第6話 黒い手帳
伊東はいつものように出勤していた。
会社ではいつものように眠たそうに欠伸をしながら出社してくるメカニックが入ってくるのを見届けながら一人一人に挨拶をしていく。
デスクには沢山の書類が散乱している。どこのデスクもそうだ。
新車を販売している綺麗なショールームがあるお店は大体裏の事務所は資料やらカタログで散乱している。
汚いなと思いながら伊東は資料を片付けてやっと自分のデスクのスペースを確保していた。
メカニックの一人が伊東に話しかける。
『今日突発で一人代車出さないといけないから店長に名に出すか電話しといて』
『え、今日は店長休みなんですか?』伊東が不意に話しかけられたので慌てて質問した。
『今日は本部で会議だから店に来るのは夕方過ぎだな。』もう一人のメカニックが答える。
代車空きあったかな?
伊東は頷きながら少し不安になりながら代車ノートという貸し出し帳を手に取って眺め始めた。
急遽代車を貸し出すときはいつも店長は不機嫌になるので代車の話を切り出すのは気まずいと感じていた。
朝礼が終わり各自、持ち場についていった。
伊東は先輩営業マンと今週は何台車が売れるのかお互いの戦略をすり合わせしていた。
その間に続々と本日点検予約のお客が入店してくる。
事務所内は出迎え作業で慌てだす。
伊東は昨日世守と電話で話した事。店長が管理している代車の事でおかしい所を何とか探してみてほしいと言われていたのを思い出し本人不在の店長デスクに向かう。
何かと言われても何を目安に探せばいいのだろう。
他人のデスクの引き出しを開けるのはとても気が引けるしなんだか怖いが今は彼の助言に従おう。
デスクの上はどのスタッフよりも散らかっていた。昔のイベントの計画書、決算済みの書類、まだ目を通していない別のスタッフの契約書、散乱している机の書類を調べられるだけ調べた。
特に怪しいものはない、伊東は店長が隠すものなどあるのだろうか?ただの腹いせで自分に暴力振るっていただけなんじゃないのか?そう考え始めていたところ、机の二番目の引き出しの奥に手のひらサイズのメモ帳を見つけた。中を開いてみるとそこにはパチンコでいつ、どこで、いくら勝った、負けたかの記載がされているメモ帳を見つけた。
確か店長が前にパチンコが好きなメカニックに帳簿をつけていると自慢していたな。
伊東はそう思いメモ帳を戻すときメモ帳が置いてあるところに黒い小さな手帳を見つけた。
気になって手帳を手に取る。やたらと使い込んだ手帳だった。黒い表紙は所々剥げている。
中を開くと〇に新と書いてあり、日付けと数字が横に記載されていた。
此れはなんかの取引のメモではないか、そう思っていると副店長が事務所に戻ってきたので慌てて手帳をポケットにしまい事務所を出ようとした。
『あー居た居た、おい伊東、朝の代車の件だけど整備その日に終わるみたいだから代車要らないそうだぞ。』副店長が声をかけてきた。
『あーそうなんですか。そしたら店長に電話しなくて済みましたね』伊東が慌てて答えると副店長が続けて質問したきた。
『店長の机になんか用があったの?』
『いえ、代車の管理帳が見当たらなくて店長の机にないか探してました。見つけたんですけど必要なさそうですね。』伊東はできる限り平常心を装いデスクに代車管理帳を置いて外に出ていった。
危なかった。伊東はふーとため息をついた。
おの副店長は狸おやじだ。自分が店長に怒られない様に他のスタッフの粗探しをして店長に報告する癖があるからだ。
彼に何度も小さい書類ミスを報告されて怒られてきたことか。
本当にめんどくさい!伊東は小声で悪態をついた。
とりあえずこの手帳はすぐに世守さんに渡そうそう思い車に乗り込み携帯電話を取り出し世守に電話した。
Twilightでは零士が不在の京の代わりにモップで床を掃除していた。
一体どうなっているんんだろう。
伊東さんが暴力を振るわれている原因は本当に仕事のミスだけなのだろうか?
精神病で会社を休んでいる小栗さん、別の店舗に異動になり喜んでいる鈴木さん。この人たちは一体何が原因だったんだろう。鈴木さんはわかるけどねあの態度なら車も売れないたろう。それだけでそこまでの事になるのもおかしな話だけどなぁと色々と考えながら掃除をしていた。
奥の部屋から世守が出てきて話し出した。
『零士くん!ちょっと出かけてくる!』
『え?どこに行くんですか?』零士が出ていく世守に慌てて質問した!
