3-42 結束

 ◇◆◇◆◇◆◇


 秋には、九州地区高校野球県予選、そして勝ち上がると九州地区高校野球大会の本戦に進める。選抜大会、いわゆる春の甲子園大会への出場権がかかっている。三年生が欠けて、一、二年生だけで不安視されたが、目覚ましいほどの成長で、何と県予選を勝ち上がることができた。本戦には九州の各県から2校ずつ出るのだが、清鵬館宮崎と北郷学園が出場権を獲得している。県予選の決勝で清鵬館宮崎は北郷学園に惜敗したが、本戦では宮崎県の両校が決勝まで勝ち進み、そこでリベンジを果たし、清鵬館宮崎高校は優勝を飾ることになる。春の甲子園大会出場を果たし、18年ぶりの夏の甲子園出場での快進撃は、まぐれの勝利でないことを証明した。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 そして、いよいよ大阪黎信との大会が近付いて来た。10月下旬もまだ宮崎は暖かいが、それでも夜は少しひんやりと涼しさ、あるいはわずかながらの寒さを感じるようになってきた。


「メグル先輩を勝ち投手にするぞ!」

「おー!」

 チームは確実に良い流れに乗っている。練習試合とは言え、大阪黎信に負けたくはない。大阪黎信もどうやら春の甲子園出場権をかけて順調に勝ち進んでいるらしい。きっと調子が良いはずだ。


 そんな中、思いがけない朗報が舞い込んできた。

「オリックスバファローズです!」

 柄にも合わず、声を弾ませて話しかけてきたのは栗原だった。

「本当か!?」

「4位指名です!」

 岡田朝樹がいるオリックスバファローズからプロ野球のドラフト会議で指名を受けたのだ。しかも栗原自身がファンだという球団でもあり、興奮を隠せないでいる。

「栗ちゃん! おめでとう!」

 栗原はチームメイトと抱擁している。その中には愛琉も加わっていた。

「胴上げしよう!」

「おいおい、プロ入り前の大事な身体なんだから、丁重にやれよ」

 そう言いながらも、皆、祝福のあまり豪快な胴上げをした。

 オリックスバファローズからの単独指名。4位とは言えど、イチロー選手もかつてはこの順位で指名を受け、メジャーでも大活躍の選手となった。ひょっとして岡田の口利きもあったのではないか。清鵬館宮崎にオリックスが好きでいい外野手がいますよ、とか球団スカウトに言っているかもしれない。もし本当にそうであれば、彼には感謝しかないな、と改めて思った。

 大阪黎信でもキャッチャーの吉澤直貴が、千葉ロッテマリーンズから何とドラフト1位で指名を受けていた。来年以降のペナントレースは楽しくなりそうだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 そして試合まで一週間を切った頃。ミーティングでは、各選手から力強いコメントが聞かれた。

「今回はただの練習試合じゃありません! 俺はメグルちゃんのためにセカンドの当たりはすべてアウトにします!」そう力強いコメントを発したのはレギュラーとなり、守備の成長も目覚ましい釈迦郡だ。

「メグル先輩がいなければ僕もこの部活には入っていませんでした。今回キャッチャーは監督にお譲りしますが、キャプテンとしてチームを統率する姿を見てもらいたいです!」この夏が終わってからキャプテンを務めている銀鏡も、凛々しく発言した。

「まさか引退してからこのチームで野球できるとは思いませんでした。本来は二年生、一年生に譲る大会を、三年生が取っちゃう形で悪いけど、嶋廻に免じて許してほしい」

「プロに進むと決めたので、せめてホームランの1本でも打って、オリックスの首脳陣にアピールしたいと思ってます」

「俺も、最近の中武の成長を見て、サードは安心だなと思っていたところ、また三年生がしゃしゃり出て申し訳なく思ってますけど、嶋廻には三年間『ドロタニ』と呼ばれ続けてきたんで、泥臭く頑張りたいと思います!」

「僕は、今回は、受験勉強で試合には出ないけど、このチームにいることは何よりも喜びです。ベンチから見守る形になると思いますが、よろしくお願いします」

 三年生の泉川、栗原、泥谷、横山が順にコメントをする。それぞれこの試合にかける想いはまちまちだが、情熱を注いでいるのは間違いない。

「みんなっ、『ブーゲンビリアのサウスポー』の異名を持つこの不肖、嶋廻愛琉が投げて、繁村監督が受けて、さらには相手は元プロ、現役プロが出てくる超超超メモリアルな試合なんだから、恥ずかしいプレーはアタシが遠慮なく監督に交替してくださいと進言するよ! 気合い入れて、夏の雪辱を晴らしましょー!」

 トリは愛琉だ。いかにも愛琉らしい独特のコメントだ。しめやかになりがちなミーティングの場をどっと笑いに変えることができるのは愛琉のパワーだ。


 そして繁村の発言の番だ。

「今回は異例とも言える引退試合を、夏の優勝校である大阪黎信と組むことができたのは、ひとえにみんなのおかげだと思ってる。だけどご承知のとおりただの記念試合ではない。これに勝って、全国覇者に同等の力を持つことを世間に証明するんだという気概をもって臨むこと。三年生だってそのつもりで戦わせるし、俺だって老骨に鞭打ってやる。気持ちの伝わって来ない者は、さっきの愛琉の発言にもあったとおり交替させるから、二年生も一年生も、もちろん三年生も気合い入れるように!」

「オッス!」声が一つになる。

「では、オーダーを発表する!」

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