第30話 リオフス
「どういうことだ……」
まだウッパーは負けたことを自覚していないらしい。
ならば何度でも教えてあげよう。
「貴方の負けです」
「ち、違う……負けてない!」
「あんなぶっ刺され方してどう言い逃れしようってんだよ?」
誰が見ても負け。あんなにきれいに刺さることなんて滅多にない。
全く忘れていたがウッパーの連れの男二人も気まずそうに俯いている。
というか、本当に弱いんだな。甕パワー恐るべし……。
世間は俺よりもこいつらをハブるべきなんじゃないのかよ……。
「ちょ、無かったことにしてくれないか……」
「認めるんですね?」
「いや、そういうわけじゃ……」
ウッパーは言葉に詰まる。どう言い逃れしようか未だに迷っている様子。目をきょろきょろさせながら腕を抱える。
「噂! 噂消すから! それで……」
ウッパーは何とかして知恵を振り絞って策をだした。
「ダメだ」
するとウッパーは少し怒った表情をして手を腰にやる。実に反応が分かりやすい。
「へ、へえーん。じゃ、じゃあ、噂消してやんないからな!」
「はぁ」
随分と面倒な事をしてくれたもんだ。
「けど約束しましたよね?」
「知るかよそんなの。いいか、俺は負けてないんだ!」
ウッパーが誇らしげに言う。ダサい。なんかすごくダサい。さっきまですごくヤンキーぽい感じだったのに……。
「まあいいよ。でも、噂は消してくれるんですよね?」
「ああ。いいぜ」
折れた俺に少し嬉しそうな表情をウッパーは浮かべた。
まあ噂を消してくれるだけでいいか。一気にランク上がって全く戦えなくなったらもっと嫌だし。
俺は取り合えずプラスに考えることにした。
リリには先に帰っているように指示し、俺とクリスはウッパーに案内されてとある場所に連れていかれた。
「ここが俺たちのリオフス街だ」
名前そのまんまかよ。という突っ込みを心の中で入れつつ、街一体を眺める。
リオフス街はもちろんオカランド内にある。ただ、オカランド内といっても隅っこの方で、誰も近寄らない場所であることは確かだ。
見た目は案外普通の街だったのが驚きだった。
あと思っていたより大きく、リオフス街には店、宿、酒場などそれぞれの施設もそろっていて、意外と楽しめそうな場所だった。
「じゃあ取り合えずシキブさんとこ連れて行くからついて来いよカス」
いつも通りの口調で俺に話しかける。
リオフス街の大通りを通っていくと、大きめの城らしきものが立っている。
間違えない。ここがシキブの家だろう。
「シキブさーん! お客さんです!」
ウッパーは俺と話していた声とは別人のような声を上げながら、シキブを呼ぶ。
ウッパーは一度こっちを向いて、ギョロっと目を向ける。おそらく、変な真似はするなよ。と言いたいのだろう。
そうしていると直ぐにシキブがドアを開ける。
「おや……あなたは?」
俺たちとは比べ物にならないくらいの大きい体をし、甕ならではのオーラも滲み出ている。まるでハーリーアーサ―と対面しているかだ。
俺は圧力に押しつぶされそうになりながらも細々という。
「サクトって言います」
そう言うと、ウッパーは納得したような表情を見せて、一つ、二つとうんうんと頷く。
「それで、なんの用かね?」
俺はそう聞くと、すぐにウッパーの方を向く。
ウッパーは少し気まずそうにしながらシキブのもとへ駆け寄り、俺たちに聞こえないくらいの声でぼそぼそと耳元で説明をした。
「なるほど、なるほど。でもタダでとはこっちも言い難いねぇ」
俺は冷たい目でウッパーを見ても、ウッパーはしらんぷり。
「ちなみに、どんな要件を……?」
そうだねえ、と、手を顎もとに持っていく。
何でも手に入るくらい金も権力も持っている甕。一体何を求める。
「じゃあ、リオフスに入ってもらおうかな」
「え……俺がですか?」
「そうそう。人数は少ないより多いほうがいいからねぇ」
予想外の提案に俺は頭の中が混乱する。
リオフス……かぁ
確かに街も普通で店もあるし生活には困らないだろう。しかしクリス曰く、リオフスを世間は良い目では見ていない。それはウッパーの俺への絡みからもよく感じ取れる。
噂を消す代償として大きすぎる気がする。
「まあ直ぐには決まらないだろう。明日まで決める猶予を与えるよ。今日はここで止まっていきなさい」
そういうと静かにシキブは去っていった。
ドアが閉まった瞬間、力が抜けたように大きく息を吐き、胸を撫でおろす。
その感情は俺もクリスもウッパーも同じだった。
「んで、どうするサクト?」
「んー。リオフスねぇ」
俺は再び考え込む。
「シキブさんからの誘いを断るとか、お前正気か?」
ウッパーは割とマジな方の顔で言う。
確かにそうだ。ウッパーの気持ちとは多少異なる気もするが、甕からの誘いを断るというのは少し寒気がする。俺が誘ったのに入ってこないなんて最低。とか言って反感を買うということも否定できない。
「誘ってくださってるのに断ったら承知しねえからな!」
ウッパーは鋭い目つきで俺たちを見つめる。
以前の俺たちならこの目つきに、きっと驚いていただろう、ビビっていただろう。しかしそれ以前にこいつはウッパーだ。何も怖くない。
「そうだな」
俺はウッパーの助言を聞き流して宿屋に向かう。
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