『伊東さんがどうやら今回の件で鍵になりそうなものを見つけたみたいなんだ!近くまで来てくれているみたいだから会って預かってくる!』世守はそう言うとヘルメットを持って外に出た。
鍵になりそうなもの?一体なんだ?呆然と見送る零士はそのまま考えながら掃除を続けた。
伊東はコンビニの駐車場で世守を待っていた。
バイクの轟音が聞こえ振り返ると大きな黒いバイクに乗った世守が到着していた。
『すいません!わざわざ届けてくいただいて!』ヘルメットを脱ぎながら世守が話しかけてきた。
『いえ、大丈夫です。こちらこそ呼び出してしまいすいませんでした。』そう言いながら伊東はポケットから黒い手帳を世守に手渡した。
『これですか。例の気になる物って言うのは?』世守は手帳を受け取りながら質問した。
『そうです。今日は店長は会議で戻って来るのは夕方過ぎなんでその間に机を調べていたら出てきました。正直僕には何のことかわからないですが、これぐらいしかありませんでした。』伊東は申し訳なさそうに話した。
世守はじっと手帳を見ながらページをめくった。
『この数字は何ですかね?』ボソッと世守が質問した。
伊東自身も全くわかってないが話せることすべてを話そうと思い答えた。
『それがわからないんですが、店長は変に几帳面な所があって、パチンコで勝った負けたの金額を記帳しているぐらいなんでそう言った物かもしれません。』
『なるほど、パチンコの成績を記録するタイプの人なんですね』
世守は手帳を見たまま答えた。
伊東は小さい声で世守に質問した。
『私は本当に大丈夫なんでしょうか?』伊東が不安そうに質問をすると世守は手帳を読むのを止め伊東を見つめた。
その目は優しい目して伊東を見つめていた。伊東はそのまま話を続けた。
『昨日も掃除を始める時間が遅いと店長に足を蹴られまして、困った顔をしたら、俺に文句があるならいつでも杉原に泣きつけばいいじゃねーかお前みたいな出来損ないの一般社員なんか相手にしてくれねーだろうがな!と怒鳴られまして正直もう精神的に限界なんです。』そう言うと伊東は下を向いた。
『杉原というのは?』世守はすぐに質問をした。
『人事課の重役です。自分とは同じ出身地で同じ高校出身でそれもあって今回縁があってこの会社に入社できたんです。まぁたまたま面接の時に話があったのでコネではないんですがいい人です。とても忙しい方でもありますが。』伊東は丁寧に語たった。
『そう言うことですか、その方は信頼できそうですか?』世守は質問した。
『はい。杉原さんはやはり人事課で上に上り詰めただけあってこんな私にも優しくしてくれました。ただ、店長はそう言う所も気に入らないらしく私の前では杉原重役の文句だったりをわざと話すんです。事ある度に杉原に泣きついてみろと言われまして、私も杉原さんのおかげで入社させていただいた身なので迷惑をおかけしたくないので我慢する一方です。』伊東は悔しそうに下を向いた。
『そうでしたか、でも安心してくださいこれのおかげでかなり前進しそうですよまだはっきりとしたことはわかりませんが、解決の糸口にはなると思います。』世守の目は力強く伊東を見つめていた。
『本当ですか?お願いします!!』伊東は希望に満ちた目で伊東を見つめ深くお辞儀をした。
『念のためですがその杉原さんのお電話番号聞いておいてもいいでしょうか?』
『わかりました!世守さんを信頼して教えます。あそろそ帰らないと仕事が残ってるんで!失礼します。
』伊東は世守に杉原重役の電話番号を伝え急いで車に乗り店舗に向かって走り始めた。
ルームミラーにはずっとこちらを見つめる世守が見えた。
彼が言っていたな何とかなりそうだと、あと少しの踏ん張りだ!頑張ろう。
伊東は深呼吸をして落ち着かせながら店舗へと車を急がせた。
Twilight では床掃除を終わらせテーブルを綺麗に掃除している零士がいた。
零士はため息をつきながら腕時計をみた。
みんなまだかな?京さんいつ帰って来るんだろう。世守くんは事件解決の鍵を預かったのだろうか?
