第29話 ウッパー

 俺はあれから、クリス、リリと三人で過ごすことが多くなった。


 リリの実力はというと、正直まだまだ変わっていない。


 そしてランクアップ事件から約一か月、新しい進展を迎えることになる。


 俺たち三人は、いつも通り空き地で稽古をしていた。


「ちょっとサクトってあんただよね?」


 そこには男三人が立っていた。


 誰かから話しかけてくるなんて珍しいこともあるもんだな。

 もしかしたらランク戦か?


「そうです」


 少し希望に満ち溢れながら言う。


「あのさぁ、俺とランク戦してくんね?」


 男三人の中の真ん中にいる男が誇らしげに言う。


 というか、久しぶりのランク戦。


「いいぜ」


 俺は久々のランク戦に胸を膨らませた。

 リリ、クリスにも承諾を貰い、男とパスカードを交換する。

 男の名前はウッパー。名前可愛いな。


「ってランク12301位……」


 明らかにランクの差が激しすぎる。

 マックスやピノ、ミミ・ロザリックらとつるんでいるからか、少し低い気もしなくはないが、実際俺のランクと比べると相当なものである。


「げっ! Eクラスとかマジ勘弁! ふはははは!」


 男三人は俺のクラスを見るなり、爆笑しだす。


「笑うのは失礼です!」


 リリが横から口を挟む。


「んだてめぇ。引っ込んでろ雑魚が!」


 ウッパーが怒鳴りつけ、リリを追い返す。

 それに懲りたのか、リリはシュンと小さくなり、一歩二歩と距離を置く。

 けど名前がウッパー何だよなぁ……。

 あんま怖くねえ……。


「それで、なんでこんな差があるのに?」

「誰もランク戦してくれないんだろ? だから俺が戦ってやってやるっつってんの。感謝してよな! フハハハハ」


 態度が悪いな。ウッパーのくせに。

 ランクはあちらの方が上だから何も言えない。


 相手からの誘いだから提示金もいらない。

 断る理由はないかな。


「分かった。感謝する」

「んじゃ、100000Gな」

「はぁ?」


 相手から誘っているのにもこちら側に提示を要求してくる。しかも100000Gとかいうバカげた値段。


「そっちから誘ってきてるんだから提示金は必要ないはずだぞ?」

「うるせぇよ。戦ってやるつってんのに贅沢言うなよ糞が」


 いちいち口悪いなウッパー。


 俺は、これはどうなんだと言わんばかりにクリスに向かって顔を向ける。


 クリスは首を横に振る。


「じゃあいいです」


 面倒なことになるのもごめんだ。ここは断るのが鉄板だろう。


「ちょ、ま、勝負してやるっつってんだぜ?」

「でも、そんな急にランク上げなければいけない訳でもないので」

「いやいや、こんなチャンスないよ? ほんま?」


 ウッパーが強引に言ってくる。セールスかよ。


「本当に大丈夫なので」

「んっ! 待って、50000Gでいい。頼むよ!」


 焦って男は提示額を下げる。


「いや、結構ですって」

「頼む! 金が無いんだよ!」


 やけに変だな。12301位ともなれば、かなりの額を稼いでいるはずだ。

 何か事情があるのか……。


「悪いが……」

「分かった! 分かった……じゃあ、こうしよう!」


 本気で断ろうとすると、それに被せるように男は言う。


「もしお前が勝ったら、お前が今悩んでいる噂を消してやるよ!」

「何?」


 ウッパーから信じられない内容の条件が飛び出す。

 俺が悩んでいる噂というのは、もちろんランクアップ事件の事だろう。


「どうやってだ?」

「えっと、リオフスって知ってるだろ? それで――」

「待って、知らないです」


 そう言うとウッパーは目を膨らませ、明らかに驚いた表情を見せた。


「クリス、知ってるか?」

「もちろん。リオフスっていうのは、大将であるシキブ……って言っても分からないか、ランク8位の甕なんだけど、その人主体で編成されたグループって感じかな。総員数は100くらいしかいないけどね」


 ウッパーは誇らしげにコクリコクリと頷く。


「そうそう。その中でも俺は結構上の地位にいるんだ。だからシキブさんに頼んで噂をかき消して貰えばいいんだよ」


 そうか。権力の大きさからして、甕が噂をかき消そうとすれば簡単かもしれない。


 俺はなるほどと悩ませていると、クリスに肩を叩かれる。何かとクリスの方を向くと、クリスは俺の耳元でこう囁いた。


「待ってよサクト。リオフスってあんまり良いイメージないぞ」

「それはなんでだ?」


 こちら側がこそこそ話しているのをウッパーは不思議に思うが、何も突っ込まずにじっと待つ。


「対してメンバーは強くも無いのに、甕の特権でメンバーのランクを上げているとか」


 なんでそんな行為をする必要があるのかは分からないが、甕ならそれくらいの事はできるか。


「それはつまり、あいつが12301位よりも弱いってことだよな?」

「まあ、そうだけど」

「じゃあ案外勝てそうだな」

「ちょ、サクト……」


 クリスは余り気乗りしていない様子だが構わない。

 確かに噂を消してくれるという保証はないが、またまた一気にランクが上がる大チャンス。ランクが上がれば、ランク戦をしているという風に広まるし、12301位にもなれば、それだけの実力があったという風に解釈されることだってあるかもしれない。


「やるぜ、ランク戦」

「うっしゃ、来いよカス!」


 だから口悪いな。


 クリスももう口出ししてこない様子だ。

 負けたら50000Gの出費。しかし正直魔凶組の時にかなりの額を貰ったからあまりダメージはならない。


 ウッパーは細長い剣を腰から抜く。


 日本刀みたいだなぁ。


 まあいい。


 俺は剣も剣を前に構える。


 その瞬間、ウッパーは俺の方に向かって全速力で走ってくる。


「やばい! まだスキルを――」


 俺はスキルを発動していないと物凄く弱い。もちろんリリよりはマシだが本当に弱い。

 久々のランク戦という事もあり、スキルを発動するのが遅れてしまった。


「おらっ……」


 俺は我武者羅に剣を前に突き刺した。

 もちろん通常、当たるわけない。スキルが発動していない俺の剣のスピードは、遅すぎるからだ。

 さらに全くランク戦をしていない。鈍っているのは確かだ。


 しかしそんな考えをウッパーは裏切ってくる。


「うぉっ!――」


 俺の剣はウッパーの胸を貫いた。


 もしかして俺、強くなってる……?

 とも思ったが、そんなことは絶対にない。


「え、自滅……?」


 少し離れているクリスがボソっと呟いた。


「くそお、痛え……抜けねえええええ」



 えええ……ウッパーよっわ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る