいだ」
転移魔法の罠に落ちたドラゴンが部屋に飛ばされてくる。銀色の翼を羽ばたかせる小型のドラゴンは今まで見たことのない種族だった。
「あれはシルバードラゴンです! 実力的には一階層のドラゴンの中でも上位に位置します」
「好都合だ」
シルバードラゴンは別の場所へと急に転移されたせいで戸惑っていた。そのスキを突くようにアルクは詠唱を始め、腰から剣を抜く。
発動したのは雷の魔法だ。魔素に包まれたアルクの細胞は活性化し、高速で稼働することを可能にする。
「相手も俺を敵だと認識したようだな」
シルバードラゴンの特技は口から放つ風の弾丸である。命中すれば体が切り刻まれる魔法を食らうわけにもいかない。
だが他のドラゴンと違い、シルバードラゴンは魔法を放つまでのタメが短い。気づいたときにはすでに魔法が放たれていた。
向かってくる風の弾丸、アルクはそれを首の動きだけで躱す。攻撃を完全に見切っていた。
「百体のドラゴンを相手にしたんでな。口から放たれる魔法がどこに命中するかを予想するのなんて簡単だ」
対ドラゴン戦ではブレスこそが最大の警戒ポイントである。放たれる場所が同じ口であるならば、チャージ時間が短くとも見切るのは難しくない。
「次は俺の攻撃だな。一撃で終わらせてやるっ!」
雷の魔法でスピードを増したアルクは一瞬で間合いを詰めると、そのまま体重を乗せて、細い首に刀を振り下ろす。
ドラゴンは硬い鱗と強力な魔法を扱える種族だが、その反面、反応速度は鈍重だ。雷にも似たアルクのスピードに反応できるはずもない。
さらに頼みの綱の外皮も、アルクの手にした名刀の前には紙切れと変わらない。スパっと切り落とされたシルバードラゴンの首が宙を舞い、血飛沫が跳ねるのだった。
「ふぅー、対等な戦いでも十分に力が通じると証明されたな」
「やりましたね、アルクくん♪」
アルクは刀を鞘に納めると、シルバードラゴンに触れて、銀色の魔石へと変化させる。身に纏う魔力がさらなる増加を果たす。
「クリス、さっきの話を一つ訂正させてくれ」
「訂正、ですか?」
「俺は思った以上に欲深いらしい。千匹のドラゴンを狩るだけでは満足できそうにないんだ……だから一万匹のドラゴンを狩るまで修業を続けようと思う。付き合ってくれるか?」
「もちろんですとも♪ 私はあなたのパートナーなのですから♪」
一万匹のドラゴンを倒して得られた魔力量は如何ほどのものになるのか。アルクは強くなった自分をイメージして、口元に笑みを浮かべるのだった。
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