第21話 魔凶の日2

 ハーリーアーサ―に向かって【ダブリングチェンジ】を放った。

 正ハーリーアーサ―は爆風により吹っ飛び、倒れる。


「一撃で……倒せたのか……」


 流石に止められていたため罪悪感はあったが、実際そんなことよりも一撃で正ハーリーアーサ―を倒せたことによる喜びの方が大きい。


「うぁ……」


 やはりピノが言っていた通り、体にかなりの負担が掛かったことが身にしみて感じる。あまり出しすぎると危険だな。そう心の中に潜める。


「……ん」

「お、起きたか」


 ハーリーアーサ―による【ハーリーブラッド】をもろに食らったチェルシーがやっと起きたようだ。


「ハーリーアーサーは?」


 やはりそこを聞いてくるよな。


「あー、まあ倒したよ……」

「……」


 チェルシーは下を向き、唇を噛んだ。


「今回も負けてしまったのね……」

「まあ、そうなるかな……」


 チェルシーはゆっくりと立ち上がり、深くため息をつく。



 あたりは急に静かになった。


「何……」


 チェルシーは余りの違和感に声を上げた。無理もない。あまりにも不自然で不気味すぎる。

 すると急に奥から何かが急激に接近してくる。


「逃げるぞ!」


 咄嗟に俺は声を上げ、反対方向に逃げ出した。だが、不運は重なるもの。反対方向からも物音が聞こえてくる。


「か、囲まれた……」


 草むらの中から、ゆっくりとこちらに向かって歩き出してくる。


「ハーリーアーサ―!」


 物音の正体は正ハーリーアーサ―であった。しかも五体……。二人では倒せられる数ではない。もう一発【ダブリングチェンジ】を放とうものなら、きっと走れなくなるくらいふらふらになってしまうだろう。だがチェルシーも戦えるような状態とはいい難い。


 こうなったら一か八かだ。またやるしかない。


「【ダブリングチェンジ】!」


「はあ、はぁ……」


 正ハーリーアーサーは一体しっかりと仕留めることができた。しかし、思っていた通りかなりの負担が掛かり、立っていることがやっとなくらいになる。


「いっ、一撃!」


 チェルシーは思わず声を上げたが、俺の様を見て現実を見たのか、チェルシーの顔は、また恐怖の顔になっていた。


「くっああああああ!」

「【ダブリングチェンジ】!」


 俺は一心不乱に【ダブリングチェンジ】を炸裂する。


「待って! それ以上やったら体がもたないわ!」


 チェルシーの声が薄っすら聞こえる。けど、止まることなんてできない。どうせこのままぶっ倒れようと、結果は同じだ。


「ダブリング……」


 あれ、声が出ない……

 もう、倒れたのか……


 俺は意識を失った。



「……死んでいない……」


 俺は意識を失い、かなりの時間倒れていた。チェルシー一人じゃ、あとの正ハーリーアーサ―を片付けるなんて不可能だ。じゃあ、誰が……。


「お、お前やっと起きたのか」


 そこには、見たこともない厳つい男が座っていた。


「誰だ……」

「ああー。俺の名前はマックスだ。歩いてたらお前がぶっ倒れてたんでな」

「ハーリーアーサーは?」

「俺が全部やった」


 マックスは、持っていたハンマーを肩に掲げていった。

 言葉も出ない。

 上位生でもない、超位生……。いや、もっと上なのか……。


「何ものだ……」

一応子甕こがめってところだな」

子甕こがめ……?」


 確か8~4位がかめで3~1位が大甕おおがめだったよな……。それで子供の子に甕。つまり甕の子供……。


「もしかして9位だったり……?」

「そうだ」

「……」


 俺は目を丸くして驚いた。ピノよりも上のランクだ。しかも甕に一番近い存在……。なんでこんなところに。


 そう聞いた途端マックスが恐ろしく見えてくる……。


「お前、まだ中位生行ってないんだってな」

「なんで知っているんですか……」

「あー。お前と一緒にいたお嬢ちゃんに聞いたんだよ」

「っ! チェルシーは⁉」


 チェルシーの事をすっかり忘れていた。

 辺りを見回してもチェルシーはいない。


「ほう。チェルシーっていうんか。それなら一旦オカランドに帰るって言ってたぞ」

「良かった……」


 マックスは一旦と言ったが、多分もう戻らないだろう。

 あれほど疲労していた。あの体でもう一度ハーリーアーサ―と戦うのなんて死にに行くのも同然。


「もしかしてあれか? 彼女かなんかか?」

「違います! 同期なだけです!」

「うっそだあ。ま、いいけどな。というかお前、すげえなあ中位生行ってないのに正ハーリーアーサ―を倒せたなんて。大したもんだぜえ」


 それもチェルシーに聞いたのだろう。

 ランク9位から褒められると素直に照れるな。


「ありがとうございます!」


 するとマックスは立ち上がった。


「今からハーリーアーサ―のボスを叩いて、魔凶の日を終わらせてくるわ」

「ボスって! そんなのいるんですか⁉」

「いや、ボス倒さねえと魔凶の日終わらねえじゃねえか」


 初耳だ。

 逆にボスを倒せば、このバカげた数のハーリーアーサーを一から倒さなくても良いのか……。


「じゃあな」

「……」


 俺も行きたいです。その一言が俺は言えなかった。

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