一人で考えながら全部のテーブルを掃除し終えると店の扉が勢いよく開き笑顔の京さんが帰って来た。
『お!零士くん掃除してくれたのか!ありがとう!』京は笑顔で零士に話しかけながら革ジャンを脱いでコート掛け掛けいた。
『あれ?世守は?』奥の部屋が電気が消えているのを見て質問してきた。
『なんだか依頼人の伊東さんから事件の鍵になりそうな物を預かるって言って出ていきましたよ。そろそろ帰って来るかもしれませんよ。』零士は何の気なしに答えた。
『なんだよー俺がわざわざ例の業者調べてきてやったのによ。いないのかよ!』ガッカリした声で京は言った。
零士はそれを聞いて京の所に近づいた。
どんな奴だったんだろう?京の情報に零士は興味津々で質問した。
『それでどんな奴だったんですか?教えてください!』輝いた目で零士は質問した。まるで話の続きが知りたくてしょうがない子供の様に零士は京をバーカウンター越しから見つめた。
あまりに零士が食いついたのを見て気をよくしたのだろう、京はニヤニヤしながら話し始めた。
『それがな、この深海って奴は素行の悪そうなやつどころじゃないみたいだぜ。
こいつの周りにいるやつはチンピラみてーな奴ばっかりらしいし、気に入らないとすぐ相手殴るは脅すわの奴らしい。』京はしかめっ面をしては話した。
『やっぱりそんな危ない奴なんですか?』零士は答えた。
『それにな、ここ何年か前から金の羽振りがいいんだってよ、親父の会社に入って新規事業を始めたって言ってそれが事故の運搬業者らしいけどそんな仕事じゃライバル業者もたくさんいるから儲からないはずらしんだけどどうやら運搬以外にレンタカー事業も始めているみたいで定期的に儲かる客がいるって周りに鼻高々に語っていたらしいんだわ。』京が煙草に火を付けながら答えた。
零士は黙って聞いていたが少ししてあっと叫びながら京に話した。
『それが例の代車ですか?』
京は指を鳴らしながら零士を見つめてにっこりと微笑んだ。
『そう!車屋からレンタカーを買ってそれをレンタルして保険会社から代車の費用をもらってるらしいんだわ!』京が得意げに答えた。
零士はなるほどっと思いながらふと疑問に思った。
『でもそれじゃ別に悪いことしてなくないです?レンタルする車を車屋から車買って貸し出しているんですよね?それって普通なことじゃないですか?』
京の顔が曇った。
『そうなんだよ。それじゃただの車屋にとってはいい客名だけ、代車としてレンタカーするのだって普通なんだけどなそれが今回の事件の引き金になるなんて到底思えないんだよなぁ。』京と零士が暗い顔をして考えこんでいると不意に零士の携帯電話がなった。
零士は慌ててスマートフォンの画面を覗いた。
タイミングよく世守からの着信だった。
零士は電話にでるなりスピーカーのボタンを押した。
『もしもし!世守くん?今ちょうど京さんが帰って来てて深海の事調べたみたいだよ!』零士は待ちきれず電話にでるなり話した。
『そうなんだ!こっちもちょうど鍵になる物を見ていて気づいたから電話したんだ!でも先にその話聞いていい?』電話の向こうから世守の声が聞こえる。
京と零士はスマートフォンの画面に向かって先ほどの話を話し始めた。
そうか。と声が聞こえて世守は黙ってしまった。
電話の向こうから紙がめくれる音だけ聞こえる。
零士と京は世守の反応を待つまで黙って耳をすませながらお互いを見つめ合った。
しばらくすると世守が険しい声で質問した。
『今何時!?』
零士は慌てて腕時計を見て答えた。『19時になるよ!いつ帰って来るの?』
少しの間沈黙があり世守が口を開いた。
『まずい!伊東さんが危ないかもしれない!』世守が慌てた声を出した。
『おい!世守!どういうことだよ!説明してくれ!』京さんが慌てて質問した。
『京さん頼みがあります。零士くんを連れて車に乗り込んんでください!すぐに!準備が出来たら僕に電話してください!その時話します!僕は伊東さんを追います。』世守はそれだけ言い残し電話をきった。
京と零士はお互い黙って目を合わせ少し経ってから二人は慌てて出かける準備をして店の外に出た。
京はtwilightのドアの看板をOPENからCLOSEにして二人で駐車場に向かって走り始めた。
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