彼女は〝少し〟変態でした。

Rn-Dr

ちょっと童顔な彼女


 高校一年生。新しい出会いと思春期のぶつかる時期。


 もちろん俺、汐屋 結城しおや ゆうきもそんな状況に流され心待ちにした。


 俺の育った場所は田舎でもあり、小学校から中学校まで全員がクラス替えの無い生活だったんだ。楽しみにして当り前じゃないか。



 一次試験で合格した普通高ではあるが、中学の担任の勧めで昔からやっていたバレーボール部に入部を決めた。



 それから半年、クラスにも慣れ、部活生活も優しい先輩たちのおかげで順調な学校生活を堪能してはいた。


 後は出会いだけ。


 そう。そしてその出会いが一番難しい。


 クラスは女子との出会いは確かにあった。だけどみんな同じ中学の奴らとばっかり話してて入る隙間がない。


 部活では女子バレーが隣で練習してはいるが、接点がない。男子バレー部一同、女子がスパイクを打つ時、レシーブで屈む時、セッターがバックトスをするために胸を強調する時、それだけが俺たちの心のオアシスになっていた。


 だって揺れるんだよ? そりゃ思春期である俺たちからしたら誘惑以外の何物でもないよね?


 まぁ、こんなふしだらな事ばかり言ってしまったが、ちゃんと練習はしている。


 一応は高1でレギュラー入りは果たしているんだから先輩たちの足を引っ張る訳にもいくまいて。


 今日もフォーメーションの練習。俺はスタート位置がバックレフトだから最初は拾う事が重視。隙があればバックスパイクにも入るけど、試合での流れを掴まなくてはいけない事も考えればレシーブをセッターに返すことが一番の仕事だ。


 そのターンが終わればすぐに前衛のレフトにシフト。相手のサーブ時にはセッターにだけ見えるようにジャンケンで使うパーを作る。


 いろいろサインがあるんだけど、今俺が出しているサインはセンターでの速攻攻撃のサイン。

 レシーブが上がったと同時に、レフトからセンターへと走る。


 レシーバーの人が拾ったボールを一瞥し、後はセッターと相手の前衛の動きを見ながらだ。


 もし相手が俺の方に二枚ブロックが付いたらフェイントで真裏にタイミングをずらすように、もし一枚だったなら手首で相手のライト目掛けて切り返す。


 地面を蹴り上げ、見えた景色に口角が上がってしまう。


 今日は調子がいい。ブロックが二枚ついているにも関わらず、その手が俺の視界の下に映っている。


 実際にそこまで飛んでいるのかなんて自分でも信じられないけど、調子のいい時は決まってこういう見え方をするんだ。


 (──フェイント止め、ど真ん中に落とす!)


 「──バシッ!」


 ボールを叩いた時の心地よい感触、ちゃんと芯を捉えたスパイクは相手のブロックの隙間をこじ開け、相手コートのアタックラインの少し後ろに突き刺さった。


 「よっしゃ!!」


 昔からスパイクなどが決まった時は声を出せ、なんて教わっていたおかげで咄嗟にガッツポーズを取りながら叫んでしまった。


 「──ピーーーっ!」


 審判の笛の音が聞こえ、すぐに自分のポジションに戻る。

 次はこちらがブロックをする番だから、ここは勢いを削らない為にも出来れば抑えたいシーンだ。


 「おい!結城何やってんだ!早く戻れ!」


 先輩の声に「???」となった俺はすぐに審判である顧問の方に視線をやると、ひじから先を90度に曲げ、二回ネットを叩くような仕草のあと、俺へとその腕を向ける。


 すいません。ネッチでした。


 ネッチはネットタッチの略だね。そう、つまりスパイク決まったけどその前に俺がルール違反してりゃ世話ないよね。


 (──練習位空気読めし!!)


 内心毒づいた。いや、だってめっちゃハズイじゃん。何が《よっしゃ!!》だ。俺。


 実際にはちょっとしたネッチなんかは試合でもスルーされることがある分、即づいてしまう事は致し方ないと思う。いや、それで勘弁してください。まじ顔から火出すから。



 *


 風呂に入り、ベッドでごろごろしているとスマホが着信を知らせてくる。


 「オーどうしたかず?」


 「おっ、でたでた。まだ寝て無かったんだな」


 電話の相手は徳島 和樹とくしま かずき

 同じバレー部の同級生だ。

 かずはレギュラー入りはしてないけど、なんだかんだで馬が合って仲良くなった一人。まーたこいつがモテるんだわ。うざい位に。


 「今日も女の話なら電話切るぞー」


 練習疲れの後にのろけ話とかやってられるか。


 「ちゃうちゃうって。・・・んや、女の話ではあんだけど、今日はお前宛だってーの」


 「はっ?俺に?」


 「そうそう、ちょっと変わるから待ってて」


 かずがそう言い残すと、ガヤガヤと音がした後に何を言ってるんだか分からない声が複数。その後に小走りでもしてるんだかカチャカチャとスマホのストラップがぶつかっているような音が聞こえてくる。


 「ええっと・・急にごめんなさい! 女バレの未来です! 分かりますか?」


 しばらくしてから聞こえてきた声に驚いた。


 彼女は島田 未来しまだ みく

 女バレの中では童顔の割に大人びた体で有名だし、遠目で見ていてもその笑顔に何度癒されたことか。


 でも、何でいきなりそんな子が俺に?


 「うん、知ってるけど・・・こんな時間にどうしたの?」


 今は夜の9時。よいこは寝る時間です。


 「ちょっとお話したいことがあったんですけど時間大丈夫ですか?」


 「ん?構わないよ」


 出来るだけ平静を装いながらもベッドに座り直し、そのまま耳にありとあらゆる集中力をかき集める。


 それはそうだ。女子と会話する事なんか何度かあるけど、こんな時間に電話で、しかもあんな可愛い子から電話来たら一字一句聞き逃す訳にはいかないからな。


 「ええっと・・・。今日の練習かっこよかったです! できれば付き合ってくれませんか!!」


 俺は頭が真っ白。


 「ちょっと待って、一回も話したことが無いと思ったんだけど・・・なんで俺??」


 いや、嬉しいよ。嬉しいけど、いきなり話したこともない女性に告白されるってどんな状況??


 「前からかっこいいなぁ~って思ってはいたんですけど、今日の練習見てたら我慢できませんでした! お試しだと思って付き合ってください!」


 いや、急。お試しって事は本番もあるの? その場合は結婚? いやいや、さすがに早いって。あれっ? なんで男女って交際するんだっけ? 結婚の為だっけ? それなら間違ってないのか。いや、でも高1だよ? 早すぎない? 結婚はもっと慎重にね? 人生の岐路だし。


 と言う具合に俺の頭はパンク。


 「お、お試しなら・・・はい。こちらこそよろしくお願いします」


 

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